第4話本拠地を移しますか?―はい

「ども~、異世界ライフ、満喫してるぅ~?」


目の前がスクリーンになり女神システィーンが出てきた。 担当地区がグアムになったらしくそのせいかタメ口だ。 服装もフィギュアスケーターからサンバスタイルになっている。俺はこれまでの異世界ライフを報告した。すると、初回特典のS級武将が無事届いたみたいで安心したよーと言ってきた。こいつはちゃんと話を聞いていたのだろうか、特典に殺されかけたんだが。


「ごめんね~、異世界電話の通話料高いからきるね~。後は説明書読んでがんばってね~、アロハ~」


アロハはハワイだろ。結局なにも約に立たなかったな。女神は説明書の出し方をレクチャーしてから、一方的に通話を終了した。それから俺は、数少ないヤマトの生き残り達に国の復興を指示した。コマンド一つで命令が出せるこのシステムは、軽いコミュ障の俺には有り難い。


柴畑〔城修復〕 

梅中〔城下町復興〕 

サル〔委任〕


結構細かく指示できんだな、まあこんな感じでいいか。それにしてもサルってニックネームなのか?名前出してやれよと思った。ひと通り指示が終わると、今回の被害状況を確認して唖然とした。ヤマトは帝国より圧倒的有利な条件で戦っておきながらほぼ全滅していたからだ。その原因はあの少女だ。一人だけ戦果が三桁になっている。部隊ではなく個人戦績でだ。彼女が特典武将でなければとっくに死んでたかと思うとゾッとする。


俺は各種データを見てなんとなくこの国や世界がどういう所か分かって来た。名前からある程度想定していたが、ヤマト国は昔の日本みたいな国だ。ただ、前の世界と違うのは大陸と地続きだという事。そして海に面しているが、この世界の海はラベンダー色をした紫海しかいと呼ばれ、生命を寄せ付けない死の海だという事だ。つまり海岸は資源に乏しく、富は大陸の中央に集中し、それを奪い合うのがこの世界の歴史のようだ。


ではなぜ今回極東の小国で資源に乏しいヤマトが侵略されたのか。それは大陸の中央をレクトメイル帝国が手に入れ大陸の制覇に乗り出した事と、 海岸に集まる新たな資源を手に入れる為みたいだ。


「新たな資源か、それがどんな物かまでは書いてないが、この国が生き残る鍵になりそうだな」


とりあえず、今出来る事は全部やったので、メニューを閉じた。ほっと一息ついて空を見上げると、曇り空が茜色になり夕日が差した。 俺は日が沈む前に少女の・・名前何だっけ?エスミーか。エスミーの居る城を目指す事にした。


「そういや女神が、君良いスキルいっぱいもってんじゃ~ん、って言ってたな」


歩きながら自分のステータスを出した。


言長 秀明

大和国主

28才


微妙に若返ったな。どうせなら西洋人のイケメンに生まれたかったな。


統率48 武勇46 知略46 政治48


なんだこれ、まるで某アイドルファンが入力したような数値だな。終盤は首切られる武将だよこれ。


技能 神視点・体感時間調整・ヤマト語・帝国語・産業革命Lv2


神視点と体感時間調整は、基本スキルだがなかなか便利なもののようだ。神視点は情報戦において敵より圧倒的優位に立てる。ただ無防備になるので戦場に出るのは危険らしいが、 戦場に出る気など更々無いので使いまくろう。


あと体感時間調整だがこの手のゲームはとかく時間がかかる。早送りしないと退屈だからこれも結構使う場面があるだろう。だがここは異世界だが現実世界だ。いたずらに寿命を無駄使いしたくないし、 早くし過ぎて操作が追いつかないという事態は避けたい。


そうこうしてると辺りは次第に暗くなってきた。目的地までどの位かかるか確かめた。するとエスミーの居る前線基地デュベール城まで残り三時間と表示されたので、早速時間を早めると、競歩選手のような速度で歩けるようになった。


「これは爽快だな。でも休む時は元に戻さないと大変な事になりそうだ」


辺りはすっかり暗くなってきたが、神視点があるので問題なさそうだ。


しかし、ここが地球の中世だったとしたらどんなに楽だっただろう。歴史の知識を生かして、無双までは行かずとも活躍は出来ただろう。だがここは地球っぽい異世界の中世だ。文明は似たようなものだが、亜人やモンスターや魔法などなんでもアリの世界のようだ。歴史やら宗教やら覚える事は沢山ある。ただ女神がゲームっぽくしてくれたおかげで、多少はなんとかなりそうだ。


