20の部活恋物語

夕鶴(ゆづる)

第1話 テニス部 カナ(中2) 前編

「お母さあん。今日、部活行きたくない。」

 母が早起きして作ってくれたお弁当を前にして悪いとは思いながら、カナはつぶやていた。キッチンまでおりてきて、朝ご飯は食べているが、どうしても部活に行って楽しくテニスをしている自分が想像できないのだ。


 最近、部活が面白くない。一週間前にダブルスを組んでいるミノリと、練習中に些細ささいなことで言い合いになってからというもの、部活に行ってもお互い気まずい。準備運動で二人一組になるときも、形ばかりの動きで済ませているし、練習中も大きな声だけど気持ちは入っていない、言葉のかけあいで終わってしまう。声は掛け合わないと、「声、出るよね!」と顧問の先生や先輩にどやされるからだ。


 母は、もう出勤した父や、大学の図書館へ行った兄の皿を洗いながら、ふり向いた。

「冬の部活は、行く前は気持ちが乗らないものだよ。行って、みんなと動いてたら楽しくなるよ。」

 背中を押してくれるために言ってくれた言葉だと思うけど、カナの悩みへの助言からは、ずれていた。


 カナは、ますます気がふさぎ込んでうつむいた。そんなとき、玄関のインターホンが鳴った。母が出ると、モニターから聞こえてきた声は、二軒隣にけんとなりの家のケイタのものだった。

「おはようございます。カナ、いますか?じょテニも今日部活ですよね。迎えに来ました。」

 ケイタの声が聞こえた瞬間、カナは、はっと顔を上げた。ケイタとは幼なじみで、同じ中学の2年生。クラスも同じだ。そして、ケイタは男子テニス部だった。


 カナは、練習のとき、いつもケイタたち男子テニス部のコートが気になっていた。気になる原因は、ケイタにある。ケイタは決して男子の中ではうまい方ではない。でも、どんなに厳しいボールが来ても、体勢をくずしてでも必死に打ち返そうとする姿が印象的だった。仲間への声かけも人一倍するし、休憩中は、仲間を笑わせることもあるムードメーカーだ。そして、また練習が再開されると、キッと表情が変わり、プレーに集中する。そんなケイタをカナは、いつも目で追っていた。


 この朝、ケイタが迎えに来てくれた理由は分からないが、カナは心のどこかでうれしい気持ちが顔をのぞかせていた。

(でも、なんで今日に限って迎えに来るのよ。)


「カナ、ケイタ君が来てくれたわよ。今日は、体調悪いって言った方がいい?」

 ちょっと母は、にやにやしながら言った。


「・・行くよ。学校に着くまでに宿題のこととか、ききたいんでしょ。普段から授業で寝てるからいけないのに。」


 体操服に着替え、お弁当を持ち、玄関から出ると、ケイタは笑顔で待っていた。夏の練習で、すっかり日焼けした顔は、冬になっても小麦色だ。


「おはよ。今日は何なの?いつも私より先に部活行って自主練してるでしょ。」


「ちょっと話しながら行こうと思ってさ。」

 二人は歩き出した。歩きながら、カナは、ケイタと二人きりの時間があることがうれしいようでもあったし、地元の人や他の部活へ行く同じ学校の生徒から見られるのが気恥ずかしくもあった。


 カナの家から少し行ったところで、急にケイタがぽつりと言った。


「おまえさ、ミノリと・・・けんかしてるんだって。」


「なんで知ってんの?」


 カナは、ケイタの次の言葉を待った。

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