幽霊の視える街角で SINGLE
水谷一志
第1話
一
「わあ~。ここのウィスキー、本当においしいですね!」
「でしょ?美南(みなみ)さんはウィスキーが好き、って聞いていたんで、是非、ここのレストラン、一緒に行きたいと思ってまして…。」
「ありがとうございます!今日は、私の人生、最高のクリスマスイブです!」
「そんな、大袈裟な…。
でも、僕も楽しいです。ありがとうございます!」
私、小山美南(こやまみなみ)には、自慢の彼氏がいる。
名前は、桜谷翔(さくらたにしょう)さん。年齢は、私より5つ年上の、30歳。ちなみに彼は、大手銀行に勤めている、エリートサラリーマンだ。それに彼は、背が高くて、顔もイケメンで、いやそれだけでなく優しくて、気も利いて…。
いや、彼のいい点を挙げ出すとキリがないので、あと、バカップルだと思われたくないので、この辺で止めておこう。
そんな私の彼氏、翔さんとの出会いは、これまたロマンチックなものである。クリスマスイブから数えて、約3ヶ月前の9月の終わり、私は迂闊にも、地下鉄の駅の構内で、携帯電話を落としてしまった。(ちなみに、私には昔から、こういうおっちょこちょいな所がある…のだが、これ以上は恥ずかしいので黙っておこう。)
直後に私がそのことに気づき、構内で携帯電話を探し回っていると、突然、見知らぬ男性から、
「すみません、これ、あなたの携帯ですか?」
と、声をかけられた。
「…はい、そうです。すみません。携帯、落としちゃってたみたいで…。ありがとうございます!」
私はこう答え、彼を見上げた瞬間…、
彼に、一目惚れをしてしまった。
『何、この人、超イケメンなんだけど!』
私が心の中でそう呟くと、何と何と、驚いたことに、
「あの…、すみません。いきなりで失礼だとは思うのですが…、
あなたの連絡先、伺ってもよろしいですか?」
と、彼の方から、アプローチをされたのである。
その後程なくして、私たちは付き合うことになった。そんな運命的な出会いから、はや3ヶ月…。世間一般には、
「3日、3ヶ月、3年…。『3』のつく区切りの時に、カップルは別れやすい。」
と言われているが、私たち2人はとっても仲良しで、そんな心配は皆無だ。
「でも私、ウィスキーは好きなんですが、シングルでしか飲めないんです…。実は私、お酒には弱くて。」
「なるほど。僕は比較的、お酒は大丈夫な方ですが…。」
そう言う翔さんもウィスキーが好きで、またお酒に強くて、私がシングルでちびちび飲んでいる間に、ハイボールから入り、オン・ザ・ロックス、ホットウィスキーなど、何種類かの飲み方で次々にウィスキーを飲んでいた。
「確かに翔さん、お酒には強そうですが…、でも、そんなに飲んで大丈夫ですか?」
「大丈夫ですよ。何せ今日は、美南さんと過ごす特別な日ですから。」
「もう~そんなこと言っても、何も出てきませんよ!」
「分かってます。僕は、美南さんと一緒にいられれば、他に何も要りません。」
彼、翔さんは、そんなキザな台詞もよく似合う、いい男だ。
「ちょっと、急に止めてくださいよ!
でも、私の他に…、ウィスキーは要るんじゃないですか?」
「…そうですね!」
私たちはこう冗談を言い合って、笑った。
またその日は、いわゆるホワイトクリスマスイブで、外には、雪がちらついていた。そんな寒空の下、私たちは、最高にロマンチックな一時を、過ごした。
「ああ~本当にイブの日は、楽しかった!やっぱり翔さんって、素敵!」
「何だよ。またノロケ話かよ。」
「悪い~。
言っとくけど翔さんは、あんたなんかと違って、顔も性格も、超いいんだからね!」
「はいはい。それは悪かったですね!」
「分かればよろしい!」
12月26日。私は、自分の職場である、知的障害者の通う施設に、出勤していた。そして、私と同い年の同僚、折川哲人(おりかわてつと)と、休憩時間に話をしていた。
ちなみに、私の職場、川北園には、知的障害者の園生が、月曜日から金曜日まで、通って来る。もう少し詳しく説明すると、川北園は通所型施設なので、利用者(障害者の園生)の泊まりの支援はなく、私たちは日中の時間、レクリエーションや軽作業を利用者と共に行い、引率をする。そして、1ヶ月に1度くらい、外出行事があり、利用者と一緒に旅行に行くなどの、支援も行っている。
そして何より、私はこの仕事、利用者と一緒に過ごせる仕事に、大きなやりがいを、感じているのであった。
話を哲人に戻すと、哲人は、私と同じ支援員(さっき言った業務をする職員を、こう呼ぶ。)で、同期の職員だ。そして哲人は、顔は悪くはないのだが、(と言っても翔さんには到底敵わないが)背は私と同じくらいと、男性にしては低い。そして、性格の方は…、悪くはないのだが、少々がさつな所が見受けられる。まあ、何はともあれ、哲人は翔さんに比べると…、何倍も見劣りする、(と私が勝手に思っている、)男の子であった。
「まあ、美南にも彼氏ができて、良かった良かった!」
「何よその上から目線!哲人あんた、私の親にでもなったつもり?」
「まあ親とまではいかないけど、精神年齢は俺の方が上だからな!」
「何それ~。翔さんだったら、絶対にそんなこと言わないんだからね!」
「はいはい。分かりましたよ!」
哲人と話をしていると、いつもこんな感じになる。まあ、私たちは、汚い言葉もお互いに言うけれど、それはそれで、仲のいい証拠なのかな、なんて、私は勝手に、思っている。
(そういえば、仲のいい証拠、と言っては何だが、私たちはお互いを、「哲人」「美南」と、下の名前で呼び合っている。)
「で、お前らまた、デートにでも行くのか?」
「うん。まあ一応、元日に初詣に一緒に行く予定だけど…。
でも何か翔さん、乗り気じゃなかったんだよね。」
「えっ、どういうことだよ?」
「何かね、初詣に行くことには賛成らしいんだけど、行き先が嫌らしくって…。一応私、恋愛成就で有名な、西神社に行こう、って言ったんだけど、
『そこはちょっと…。美南さん、行き先、変えませんか?』
って、言われちゃった。でも私、絶対そこに行きたかったから、翔さんに猛プッシュして、結局西神社に、行くことになったんだけど…。」
「へえ~。何でだろうな?」
「分かんない。まあでも、最終的にはOKしてもらって、
『じゃあ、元日楽しみにしています。』
って、言ってもらったから…。」
「そうなんだな。じゃあ、楽しんで来いよ!」
「うん、ありがとね!」
今年もあともう少し。私は、翔さんとの初詣を、心から楽しみにしていた。
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