第3話 強いも弱いも
営業から帰ってきた先輩2人に喫煙室へ呼び出された。
数年前までは賑わっていたという喫煙室も、ここ最近の増税の煽りかすっかり人もまばらになっている。
「お前、吸うっけ?」
「いや、全然……」
「だよな」
「すみません」
「じゃ、とりあえず場所だけってことで」
「はい」
「ま、禁煙しないとだしな、俺も」
鳴海は会社の数年先輩で、その生来のマメさなのか、本来だったら一緒に活動するのも不思議なくらいタイプの違う自分のことも、気にかけてくれている、という印象が強い。
「でもさ、誰か居たらまーそんときは他にいかなきゃだろ?」
「そうっすね」
「非常階段とか、寒いから嫌なんだよなあ」
もう一人、不釣り合いに神妙な面持ちで口を挟んだのは、海野だ。鳴海より数年先輩だが、そのノリの良さから後輩の面倒見も良い。ちょっとお調子者なのは否めないが、酒の場でもない限りそれも彼の魅力だ。……入社した頃の歓迎会では痛い目を見たがそのことはあまり考えないようにしている。
「っていうか吸わない松井連れてきてさ、万が一重沼さんに見つかったらどうするよ」
「それはあるんすよねー」
「だろ?」
「そんときはアレですよ、先輩のあの猫?」
「チョビちゃんがなんだよ」
「その写真を見る会とか」
「無理ない?」
「そこは海野さんが無理矢理」
「えー? ま、チョビちゃんは可愛いけど……」
自分が発言しなくてもスムーズに会話が流れることに少し安心する。この二人のある種の気の使わなさが、僕がこの会社に居られる理由のひとつだと思う。
「可愛いと言えばさ、今日もあの二人、可愛かったですよねー」
「出た、鳴海のファッションチェック」
「コミュニケーションですよ、コミュニケーション」
「ちょっと、わかんねーけどさ、そういうの。でもお前うざがられてない?」
「ええ、そうですか?」
二人、というのはバイトで来てくれている大学生の女の子たちだ。「そういうの、セクハラになりませんか」そう言いかけて、諦める。
「楽しい会話」を僕が遮ると思うとそれも悪い気がする。彼らの長所が時々こうやって短所へと翻る。僕は、彼らの事が、好きで、また、同時に、嫌いだ。
「どう思う? 松井」
「え。」
「うざがられてるかな? 俺」
「や、わかんないですけど……」
「はい」、とも「いいえ」、とも言えなかった自分の弱さと、都合のよさ。結局自分も彼らと同じような気がする。なにが、とはうまくいえないけれど。
小説版『カザカミ』 木村 @kazakami
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