第3話転生



「や、やめろぉ~っ!」


これはどういう事だ。 意識が回復すると、俺は白装束を身に纏い、腹を出して短刀を握り締めていた。 横には中世期の西洋の軍服を着た少女がサーベルを振りかぶり、今にも振り下ろさんとしている。


「見苦しいぞ!それでもヤマトの長か!」


この状況は侍が切腹をする場面だという事は分かる。だがその介錯を外国人がしている意味が分からない。 黒船襲来の時代なのか。ただ今はそんなの気にしてる場合じゃない。


「さっきまでの潔さは何処へ行った!」


少女は銀髪とサーベルを振り回し鼻息を荒くした。 赤い瞳は血で染まっているのかと思うほど殺意を蓄えていた。 俺は完全に腰が抜けていて這いずり回るのが精一杯だ。相手の技量を推し量るまでも無く、 俺なんかが短刀で応戦出来るわけがない。とにかく少しでも生存確率を上げる為、 広い庭から焼け落ちた屋敷の中に駆け込んだ。


「お、落ち着け、俺は今転生して来たばかりなんだ」


そんな事言ったってどうにもならないだろうが、ありのままに状況を説明する言葉しか浮かばなかった。 屋敷に入ると隠れられそうな壁など残ってなかったので、後ろ向きになって間合いを取りつつ、じりじりと後退した。


「なに訳の分からない事を」


その後何度も斬りつけられたが、 無数に散らばる残骸のお陰で、効果的な一撃は食らわずに済んでいた。だが両断される木片を見ると「ドッキリデース」というセリフには期待できそうにないなと思った。


「せめて最期は自分で腹を切って死にたいと言ったではないか」

「それは今の俺が言ったんじゃない」


そうだよ前の奴が言ったんだよ。どこ行きやがったんだよ。出来もしねぇ約束交わしてんじゃねぇよ。そうだ手のひらに文句を書いて、なんとか黄昏時まで生き延びよう。と、下らない事を考えた罰なのか、 段差につまづき尻もちをついた。それを見てすかさず少女は切り込んできたが、 目測を誤ったのかサーベルは俺の後ろのこげた柱に突き刺さった。


「うっ、抜けない!」


少女はサーベルを上下左右に動かすがビクともしない。これはチャンスだ。

だが俺は柱と少女に挟まれたまま動けない。なぜなら少女の軍服ははだけ、

白い二つの振り子が俺に動くなと催眠術をかけて来たからだ。


「ぬおおおおっ」


少女は顔を真っ赤にしながら、体重をかけ両手でサーベルを下に押しつけた。俺は催眠術を解くために右手に握った短刀を見つめた。そこには時代劇でよく見るイメージ通りの落ち武者が映った。 今なら短刀これで殺せなくはない、だがそんなの怖くて出来るはずも無い。サーベルは限界までしなり少女の顔が目の前に来た。こんな状況で鬼の形相をしているが、それでも美少女と分かるその美しさに目を奪われた。


「は・ら・を・き・れ~~~っ」


お・も・て・な・しのリズムで脅迫してきた。滝川クリ〇テルより日本語が似合わないなと思った。するとガスッという鈍い音と共に少女の顔が消えた。どうやら手を滑らせて、サーベルの柄が顎にクリーンヒットしてしまったようだ。その後、白目をむいたまま崩れ落ち、俺の胸の中に納まった。と同時にぼんやりと目の前に文字が浮かんできた。


『敵武将を捕縛しました。登用しますか?』


何だこの文字は、手で振り払おうとするが消えない、どういう仕組みなんだ?と思っていると更に文字が浮かんだ。


エスミー・ファン・デル・メール

レクトメイル帝国辺境伯

17歳


統率88武勇91知略 2政治 1


技能 帝国語・ヤマト語・猪突猛進


何だこのプロフィール、コー〇ーのシミュレーションゲームみたいだな。こいつのか?

