第5話
五
「ついに、美南さんに正体がばれてしまいましたね。
僕は、霊は霊でも、生き霊です。だから、『桜谷翔』という人間は、この世に存在したことはありません。
あと、これで僕が西神社に行きたくなかった理由も、お分かりになって頂けたかと思います。
僕は、生き霊ですが、本当に、美南さんのことが好きでした。だから、美南さんと離れたくなくて、別れたくなくて…。
あらゆる種類の霊を成仏させる、西神社には行きたくなかったんです。
でも、僕は今、こうも思います。
これ以上、美南さんを引き止めておくわけにはいかない。僕は、幽霊だから、美南さんを幸せにすることは、できない。だから…、
僕は、美南さんとお別れしないといけません。
美南さん、今まで本当に、ありがとうございました!幽霊の僕を、ここまで楽しませてくれて、ここまで好きになってくれて、僕は本当に、感謝しています。
だから…、
さよなら、美南さん。
あと、言い忘れていましたが、僕の『生き霊』を作り出したのは、ある人物、美南さんにとって身近な人物です。その人物は、男性で、美南さんのことを本当に、好きでいる人物です。
僕は、その人なら、美南さんのことを任せられると思い、身を引くことに決めました。
これで、僕との交信も、終わりですね。最後に、『ありがとう』を直接美南さんに伝えることができて、本当に良かった。
これで、正真正銘の、『さよなら』です。
では、失礼します。」
翔さんとの交信を終えた私は、おばあさんの小屋を出て、走り出していた。
今まで、どうして、気づかなかったんだろう。
どうして、見過ごしていたんだろう。
私の心の中は、翔さんとの交信を終えた直後、ある「あいつ」への想いで、支配された。
『翔さん、私も、翔さんのことが大好きでした。
翔さんと過ごした時間は、かけがえのないもので、私にとって、大切な想い出です。
だから、さよなら、翔さん。
それと、私、気づいたことがあります。今まで、ずっと気づかなかったんですが…、
私、『あいつ』のことが好きです。
『あいつ』は、翔さんと違って背は高くないし、気も利かないし、ちょっとがさつな奴です。
でも私、気づいたんです。そんな『あいつ』との他愛もないやりとり、どうでもいい会話が、私にとって、本当に大切なものだったんだ、って…。
だから翔さん、ごめんなさい。これからはその『あいつ』と、幸せになります!
最後に、今まで本当に、本当に、ありがとうございました!』
私の想いを、私はどれだけ、翔さんに伝えることができただろうか。本当に、翔さんには、感謝してもしきれない。
そして、私の足は、私の職場、川北園の方に向かっていた。本当は、
「今日は風邪で休みます。」
と言っていたので、職場には行きづらいのであるが、そんなことは、今の私にはどうでも良かった。
私には、今の自分の素直な想いを、伝えたい人がいる。
それを、「あいつ」に、伝えないといけない。
そして、私は川北園の玄関を勢いよく開け、休憩中の職員室の中に入り、こう叫んだ。
「哲人!」
それは、私が本当の幸せを見つけた、瞬間であった。 (終)
幽霊の視える街角で SINGLE 水谷一志 @baker_km
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます