第28話 ~アリスの策略~
「……ミネ!アマミネ!」
誰か呼んでるな……だが、まだ眠い。
起きるわけ……
「起きろ!!」
「グハッ!」
起きるのではなく起こされた……
寝とる奴の鳩尾を殴るとか人間としてどうなんだ。
「やっと起きた」
「何がやっとだ、強制的に起こしやがって」
「全然起きないからよ、ほら支度して」
「はいはい」
といっても、テントも布団も全部アリスの私物なので僕がどうこうする必要はない。
なので、自分の鞄と剣だけ持って先にテントを出る。
後ろで片付けているアリスの手伝いはしない、何時もの仕返しだ。
取り合えず眠気を飛ばすために川に顔を洗ってくる。
「何処行ってたのよ」
「川」
「そう……あれ?そんな剣貴方持っていたの?」
自分が抱いていた剣と大分違うので流石に気づくか。
隠す必要はないので、スキルもろとも全て説明しておく。
聞き終わったアリスはさして興味も無いのか「ふーん」とだけ言い話を終わらせた。
「さて今日中にラクトル鉱惨を抜けるわよ」
「400㎞もあるのに一日で抜けれるわけがないだろ」
東京から三重あたりまでだぞ。
車で高速のっても五時間は掛かる、そんな距離を歩きで一日とか……アホとしか思えない。
「……なるべく早く抜けるわよ」
「あぁ」
眉間にシワを寄せながらも訂正したアリスに、心で称賛を浴びせながらラクトル鉱惨へと足を入れる。
雑草がそこらかしこに生えているこっち側と違いラクトル鉱惨の方は草木が何も生えていない。
まぁ鉱惨だから仕方がないか。
特に会話をする必要が無いので終始無言のままだ。
「来た……」
「何がだ?」
「アマミネ、そこ危ない」
「え?何言って……ドゥワ!!」
頭を傾げていると、何かが僕に向かって飛んできた。
地面から飛び出し……いや地面から飛んできた石に危うく胴体直撃を食らうところだった……
てか石だよなあれ……
「現れたわね」
「アリス、あれなんだよ」
「何ってモンスター化した石よ」
「無機物でもモンスター化するのか?」
「正確には魔石ね、ここは地中に魔力溜まりっていう魔力を貯蔵した空洞があるの、そこから染み出した魔力を取り込んだ石を魔石と呼ぶ」
「つまり、この辺り一帯の石はほとんど」
「モンスターよ、と言いたいけど攻撃してくる時までモンスターか普通の石か見分けつかないのよね、だから攻撃を避けようにも間に合わない場合があるのよ、まぁ一回飛んできたらもう暫くは飛んでこないと思うから安心して」
「まったく安心できる要素がないんだが」
「大丈夫よ、魔力を持ったと言っても所詮は石、攻撃一回で魔力は底につくわ、時間が経つと回復はするけど」
「全身に強化魔法掛けておいた方が良いな」
「……えぇ、頑張って避けてね」
まるで自分には攻撃が当たらないので心配はいらない、と言われる感じの激励だった。
疑問に思ったが、アリスが先にあるきだしてたので聞くのを止めついていく。
――――――――――――――――――――――――
「どうなってる……」
「何がよ」
「何がじゃねぇよ、何で僕だけ攻撃がグッ!くるんだグッ!よ」
あぁ鬱陶しい。
最初の方は避けれたし壊せたが時間が経つ毎に、飛んでくる石の速度が急激に上がり、攻撃するどころか避けるのでさえ不可能になってきた。
なので、今は魔力のほとんどを強化の方へまわし当たる前提で歩いている。
いくら強化しようが普通に痛い……しかも何故か腹部中心に飛んでくるし。
だから強化は、頭2胴体6下半身2、と分割して強化している。
我ながら器用になったものだと感心しつつ、一つも傷が付いていないアリスに話し掛ける。
「当たり前よ、貴方は魔力使いすぎよ」
「使いすぎだと?グッ」
「えぇそうよ、普通考えてもみなさい、視力、聴覚、そもそも感覚器官を持ち合わせていない石がどうやって私達を認識しているのか」
知るわけが無い。
もはや考える気さえ起きない僕にアリスは言葉を続ける。
「モンスターには私達と違って魔力を感じ取れるのよ」
「感覚あるじゃ「それで私達の居場所を感知して攻撃しているのよ」」
僕のツッコミは無視され、そう言葉を続けられる。
「つまり、僕が強化すればするほど石は飛んでくると」
「その通りよ」
「でもお前が攻撃されない理由にはならないだろ」
「アマミネ、例えば町中を歩いていて一人は派手めな服、一人はフードを被って質素、貴方なら先にどっちの人に目がいく?」
「なるほど」
強化しすぎてアリスの魔力に気づく前に僕の魔力に気付き攻撃してくると……
なら解けば均等に攻撃される。
「解けば良いとか思ったでしょ」
「そんなに分かりやすいか?」
