八話 女神との面会 ②

 三つの選択肢からどれかを選べという事なのだろうが、正直言って意味が分からない。


 何故、ここで地球という単語が出てくるのか。

 何故、一人の少女を救うと異世界と地球が破滅して、異世界と地球を救おうとすると、その少女を殺さなければならないのか。


 確かにその少女が異世界と地球を破滅へと導く程の力を持っていれば上の選択肢は頷ける。


 だが、三つ目の選択肢は何なのだ?

 何も救えず、無残に死ぬというのは、どういう意味なのだろうか。


 異世界と地球、一人の少女、そのどちらかを救えば死ぬ事は無いという事は分かるが、どちらとも救えなければ死ぬというのは全くもって理解出来ない。


 異世界と地球、一人の少女がどのように関係するのかは分からないが、アードが救いたいと思っているのは、家族と幼馴染、その一家だ。


 だから、選ぶのは二番しかない。少女には悪いが、アードにも守りたいと思っている人がいるのだ。


 とは言っても、今のアードには言葉を発する器官が存在しない。どうすれば答えを伝えればいいのかを思案していると、真っ白な空間に表示されていた選択肢は消え、声が響いた。


「アード君の答えは分かった。君の答えは最もだ。一人の少女の命より、沢山の命がかかっている異世界と地球を救うという決断は一般的には正しい。……でも、考え直してはくれないだろうか」


 その声は最初に聞いた声と打って変わり、悲痛に満ちた声で、今にも泣きそうな程に、か細い声だった。今のアードには言葉を発する事が出来ないから、声をかける事が出来ない。それをもどかしく感じてはいるが、もし言葉を発する事が出来ても、なんて言えばいいのか分からない。


『考え直してくれないだろうか』。その言葉がアードには、声の主がその少女を心配しているようにしか聞こえなかった。その声は、まさしく母親のものであった。


 アードは考える。

 

 この声の主ではその少女を救えないのではないかと。

 何か用があって、救いに行く事が出来ないのではないかと。


 だが、それでもその少女を救ってしまえば、異世界と地球は破滅する。つまり守りたいと思っている人が死ぬという事なのだ。


 それはアードにとってあってはならない事だ。だから彼は苦渋の選択をして、自分の思いを伝える。


(ごめん。俺にはその子より守りたい人がいるんだ。その子を救ってしまうと、その人達は死ぬんだよ。だから、俺はその子を救う事は出来ない)


 本当に申し訳ないが、こればっかりは譲れないのだ。アードはそう思いながら、また声が響くのを待つ。


「あなたの言っている事は、よく分かりました。あなたにはもう、何も言いません。……ですが、これだけは言わせてください。あの選択肢だけが全てではないと。……後、アード君。君には酷い事をしてしまったね。君をここに誘ったのは、この答えが聞きたかっただけだから、異世界に戻すよ。私とあなたが始めて面会した時の記憶と本来歩むべきだった記憶、そして、あなたに私の愛しの子を託して」


 そう響き終えた後、妙に『あの選択肢だけが全てではない』という言葉が気になったが、アードの意識はすぐに途切れた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「……」

「兄さん、どうしたの?」


 ナヴィの声が聞こえてくる。それで、異世界に戻ってきた事を認識した。先程までは魂だけの状態で常にフワフワし、頭に直接響いているような声を聞いていた。だから、急にアード・グラウラスの肉体に魂が戻り、少し変な気分だ。


 だが、いつまでもその余韻に浸っているわけにはいかない。アードは、返してもらった記憶を思い起こす為、意識を覚醒させる。


 そして、アードは思い起こした。それには思いも寄らない事が刻まれていた。




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世界最強の村人 霜月 紫水 @re0subaru0139

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