第2話転生準備世界

「え~っと聞こえますか~?」

「んん!?あ、ああ聞こえる」


頭の中にさっきの少女の声が響いてくる。 見渡す限り真っ暗だが、ここはどこだ。


「ようこそ転生準備世界へ」

「・・転生準備世界?」

「はい、ここはビシャスという異世界へ行く前の準備をする、死後の世界です」


異世界?死後の世界?また変わった内容の撮影なんだな。


「あのさ、撮影に入る前に台本とか見せてくれない?あと明かりつけてよ、ここNN号の中なんでしょ、電気つくはずだよね」


このシリーズはよく見ているから知っている。色とりどりの照明がつくはずだ。


「NN号?何ですかそれ」

「とぼけなくていいよ、この車の事だよ」

「この車?ああ私が乗っていた車ですか?あれはTTてんてんてんせい号ですよ」

「なんだその『君のNは』のテーマ曲みたいな車名は」


俺の事童貞だからってバカにしてやがって、それに転転転生ならTが一個たりねぇだろ。


「あのーもしかしてまだ自覚できてない感じですか?」

「いや自覚しているからこそ、台本をしっかり読んで演技しようってんだよ」


ていうか普通そうだろ!?監督はいねぇのか?


「おかしいなぁ、そうだ!最近ラノベ読みましたよね?」

「・・・・は?」

「あっそうか、もうすぐ三十路でしたね。ラノベとはライトノベルを略した言葉ですよ」

「知ってるよ!つーか俺より上の世代でも分かるよ!で、いきなり何?それがなんか関係あんの?」


ラノベなんて最近読んで無いけどな。WEB上で無料で読める素人の駄文なら目を通した事はあるが、つまんな過ぎて十行くらいしか読んだ事ない、それも数の内に入るのか?いや待てよ、そういえば親父が『庭にエロ本が落ちてるぞ、お前のだろ!』って言って持ってきた本があったな。


「その中に[ぽっ、はじめての転生・魂の筆おろし企画]ってのがあったの憶えてませんか?」

「なんだそれ、昭和のバラエティー番組かよ!」


とつっこんだところで、閃いた。


「おい、ひょっとして巻末に付いていた応募券の事か?」


確か『この子があなたの元にやってきて筆おろししてくれるかも!?』とかいう言葉が目に入って、すかさず応募したんだ。


「そうです!それそれ!その企画で今回あなたは見事、当選確実見込みになったんですよ!」


なんだか選挙速報みたいで曖昧だな。


「んでお前が優しく筆おろししてくれるって事か?」

「その通りです!」


なんだよやっぱAVじゃねーか。


「ちなみにラノベに出て来た、白く濁ったまるでアレの様な肌の女神ってのは私ですよ」


思い出した。かなり独特な文章だったから印象に残ってる。そういえばあいつ、挿絵の女神そっくりだ。


「まさかお前が、女神システィーンだとでも言うのか?」

「・・・・・・・・・・・正解っ!」


なんだ今のセクハラ司会者ばりのタメは。


「では今一度ラノベの内容をよーく思い出して下さい。」


うーん、確かろくでもない中年ニートが主人公だったな。ああいう設定だと共感ができねーから頭に入らないんだよな。 少し沈黙が続くと女神が質問を始めてきた。


「主人公が転生する時の場面、覚えてます?」

「ああ・・・・確か車に轢かれて死んだな」

「それからどうなりました?」

「女神から、異世界へ転生して世界を救って欲しいと頼まれたな」

「・・・・・・・・・・・・・・・・ほら、今まさにラノベと同じ状況になってますよね!これで信じてもらえましたか?」


いや得意げに言ってるけど、大体そんな話だろ異世界転生モノって。後、その黒光り司会者みたいな間をやめろ、そして早くヤラせろ。


「ではご理解頂けたところで次に進みたいと思います」

「ちょっと待て、理解してねーよ!ラノベ通りにこれから話が進むって事なのか?からみはどこからだ?」

「あのラノベはあくまでこの『非日常世界』に早く順応して頂くために作ったもので、

 ここから先はあなた次第で話が変わって行きます。あと私とのからみはここで終了です」


は?からみ無しってどう言う事だよ。


「ち、ちなみにですが。私が書いた物語・・そのぉ・・どうでした?」


「どうでした?じゃねぇよ!つまんなかったわ!ほとんど会話だったし、やたら女神が活躍するから主人公空気だったし、『メ〇』とか『ヒャ〇』は『ドラ〇エ』の呪文だから絶対使っちゃダメだし、『主人公に、俺はなる!』っていうセリフ某海賊漫画を彷彿とさせるし、いやお前主人公じゃねぇのかよって誰もつっこまねーし、事件が起こるたびにこの物語はフィクションであり・・って注釈が入るし、そのくせやたらとエロいから配慮するとこ間違ってるだろって思うし、

とにかく駄作以外の何物でもないね」


そう言い放つと辺りは静寂になった。そして少し間を置いてから少女のすすり泣く声が聞こえて来た。


「ひ、ひどいです。一生懸命書いたのに。あなた編集者気取りですか?どうせ何かに全力で打ち込んだ事ないんでしょ」


何泣いてんだよ、感想を求めたのはそっちだろ。たぶん、自称作家のたまごってこんなヤツばっかなんだろうな。ひどいのは自分の作品だって気付けよ。


「わかったわかった、それより話を進めてくれないか。マジで今どういう状況で、これからどうしたらいいのか分かんねーんだよ」

「はぁ・・ホント理解力に乏しい人ですね。それでよく編集者気取れますね」


なんかコイツ面倒くさそうなヤツだな。


「じゃあもうテンセっちゃいます?このまま説明してもらちがあかなそうだし、テンポ大事にしたいし」

「ああ、そうしてくれ」


出来るもんなら転生させてみろ。さすがにこんなメチャクチャな感じだとAVとかじゃなくてドッキリだな。 今時の外人は動画投稿のために何でもするからな。がっかりな展開だが、貞操は守れた。


「では目を閉じてぇ、お~きく息を吸ってくださ~い」


なんだよそれ、診察でも始めんのか?


「それから少しずつぅ、息をふっ、ふっ、と出すようなイメージで・・・・吸ってくださ~い」


いやまだ吸うのかよ!てかムズいなそれ。


「肺が空気で満たされていくのが分かりますかぁ?ですがあなたの限界はそんなものではありませぇん・・・・吸ってくださ~い」


ふざけんなよ、いつまで吸わせんだ。


「そろそろ何か見えてきませんかぁ?」


そういえばぼんやりと何か見えるな。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・そう、それが異世界で~す」


だからそのケン〇ンショーな間をやめろ!っと頭の中でつっこむうと同時に俺の意識はぷつっと切れた。

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