日だまりの詩

euReka

日だまりの詩

(好きか嫌いかで言ったら、多分好きです)


 僕は午後の日だまりの中で光合成しながら、光の中で揺れる何かに向かって、そっと手を伸ばした。


 ネエ、ミエル?


 逆光で顔は良く見えなかったけど、その女の人は微笑していたと思う。

「あなたは誰ですか?」

「私は女。君は誰?」

「僕は生き物。いずれ死にます」

 女の人は、日だまりの中へ入ってきて僕の隣に座った。

「君、何を考えていたの?」

「詩人みたいなことを。でもすぐに忘れてしまうのです」

「じゃあ今、何を考えてる?」

「あなたはいい匂いがします」

「ありがと」

「いい匂いは一瞬だけ僕を幸福にします。でも、その記憶が僕を苦しめる」

「まるで恋ね」

 女の人は深呼吸をして目を閉じた。女の人はきっと神様と話をしているのだなと僕は思った。


“君は誰?”

“僕は神様。いずれ死にます”

“私は女。いま恋してるの”


 僕はまた何かを考えようとしていた。世界の秘密に一つ一つ名前を付けるのだ。死、時間、匂い、恋……。


“ねえ神様、一つ質問していい?”

“どうぞ”

“セックスと死、どっちが気持ちいいと思う?”


 女の人は大きなあくびをして目を開けた。

「おはよう、詩人さん」

「おはよう。それで神様は何と言っていましたか?」


“(セックス+死)÷光合成=恋=死×詩=セックス×光合成=気持ちいい=神=女-男=0”


「神様なんて、どこにもいないわ」

 僕は光合成を続けた。


(世界を肯定すること。そこから始めるしかないと僕は思う。革命? それはちょっと違うな。もっとこう柔らかい感じの)


「嘘だ! さっきあなたは神様と話をしていたじゃないか」

「ええそうよ」

「だったらなぜ」

「君をからかってやろうと思って」

「ひどい……」

 女の人は、震える僕の体を抱き締めた。

「ごめんね、光合成くん。私とセックスがしたいのでしょ? でもね、セックスも死も、ただのゲームなの。この死んだ世界ではね」

 女の人の体は僕を包み込んだまま、砂のようにサラサラと崩れ始めていた。

「もう時間がないわ」

「どうしてあなたは、僕に会いに来たのですか?」

「私が会いたいときは、いつでも君に会いに行く。私は希望なの。君の失ったすべてがこの私。だから」

 女の人の体は、僕の腕をすり抜けるように崩れ去った。

「君に……」

 僕は、手のひらに残るキラキラした残骸を眺めた。


 ネエ、ミエル? 


 ウン、ミエル


 スキ?


 ウン、スキ!




(私、大っ嫌い)

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