七話 女神との面会 ①
ナヴィとのデートを終えて翌朝。
アードはいつものように朝食を摂っていた。普段はアード、ナヴィ、ルーラ、ローガの四人で食事をしているのだが、今日はこの四人にソフィナ、ローリエ、アイクの三人を加えた七人で食卓を囲んでいる。
こういう事は度々あったが、四人の時と何も変わらなかった。だが、今回は何か雰囲気が違う。アードとナヴィ、そしてソフィナはいつも通りじゃれ合っているのだが、ルーラはアード自慢のブロンドの髪を指で弄り、ローガはアードの髪の色にも多分に影響している茶髪を掻き毟り、ローリエは銀髪をクルクルと手に巻き、アイクは手に持っている剣を砥ぎながら、何事考えていた。
「……な、なぁ。母さんたちどうしたんだ?」
「私に聞かれても困る」
「そうか。……聞いてみるか?」
「兄さんがそうしたいなら、そうすればいい」
「……マジ? 俺一人で? 俺村人だぞ?」
「兄さん、最後の関係無い」
アードとナヴィの二人で彼らの両親がどうしたのだろうかと考えていると、彼の左頬に衝撃が走る。その数秒後、衝突音が部屋に響いた。
「……」
「兄さん、大丈夫?」
「……無理。左側の奥歯全部折れた。死ぬほど痛い」
いつも変わらないポーカーフェイスでアードの身体を心配しているナヴィ。流石の両親たちも先の音で意識を現実に引き戻されたようだ。
しかし、食卓に着いているのはソフィナだけで、さっきまで確かにそこにいたアードとナヴィがいない事に気付いたのか、顔が次第に蒼白になっていく。
ルーラは焦っていたのか周りを確認せず、ソフィナの元へ駆け寄り、言った。
「ソフィナちゃん。アーちゃんとナヴィはどこ?」
「……しらない」
「母さん、ここだよぉ〜」
壁にもたれかかっていたアードはヨロヨロと立ち上がりながら言った。その声に安堵したルーラだったが、彼の姿を見て、さらに顔を蒼白にする。
「アーちゃん! その顔どうしたの! 誰にやられたの?」
「……何でもないよ」
「何でもない事無いでしょ! 口から血が出てるじゃない。ちょっと見せて……」
「母さん?」
アードの口内を見た瞬間、ルーラが放つオーラがどす黒いものへと変貌を遂げ、何事か呟き始める。
「殺す。殺す、殺す、殺す、殺す、殺す。アーちゃんをこんな目に合わせた奴は絶対殺す」
「か、母さん。歯ぐらいなら治癒魔法で治るから治癒魔法かけて。痛すぎてマジ死ぬ。……おい、ナヴィ。母さん正気に戻して。マジでそろそろ貧血で倒れそうなんだけど」
「兄さん。流石に歯が折れただけで貧血にならないよ」
「違う、違う。見てここ。さっきから痛いなと思ってたらさ、ナイフが刺さってたんだよ」
「え? どこ? ……兄さん、待ってて。今すぐソフィナ殺してくる」
アードの腹に彼がカチャカチャ鳴らしながら持っていたナイフが、先程の衝撃で偶然にも刺さっており、そこからドクドクと血液が溢れ出ていた。それを見たナヴィは、ルーラと同じオーラを放ち、同じように人を殺そうとしている。
流石に身の危険を感じたのか、ローリエに治癒魔法をかけてもらう事にしたアード。その為に歩こうと思い、一歩前へ足を運ぼうとしたのだが、身体は言う事を聞かず、後ろへ倒れ込み、再び壁へもたれかかった。
「や……べ。死ぬ」
身内が傷を負っているのに助けようとはせず、傷付けた相手を真っ先に殺そうとする。どこで教育を受ければそのような人間になるのか。アードには分からない。分かるはずもない。
ルーラとナヴィ。この二人は真後ろで血液を流し、徐々に意識を遠のかせているアードを放置して、今もなお人を殺そうとしている。
「──────────ぁ」
アード・グラウラスは死んだ。二度目の死。一度目は建物に生き埋めにされて死に、二度目は自分の身内に殺されて死んだ。
だが、アードの魂は死後の世界には誘われず、女神と面会出来る唯一の場所、人が暮らしている世界と死後の世界の間へと誘われた。
そして──
「ようこそ、蒼波君。いや今はアード君か。すまないね。君をここに、この時間に誘う為に君の家族、幼馴染、そしてその両親を五年間操り、君には死んでもらった。まぁ、これも君と私との契約だ。さぁ、アード君。少し先延ばしにしていた問題の答えを聞こうか」
そういうとアードの魂の目の前に文字が浮かび上がった。
──選べ。
1.異世界、地球を破滅させる存在となり、一人の少女を救う。
2.異世界、地球を救い、一人の少女を殺す。
3.何も救えず、無残に死ぬ。
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