第3話 バスケ部 サキ(高1) 前編

 またむなしくリングにはじかれたバスケットボールをサキは見つめていた。


(私には才能がない。スター選手が言う『才能がない分、努力でうめられる。』なんて、成功した人だから言えることなのかも・・・。)


 だれもいない体育館で一人、サキは、うつむいた。足元に転がってきたボールがつまさきで止まった。ボールにサキの顔からしたたり落ちるしずくがあたる。


(中学の頃が一番よかったな。)

 サキは、中学生のときに女子バスケ部の中心選手として、活躍していた。中1のときからポイントガードとして、同級生からはもちろん、顧問やコーチ、先輩からも頼りにされていた。中2の夏に3年生が引退すると、チームの司令塔として、キャプテンとして、みんなを引っ張ってきた。県の大会でも優秀選手の一人に選ばれた。順調に来ていたサキだったが、高校では大きな壁にぶつかった。


(この高校に来るんじゃなかった。)

 そんな後悔もしている。

 中3の進路を考えているとき、県の中でも強豪きょうごう校として知られる高校から声がかかり、サキも中学のときの実績じっせきで自信をつけていたので、それへ進んだが、うまくいかなかった。中学のときこそ、そこそこのチームにいたから目立っていたが、強豪チームの中では、ありふれた部員の一人に過ぎなかった。周りには、同級生とは思えないほどうまい部員がたくさんいた。ドリブルの技術、パスを出すタイミング、ゾーンの使い方、どれをとっても自分は負けていることを自覚しないわけにはいかなかった。


 3年間続けたって、レギュラーをつかむなんて、雲をつかむような話だ。ベンチに入ることもできず、引退するんじゃないか。そんな想いが心をめるようになっていった。


 自信のなさは、プレーにも表れる。サキは先週の日曜日、1年生だけで行う練習試合に出してもらったが、中学のとき得意だったフリースローさえも何度も外した。コーチからは、

「顔に暗さがある。バスケを心からたのしめていない。そんなやつは、何百本シュートをうっても入らん。」

 と言われて、その場で涙してしまった。くやしさもあったが、バスケを愉しめていないのは、自分でもわかりすぎるほどわかっているからだ。


 だが、部活には、その後も出ている。まだ完全にはバスケに背を向けてはいない。心のどこかにバスケが好きだという思いがある。だから、今日は、みんなが帰ったあとに少し練習していこうと思った。かぎ当番でもあるから、最後に体育館を閉めればいい。下校までの間、フリースローの練習をしようと思った。


 だが、何本うっても外れる。たまに入ったかと思うと、それは、とてもあぶなっかしいゴールで、自分では納得できない。ついに、サキは、うつむいて涙してしまったのだ。


(私は、これで限界。来週、顧問の先生に退部届けを出そう。)


「もう一本うってみたら。」

 そのとき、体育館のすみから声がした。サキは、ハッとした。体育館の男子バスケ部の部庫ぶことびらにもたれかかって、こっちを見ている長身の男子がいる。ショートの髪、日焼けした顔で、サキの姿を見ていたのは、3年の佐々木シュンだった。


(あっ。。。佐々木先輩。。)

 サキは、戸惑った。佐々木と言えば、男子バスケ部のレギュラー、しかも主力で、インターハイ出場に向けての原動力げんどうりょくと言われている選手だった。


「あの・・・。」

 サキは、何をしゃべったらいいか分からなかった。


「うってみたら、フリースロー。」

 佐々木が、こっちに向かって歩いてくる。佐々木のバッシュ(※)が鳴る。

(※ バスケットボールシューズ)


 サキは、体育館にひびく佐々木のバッシュの音と自分の心臓の音が一緒に聞こえてくるようなみょうな感覚におちいった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

20の部活恋物語 夕鶴(ゆづる) @kawa2015

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