「えぇ、でも止めた方が良いわよ、解いたところで貴方の動体視力じゃ避けられないし、強化なしだと壊せない、でも視力やら筋力やら強化すれば貴方に攻撃が集中する、ついでに言うと私は貴方より魔力が少ないから狙われる心配はない」
結局今の状態を維持しろと言うわけか。
なるほど、他人に激励出来る余裕はここから来ているのか……僕を囮にしやがって。
「さぁ行くわよ」
「絶対お前は地獄に落ちる」
「奇遇ね同感よ」
この野郎、と殴りたいが下手に手を出すと石が霰の様に飛んでくるからな。
僕は諦め強化魔法をバンバン使い道を進んでいく。
辺りが暗くなり、そろそろ魔力に限界を感じ始めた頃アリスの足が止まる。
「どうした」
「さてここら辺で野宿するわよ」
「……」
こんな所で野宿とか死ぬ未来しか見えない。
僕がまだ生きている理由、どんな石でも一回しか攻撃してこなかったから。
だが同じ場所に居続けると言うことは、石が回復する度に永遠と攻撃を食らい続けるのと同じことだ。
「お前は人間じゃない」
「何を考えているか分かるのも考えものね、大丈夫よ貴方が思っているような事は無いわ」
「根拠は」
「私が魔力の籠った頑丈なゴーレムを精製して置いておくから」
「なるほ……おいちょっと待て最初からそれ出し「《錬成魔法・ゴーレム魔》」」
「これで良いわね」
「だからそれを最初から使っ「テント張るの手伝って」……分かった」
アリスの惚けた感の顔に、無駄だと判断した僕は大人しくテントを張ることにする。
カンッ!カンッ!……カンッ!
どんだけ固いんだよ……
ゴーレムに当たった石はどれも金属音を上げその場に落ちる。
石と土塊とは到底思えない光景だな……
「さ、早く寝て出発するわよ」
「飯はどうするんだよ、あんだけ歩いたんだ流石に腹か減ったぞ」
それに朝も昼も水分以外は何も取っていない、と言葉を続けると何故か呆れ顔を作ったアリスは鞄から手のひらサイズの干し肉を渡してきた。
「……どうも」
「とても感謝している人の顔に見えないけど」
失礼だな、僕は元から眉間にシワが寄っている。多分……
「味わって食べなさいよ」
「分かった」
「既に半分になっているけど……」
「美味しくて気付いたら無くなっていた」
「……そう」
怪訝そうな顔で見られても本当の事だ。
干し肉は柔らかく癖になりそうな塩加減と、燻製された様な薫り、これで食欲注がれない奴はいない。
「まぁ良いわ、おやすみアマミネ」
「あぁ」
それぞれがテントへ向かう……
自分のテントに入り疲れた体を休ませるため横になる。
思ったより疲労が溜まっているらしい、自然と瞼が落ちてくる。
そして数秒と待たず夢の世界に旅立った。
――――――――――――――――――――――――
カンッ!!カン!!カンッ!!
響きの良い金属音と共に目を開ける。
良い目覚めとは良いがたいがあれがなかったら自分の命が危ないと思うとありがたく思える。
テントを出ると珍しく早起きのアリスの姿が無い……
「まだ寝てるのか?」
不本意だがいつまでも寝てるわけにはいかないだろう。
殺さ…殴られる覚悟を持ってアリスのテントのチャックを開けていく。
「アリス起き……ろ?」
中にはベットの上に布団を引いて寝ているアリスの姿があった。
意図は不明だが、これで僕のテントに布団が無い理由は理解できた。
夜に取り行こうと思ったが疲れていたので止めておいたのだ。
「おいアリス起きろ」
死の…半殺しの覚悟を持ってアリスのからだを揺さぶる。
反応はしているが起きてくる気配はない。
「アリス……おはよう」
耳元で声を掛けてみるが、「うぅん」と教育上良くなさそうな声が出てきたので即中止した。
そうやって試行錯誤をしながらアリスを起こそうとしていくが当の本人は夢の世界から中々帰ってこない。
時間に任せる、と諦めたその時に自分の腕に痛みが走った。
「何してるの?アマミネ」
「起こしに来たんだよ」
「ふぅ~ん」
明らかに誤解されている視線を感じながら、用は済んだのでテントから出ていく。
「さて出発するわよ」
身支度が済んだアリスがそう口にする。
意気込むアリスに僕は近づき質問する。
「何で僕の布団抱いて寝てたんだ?」
「ッ~!」
「どうした?」
「う、」
「う?」
「五月蝿い!」
強化版アリスの右ストーレートを強化無し肉体で受けた僕は数メートル吹き飛ぶと地面に伏した。
それから数十分後、僕たちは無事に出発を果たしたのであった……無事ではないな。
色欲の加護を持った高校生の異世界物語 薄 リキ粉 @Alone-Reserved
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