第2話 テニス部 カナ(中2) 後編

「カズマに聞いたんだよ。お前、そんなんで中体連ちゅうたいれん勝てんのかよ。あっという間に夏が来るぞ。」

 ちょっときつい表情をして、ケイタはカナを見た。ケイタの親友・カズマは、女子テニス部のミサトと仲がいいから、それ伝いで聞いたんだろう。


「だって、私がちょっとぼうっとしてただけで、ミノリが、もうダブルスやめたいとか言ってきたから・・。」

 カナは、自分も悪いと思っている。自分に真剣さが足りなかった。練習中にぼうっとしてしまった原因も、自分では分かりすぎるほどに分かっている。


「お前、練習中に男子のコートばっかり見てるからだろ。好きなやつでもいんのかよ。」


 カナは、顔が真っ赤になっていくのを感じた。冬の寒さも忘れるほどに熱くなってきた。ケイタに気取けどられないように、うつむいた。でも、ここで言わなければ。いつまでも、もやもやのまま練習していたら、ミノリにも、二人のケンカを心配するケイタにも迷惑がかかる。そして、何よりも自分の想いを伝えなければ、自分が前に進めない。


 カナは、立ち止まった。ケイタも止まる。顔を上げたカナは、ケイタをまっすぐ見て言った。

「・・・好きな人は、ケイタだよ。付き合ってよ。」

 カナにとって、この歩き慣れた道の上だけではない、世界中で今、ケイタと二人きりになっているような感覚におちいった。


 次の瞬間、ケイタは、カナの左手をつかむと、カナを引っ張っていくように学校の方へ走った。


「痛たた。どこ行くのよ?」

 カナは、ケイタに連れられるまま足を動かしていたが、なんだか幸せな気分でもあった。もうすっきりした。ケイタの返事がどうであっても、自分の想いを伝えられたのだ。今、二人で手をつないでいるだけでいい。これ以上は望まなくても。


 いつの間にか、女子テニス部のコートに着いていた。目の前には、ミノリがいる。

「どうしたの?カナ、ケイタ。手なんかつないで。」

 ミノリは、目を丸くしている。状況がのみこめていない。それは、カナも同じだ。


「ミノリ、すまん。おれのカノジョが足引っ張るようなことして。よく言っておくから、二人のダブルス、また息の合ったところ、見せてほしい。」


(カノジョ?今、カノジョって言った?)

 カナは、ケイタが何を言っているのか、これがさっきの返事なのか、二人を仲直りさせるための言葉なのか分からない。


「カナ、いつから、ケイタと付き合ってんの?」


 笑顔で問うてくるミノリにケイタが答えた。

「さっきだよ。さっき来るとき。」


「ほやほやじゃーん。でも、これでカナが、男子の方を見て、ぼうっとすることもなくなるかな。練習終われば、いつも一緒に帰れるし、休みの日も一緒にいたらいいし。」

 ミノリは、喜んでいるようだ。


「ミノリ、ごめん。これからは、練習に集中して、迷惑かけないようにする。」


「次は、3年生。最後だし、一緒に中体連で勝ち上がるって決めたもんね。これからもよろしくね。」


 カナは、その後始まった練習で、ミノリとのダブルスの連携がケンカをする前よりも良くなっている気がした。


 部活からの帰り道、ケイタに一緒に帰ろうと誘われたカナは、きいてみた。

「さっきの私がカノジョって話、マジ?」


「マジ、マジ。おれがうそついたことある?」


 ケイタから伸びてきた手がカナの手を握った。ケイタの手は、学校へ向かうときに握られたその手よりも、あたたかい気がした。

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