でも俺には肝心の目的というものが無い。こればっかりはどうしようもない。生まれ変わろうとニート根性は抜けない。どんなスキルを貰ったってスローライフを送りたいのだ。実際そういうのが今は流行りだ。それでいいじゃないか。


この世界でもニート生活をしようと決意すると、デュベール城が見えた。城と言っても岩山をくり貫いた急造の出城だ。ここは帝都の遥か彼方の辺境の地で、ごつごつした岩だらけでろくな資源など無い。およそ人が住むに適した場所では無いのだ。そんな所にわざわざやって来るとは、そこまでして新資源とやらが欲しいのだろうか。


「いじめに決まってます」


出迎えたげじげじ眉毛の副官ヤンセンはそう言った。正門からエスミーの部屋まではかなりあると言うので、 帝国の狙いを聞いてみたのだ。


「新資源など眉唾物です。それよりファン・デル・メール様を追い出したかったのでしょう。この岩の砦を見て下さい」


そう言ってヤンセンはつるつるの壁をぺたぺたと触った。聞くとこの砦はエスミーが剣の稽古で削っていつの間にか出来ていたそうだ。


「帝国貴族は基本的にヘンタイの集まりですが、アレは別格です」


レクトメイル帝国の爵位は基本、大きな魔力を有しているか、家柄の良い者にしか与えられないそうだ。しかし、エスミーはそのどちらでも無く、異例中の異例だそうだ。それだけ途方も無い戦果をこれまで挙げて来たらしい。


「アレを恐れた皇帝は、爵位を与えて左遷したってのが真相です」


帝国は大陸中央を手に入れ戦争もひと段落したところで、政治的安定を図る為、内外に敵の多いエスミーを追い出したくなった。しかし、簡単に言う事を聞く奴じゃないので、説得に苦労したらしく、 唯一食いついた『人類未踏の極東へ挑戦』という名目で追い出したらしい。


「しかし苦労しました。雪山を幾つも越えて、やっと辿り着いたのがこの荒地なのですから。にもかかわらず、アレは労いもせずこき使うばかり」


その言葉には日ごろの不満が込められていた。もうエスミーの事をアレとしか呼ばない。雪山を越えてと彼は簡単に言っているが、データを見るとそれはまるで、 八甲田山の雪中行軍を思わせる内容だった。バカな司令官を持つ部下の苦労を思うと涙がでそうになった。それから迷路みたいな城の中を暫く歩いていると、小さな滝の裏に洞窟があり、そこは赤い絨毯が敷かれ、わりと豪華な造りになっていた。


「ここは謁見の間です。誰も尋ねてきた事はないですが」


そう言ってヤンセンはさらに奥に入っていく。すると何かを見つけたらしくこう言った。


「閣下、なにをしておられるのですか?」


そこには、大きな石柱に上半身裸で抱きつくエスミーがいた。


「見て分からんか、胸の谷間を冷やしておるのだ」


二人の会話を聞くと、エスミーは帰るなりサーベルを胸に挟んで素振りをしだしたらしい。しかし五百回を越えたところで胸の内側がすりむけ、 冷やす物を探していたそうだ。


「すまぬな主よ、今晩は相手してやれそうにない。だが期待にあれこれ膨らませたまま放っておくわけにもいくまい。ヤンセンに何かはさむ者を用意させるのでそれで我慢してくれ」


こいつは何言ってんだ。


「無視されて結構ですよ。それよりお疲れでしょう、寝室にご案内します」


ヤンセンはヘンタイ上司に構わず歩を進めた。奥には玉座が有り、その後ろはカーテンで仕切られ寝室になっていた。


「狭いですがこの砦では一番広い寝室です」


そこは六畳分の間取りに、石造りのベッドが一つだけあるシンプルな部屋だった。日本の生活が長いので狭くは感じなかった。 俺は冷たいベッドに腰を下ろすと、ごゆっくりと言って出て行くヤンセンの背中に質問した。


「何も聞かないのか?」


すると背中は少し丸まり頭を掻いているようだ。


「・・・・明日にしましょう」


そう言って背中は消えた。色々言いたい事、聞きたい事はあるだろう。だが戦争の後だ、疲労困ぱいだろう。 気付けばもう深夜になっていた。 俺は眠る前に、データ上この城と兵士が傘下に入った事を確認したが、 不安はぬぐえ無かったので、敵襲があるとアラームが鳴るよう設定をして眠りについた。

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異世界歴史シミュレーション言長の野望~無精風雲録~ @yomamamana

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