呂〇みたいな極振りステータスだな。 登用しますかって聞くって事は雇えるって事か。

ならば選択肢は一つしか無い。


「とにかく登用だ!登用~っ!」


どうしたらいいか分からないので叫んでみた。すると少女は目をぱちっと開いた。「うわ~っ」っと俺は叫んだ。するとその声に驚いたのか、後ろにひょいと飛んでキョロキョロしだした。


「サ、サーベル」


と、少女が言ったので、やばい!と思い、 横に落ちていた折れたサーベルをすぐにを拾った。だが少女は片膝をついてそれを物欲しそうに見つめてくるだけだった。暴れる気配は無い。プロフィールを見ると所属がヤマト国になってる。さっき「ヤマトの長か」って罵倒されたんだから、 俺はきっとヤマト国の王で間違い無いだろう。だったらこいつは部下になったと考えていい。俺は餌をちらつさせる感覚でサーベルを振り「欲しいのか?」と聞いた。すると少女は頷いた。その反応を見て「どうしよっかな~」とあおろうかと思ったが、どSでも無いしキレさせてもまずいので素直にサーベルを渡した。 普通に考えれば敵に得物を渡すのは危険な行為だが、 美少女に欲しいと言われては仕方ない。すると少女は頭を垂れそれを両手でしっかりと受け取り、 刃を自分の胸に向け、柄を俺に差し出した。


「今日から私は貴方のしもべでです。なんなりとご命令下さい」


登用コマンドの力は絶大だった。イケナイ命令を出してしまいそうな自分を抑えなければ。

そう心にも無いことを誓っていると、 大きな門の方から誰かが入って来た。


「閣下、カイシャクとやらは終わりましたか?」


そいつは少女と同じだが装飾の少ないダークグレーの軍服を着ていて、黒い頭を掻きながらぬぼーっと入って来た。げじげじ眉毛以外これといって特徴の無いひょろっとした中年おやじだ。


「・・・・これはどういった状況ですかな」


眠そうな目はそのままに、男は頭を掻くのをやめた。無表情だが一応驚いてはいるらしい。

そのままピタッと動かなくなってしまった。自分の上司が敗軍の将に片膝をつき、かしずこうとしているのだから、その反応も無理は無い。 少女は立ち上がり男に答えた。


「紹介しよう。この方は畏れ多くも敗軍の将コトナガ様であるぞ」


いやそうだけど高らかにいう事か・・・・って何で名前知ってんの?まさかこのヤマトの王は同姓?


「これからは我が主となる。さあ、かかってこい!」


少女は不敵な笑みを浮かべ男にサーベルを向けて挑発する。もしかしてこいつを仲間にしても、 部下はついて来ないのだろうか。すると男はため息をつきこう言った。


「ウチの部隊にあなたと戦う命知らずは居ませんよ。まあ別にいいですよ。誰が主であろうと、俺達は所詮二等臣民なんですから」


そう言うと男はのそのそと門を出て階段を下りて行った。 俺はえらくあっさりとしたその反応に驚いた。 男を見送ると少女はサーベルを納め片膝をついた。


「げじげじが失礼しました。後日改めて挨拶に来させます」

「あ、ああ」


あの人別に失礼な事してないと思うけど。


「よろしければ私も帰ろうと思います。いつまでも乳を放り出しているわけにも参りませんし」

「そ、そうだな」


しかしここで帰して大丈夫なのだろうか。だが今は一人になりたい、いざとなれば逃げればいいだろう。そう考えメニュー的な画面から帰投命令を出した。すると右上の方にヘルプという項目が見えた。もしかして説明機能か?と思い早速ヘルプと叫ぶと、帰りかけた少女が戻って来た。なんでも無いと言って追い返そうとすると、辺りを見渡しこう言った。


「こんなみすぼらしい城では雨風がしのげません。是非我が城へ本拠をお移し下さい」


お前がみすぼらしくしたんだろと思ったが、その言葉に甘えるとしよう、と返事をした。俺は少女が完全に見えなくなったのを確認すると、 全身の力が抜けその場にへたり込んだ。


「た、助かった」


知りたい事は山ほどあるが今は一服したい。いつものクセで体中まさぐったがタバコは転生していなかった。すると視界の片隅がチカチカしだしたのでその方へ目線をやると、ヘルプの文字が点滅しているのに気付いた。とりあえず俺は色々な感情をのせてヘルプと叫んだ。

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