第2話

 「あ、鳥居が見えて来ましたね!それにしても人、多いですね…。」

「そうですね…。」

 1月1日、元日。私と翔さんは、西神社まで、初詣に来ていた。

 その日は雲一つない快晴であったが、1月ということもありとても寒く、私と翔さんは、それぞれコートを羽織って来ていた。(一応、ペアルックではないが…。)そして、2人ともニットの手袋を履いており、その上から、2人は手をつないでいた。

 そのニットの上からでも、翔さんの手の温もりが、伝わってくる。いや、手だけではなく、心の温もり、心の繋がりも、私たち2人の間には、確かに存在する…、おっと、またノロケ話になりそうだ。

 まあ、そんなこんなで西神社までやって来た2人であったが、肝心の翔さんは、やはり、乗り気ではないらしい。

「翔さん…、どうかしました?」

「いえ…、

 でも美南さん、やっぱり行き先の神社、変えませんか?」

「えっ、でもせっかくここまで来たんだし、行きましょうよ!」

 …やっぱり翔さんは、西神社には行きたくないらしい。

 ちなみにこの西神社は、恋愛成就で有名だが、実はもう1つ、有名なあるウワサがあった。

 それは、

「幽霊の参拝、お断り。」

というものである。

 何でも、この西神社の鳥居を幽霊がまたぐと、どんな種類の幽霊であれ、強制的に、成仏させられてあの世に連れて行かれるらしい。

 …まあ、基本的に幽霊なんて信じていない私には、縁のない話だが…。

 「いやでも、ここ、人が多すぎますよ…。僕、人ごみは得意ではないので…。」

「そんな、この時期はどこに行っても、人は多いですよ!

 ほら、行きますよ!」

そう言って私は、嫌がる翔さんの背中をぐいと押して、鳥居の近くまで、行った。

 ちなみに、翔さんは全体的に筋肉質で、コートを羽織っていても、そのことが背中を触ると分かる。何でも、翔さんは学生時代、サッカーをしていたそうで、今でも仕事が休みの時は、フットサルで汗を流しているそうだ。

 そんな翔さんの鍛え上げられた背中にウットリしながら、私は翔さんと一緒に、鳥居をまたごうとした。

 そして、2人で鳥居の下を、くぐった瞬間…。

 翔さんが、消えた。

 …その瞬間、私の目には、翔さんが何かを言い残している、そんな風に見受けられた。そして、眩い光に包まれて、翔さんは、いなくなってしまった。

 また、驚いたことに、そのこと(光の件)を、他の参拝客は誰も、気づいていなかった。

『これって、一体…どういうこと?』

 そう思った私は、(なぜか)とりあえず神主の人に相談すれば、何か分かるかもしれないと思い、人ごみをかき分けかき分け、猛ダッシュして、境内の、本殿へと向かった。

 その時、

「何、こいつ、順番抜かししてんだよ!」

という、若いお兄さんの声も聞こえてきたが、そんなこと、今の私には、どうでも良かった。

 そして、私は、本殿に何とかたどり着き、

「あの、すみません!」

と、無理矢理受付っぽい巫女さんに話しかけ、

「ここの、神主さんはいらっしゃいますか?」

と、質問した。

 「あ、はい。今から呼んで来ます。

 実は、今、神主の方、あることで人を待っておりまして…。

 おそらく、あなたのことですね。」

そう言われ、きょとんとした私を尻目に、巫女さんは神主さんを呼びに行った。

 そして程なくして、神主のおじいさんが、やって来た。

 

 「初めまして。あなたが私を呼んだ方ですね。

 うちの巫女の方から、話を伺ったのですが、少し、びっくりされたかもしれませんね。すみません。

 いや、実はさっき、この神社から、成仏した幽霊が、いまして。

 ご存知かもしれませんが、うちの神社は、幽霊は入れないことになっているんです。そして、今さっき鳥居をまたごうとした、男の幽霊がいたのですが、心当たり、ありませんか?

 ちなみに、名前は…。」

「桜谷、翔、ですか…?」

その瞬間、私の勘は、私にしては妙に、鋭く働いた。

「そうです、桜谷翔さんです。

 実はこの神社の奥に、小さな小屋がありまして、そこには、成仏した霊の名前まで、お告げのような形で見ることができるんです。

 桜谷翔さんは、あなたのお連れですか?」

 「え、あ、はい、実は…。

 私が、お付き合いしていた人なんです。」

私は何とかそう神主の人に答えたが、心中は、穏やかではなかった。

 『これって…。

私、幽霊と、付き合っていたってこと?』

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