魔導サークレット
金がある人は強者であり、金がない人は弱者である。
これはこの世の真理である。
なぜなら、お金があれば品質の高い【魔導サークレット】を買えるから。
そして【魔導サークレット】を付ければ誰でも簡単に魔法を使える。
だから、この世は金だ。金があれば、本当に何だってできる。
街を歩く。みんな見た目が違う。服、髪、肌、種族などなど。本当にいろいろ違う。
でも、みんなには共通点がある。
【魔導サークレット】を付けているということだ。
頭に巻かれたそれはすべて、おでこの辺りに宝石が付けられている。
もちろん、私も付けている。安物だけど。
いや、大抵、平民はこの安物の【魔導サークレット】を付けている。一番安いこれでもかなり高いし、それに付けていないのと比べると、天と地ほどの差がある。
「おい、そこの女、止まれ」
突然、後ろから声をかけられた。
振り返ると、一人の青年がニヤニヤしながらこっちを見ていた。
「ふむ、なかなか悪くないな。よし、今日はお前に決めた」
青年はそう言うと、私の腕をつかんだ。
え!?
「ちょっと!? 放してよ!」
私は必死にふりほどこうとするが、青年の力は強い。
「ねぇ! 放さないと、【魔導サークレット】を使っちゃうよ?」
私は警告する。
【魔導サークレット】の力を借りれば、女と男の力の差なんて全く意味がなくなる。
ただ、【魔導サークレット】を人に使うのは重罪である。よほど特殊な状況でない限り、【魔導サークレット】を使うと警察に捕まってしまう。
しかし、青年はニヤリと嗤った後、人差し指で自身の頭を指した。
「この【魔導サークレット】が見えるかい? これは王族が使っている【魔導サークレット】と同じレベルのものなんだ。庶民が使っている安物の【魔導サークレット】とはモノが違う」
青年は自慢げに言う。
確かに、青年の【魔導サークレット】は金色に輝く輪っかに真っ赤な宝石がはめ込まれた、美しい一品だ。
しかし、私が頭に付けているのも【魔導サークレット】である。
私は【魔導サークレット】を起動する。
捕まれている腕をツルツルにする。摩擦がゼロになるので、青年の握力がどれだけ強かったとしても、簡単に逃げ出すことができるようになる。
こうすれば、滑って簡単に逃げ出せるのだ。
「――!?」
あれ!?
びくともしない。
全く動かない。
「無効だ。俺の【魔導サークレット】でお前が使った魔法を無効化した」
「そんな!」
そんなことが可能なの!?
「ぎゃはははははは! 俺はお前ら庶民とは住んでいる世界が違うんだよ!」
青年はそう言いながら、私の腕をつかんだまま歩く。
くそぉ……
こいつなんてどうせ【魔導サークレット】を親に買って貰ったんだろう。
私は、頑張って働いて貯めたお金で、中古の【魔導サークレット】を買ったっていうのに。
あなたが強いんじゃないよ!
ちょっと良い【魔導サークレット】を持っているだけ。ちょっとお金を持っているだけなんだ。
そう、自分が強いなんて気になってんじゃねえよ!!
所詮、親から貰ったものだし、そう! 親から貰ったものがなければ、私の方が上だ。だって、このぼんぼんは【魔導サークレット】は親から貰ったけど、私は自分で買ったんだ!
だから強い気になってんじゃねえよ!
私の方が上、なんだよ!
青年は私の腕を引きながら淡々と歩く。
(おい! やめろ! 腕放せ!)
って、さっきからなんか変だと思ったら声が出ねえじゃねえか!
クソ!
ふざけんじゃねえ!
腕放せ!
「ちょっといいかな?」
そのとき、格好良いイケメンがその青年の腕のつかんだ。
「女の子、嫌がっているよね?」
彼は、勇者だ。
有名人であり、みんな知っている最強の人だ。
彼には【魔導サークレット】は必要ないので、頭には何も付けられていない。
もしかして、私を助けてくれるのかな?
嬉しい。
「いえ……これは……そう、ちょっとナンパしていたところですよ? ね?」
青年の態度は、今までのものとは全く別だ。
「いえ、私が放してって言っても、このブサイクは放さないんです!」
勇者に助けられるなんて!
「そうらしいが?」
「ははは、ちょうど今、手を放そうとしていたところですよ……」
勇者は、「そうか」と言った後、
「実は、俺少し前から、見ていたんだ。《サイレント》の魔法を使っているのも、な」
「そ、それは……」
終わりだ。
人に魔法を使うのは、それだけで重罪だ。
そして今はもう勇者がいるので、反撃を恐れる必要もない。
言いたかったことを言おう。
「こんな、親の金で買った【魔導サークレット】で自慢するようなサイテー野郎が!」
私はその青年に毒を吐く。
「それはてめぇの力じゃねえんだよ! 強い気になってんじゃねぇ! 私みたいにな、自分の金で【魔導サークレット】を買った奴が、そういう奴だけが本当の力を持つんだよ!」
ふぅ、すっきりした。
やっぱり、言いたいことはすぐ言った方がいいよね。
でも、それを聞いた勇者は苦笑いして、言った。
「いや、【魔導サークレット】の力は、君も彼も、自分自身の力だと言っていいと思うよ。でも……ただ、彼は尊重する心がなかった。どんな素晴らしい【魔導サークレット】も持っている人も、どんなに安くて古い【魔導サークレット】を持っている人も、みんな同じ人間だ。だから、【魔導サークレット】に関わらず、みんな同じ人間だと思って尊重し合って欲しい」
彼は空を見ながら言ったのだった。
終わり
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短編書く像です。
ここからはなんとなく後書き的なものを書きたいと思います。
なぜ、この短編を書きたかったかというと、以前見たとあるニュースについて思うことがあったからなんです。
なんか、高速道路のパーキングエリアで怒られたドライバーが、怒った側の車に高速道路内で追い着いて、その車の動きを妨害して最終的には、その怒った側の車に乗っていた4人の内2人が死亡した事故がありまして。
このときニュースで、『ドライバーは自分自身が強いと錯覚する』なんてことを言っていましたが、聞いたそのときからなんか違和感があったんです。『車に乗っているとあたかも自分自身が強いと錯覚する』? 実際強いでしょ、って僕は思って……なので、じゃあなんと言えばいいのかな~って思ったけど、そのときは上手い言葉が思いつかなかった。
だけど、最近、『他人を自分と同じ人間だと尊重していない』という表現がぴったりなのではないか? と思ったんです。まあ、これが正しいかどうかなんて分かりませんが……だってその犯罪を犯したドラーバーの心を覗けるわけじゃないかですから。
まあ、そんな風に思って書いた短編がこの作品なわけです。
2018年1月29日 短編書く像
スタチュー短編集 短編書く像 @tanpenzou
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