第2話 消える
同期が休職したそうだ。
それを朝礼で知った時、思わず、「なんでですか?」と問いそうになった。けれど、ここで余計なことをして変に注意されたりするのも嫌で、結局何も言えずにいた。
確かに、このところ会社を休んではいた。けれどそれは「インフルエンザ」だったはずなのだ。休職だなんて。
確かに長引いていたようにも思う。けれど治ったら戻ってくる、そう思っていたし、昨日は「もう治った?」なんて聞きたいと思って電話も入れた。……彼女は、出なかったけれど。
「気にしてる、よね?」
デスクで問われた。もちろん、気にしている。気にしていないわけがない。でも、なんとなく、自分が気にしているのは、彼女が何も言わず急にいなくなってしまったような気がしていたことだ。人はこういう風にしていなくなってしまうんだろうか。自分もいつか、こういう風に急に、コミュニティから居なくなってしまうんだろうか。
彼女が休んでいたこの10日、彼女の仕事は主に自分に割り振られていて、引き継ぎの手間はそんなに無かった。もちろん、二人分の作業なのだからその分量ときたら絶望的だ。
それこそ、彼女の代わりに取引先に行っていたまさにその間に、彼女はここへ来て、そして、休職していたようなのだ。
入社時、何人かいた同期たちも次々去っていき、いつの間にか、僕と彼女2人きりになっていた。たまたま、気が合っていたので色んな話をした、と思う。気が合うなんて思っていたのは僕だけかもしれないけれど。
だって、彼女は急に居なくなってしまったんだから。
近くに居たはずだった。なのに、何も気づけなかった。そんな想いばかりがよぎる。何も出来なかった。今回も。
「松井、あとでちょっといい?」
考え事をしてつい手が止まった、その瞬間に届いたメッセージアプリの通知が目に入った。先輩社員の鳴海だ。
「え、なんですか?」
「早川のことで、ちょっと」
「え、なんですか?」
「ま、後で」
「はい」
予想していなかった同期の名前に不穏な予感がよぎった。その予感を振り絞るようにメッセージアプリの画面を閉じ、仕事に戻る。手を動かさなければ。そうすればきっと忘れられる。
世界から音が消えたような気がした。このまま、何も感じずに済んだらいいのに。
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