異世界歴史シミュレーション言長の野望~無精風雲録~

@yomamamana

第1話終わりのうつけ

今年こそ卒業させてくれ。


そんな思いもむなしく、年末ジャンボ宝くじは夢の残骸あとへと姿を変えた。

これでまた一年間、親兄弟や親戚にぐちぐち小言を言われるニート生活が始まるかと思うと、新年から憂鬱だ。


落ち込んでいても仕方ない、出かける準備をしよう。

念のためクジ番号をもう一度チェックし、ため息を一つついて家を出た。


いつまで俺はこんな惨めな生活を送らなければならないんだ。

そもそも悪いのは親父だ、確かあれは俺が25の時だった。


親父はボーナスを減らされた穴埋めに、小遣い制度を廃止しやがった。

以来、お年玉をやりくりして一年間を過ごさなくてはならなくなったのだ。


だが、今年三十路を迎える俺がお年玉だけで生活出来るわけもなく、

生活保護やその他行政のサポートを受けようと必死に努力をした。


しかし世間の風は冷たく、

本当に困っている人には手を差し伸べようとしない、この国に憤りを覚えた。


日本はいつからこんな寂しい国になってしまったのだろう。

かつては、親父みたいな頭を下げる事位しか能の無い人間でも、簡単に就職出来た。


ところが俺の世代は違う、総じて恵まれていない。

現に様々な資格を持つ俺でさえ無職なのだ。

俺がもし親父の世代に生まれていたら、パソコンの知識をフル活用して、

IT長者になっていた事だろう。


まったく、政治家がだらしないせいで俺の活躍の場が無くなったかと思うと、

腹が立ってくる。


とまあ、一般のニートであればここで腐って、何もせず引きこもっていたであろう。


が、俺はちがう。


病院に行くと嘘をついて作った金を元手に、

パチスロの期待値を稼ぎに朝からハイエナして回っているのだ。

だから自分の事をニートと言ってんのは半分謙遜である。


そして今日も年金暮らしのギャンブル中毒者、

通称『養分』達と共に、開店待ちの列に並ぶのだ。

するといつも先頭にいる歯抜けジジイが話しかけてきた。


「ほふぁひょう兄ひゃん、今日ふぁ何打ふんふぁ?」


相変わらず歯と歯の間から息が漏れてて、何を言ってるのか分かり辛い。


「いやーまだ決めてない」


だがもう聞き取れるようになった。

というかこいつは『何を打つか』しか聞いてこない。

そんなの何もせずに金を貰ってるような連中に 教えるわけがない。

いいから年金じゃぶじゃぶ突っ込んどけ。

それかこんな下らない事に金使ってねぇで、将来有望な若者の俺に渡せ、

どうせこの懐に入るんだから。


そんな事思っていると、入場時間を知らせる店員が出てきた。

と同時に、俺にとってニートとは別のをかけたメールが届いた。


『おめでとうございます。あなたは筆おろし企画に当選しました』


俺はスマホのメール画面を見たまま固まった。


「・・・・マジか・・」


それは俺がまた一つ成長するためには避けて通れない、

童貞を卒業するために応募した、素人参加型AVへの当選を知らせるものだった。


なんでこのタイミングなんだ。俺は今どんな顔をしてんだ。

ふと気になったので通路にある鏡をちらっと見た。

するとそこには、じじいを押しのけるロリコン誘拐犯みたいな表情をした、

キモデブが写っていた。


俺は腰をくの字にしたまま入場を済ませ狙い台に着席すると、

童貞を卒業できるという喜びと共に、

今まで大事にしてきたものをAV女優なんかに捧げてもいいのかという不安が襲ってきた。


一度冷静になって考えようと思い、外で一服する事にした。

だが、親父がたばこを止めたせいでたばこを持って無い事に気付いたので、

仕方なく口寂しさを埋めるため、カウンターにある飴ちゃんを取りに行く事にした。


よく勘違いされる事だが俺は別にもてないわけじゃ無い、

パチスロで勝ったと報告すると『じゃあ会いに来てよ』と言ってくる女はいっぱいいるのだ。

だが今回の相手は俺の体を目的にしている奴だ。

さすがの俺も躊躇ちゅうちょするのは仕方がない事だ。


それから数分間、メール消去の是非を問う画面を見つめ固まっっていると電話が鳴った。

またカード会社かと思ったが知らない番号だったので出る事にした。

というか考える間もなしにスライドさせてしまった。


「・・・・もしもし」

「あ、つながった。コトナガさんですか?」


げ、女の声だ。俺の番号知ってる女なんてカード会社のヤツしか居ねぇ、

番号変えやがったのか?


「す、すみません。今月分もうちょっと待ってもらえませんか?」


新年早々、仕事熱心なやつらだ。

だがここでお年玉を失うわけにはいかない。


「うーん何の事か分かりませんが、私もう目の前に来てるんですよね」


俺はその言葉に恐怖した。

最近の金融会社はよく行くパチ屋まで調べるのかと。

そしてオペレーターが直接取り立てに来るのかと。

俺は恐る恐る目線をゆっくりとスマホから目の前の駐車場に移した。

すると見覚えのある車が目に飛び込んできた。


「え、NN号じゃねぇか」


それはまさに男共の憧れ、動く性地!

NN号が何の略かは想像におまかせするが、

AVを見た事あるヤツなら絶対に知っているハデな車だ。


そしてその車の後方には、世界フィギュアに出場してそうな白人の少女が、

スマホ片手に立っていた。

服もメイクもきらきらしていてスタイル抜群。

この子になら問題無く初めてを奪われてもいい、そう思わせるほど美しかった。


「あ、どうも・・コトナガ ヒデアキさんですね?」


少女は顔に似合わず流暢な日本語を喋ったので、違和感が半端なかった。


「は、ははははい。そ、そうです」


なに緊張してんだ。落ち着かねぇと。

多分こいつは、カード会社のオペレーターなんかじゃねぇ、

きっとモデル事務所かなんかにスカウトされた世間知らずハーフ少女だ。

『こんな話聞いてません!』

『いやいや契約書に書いてあるよ』

ってパターンでここに居るに違い無い。


「一応、確認なんですけど」


少女は上目使いに問いかけてきた。


「な、なんでしょう」


ていうか何で俺敬語使ってんだ、相手はひとまわり年下だぞ。


「今すぐイキたいですか?」

「ええっ!?」


やべぇ、急過ぎる。まだ心の準備が出来てねぇ。

大体今メールが届いたばかりだぞ、これじゃあナンパモノと変わんなくね?


「ごめんなさい、ちょっとスケジュールがおしているので、

 すぐに決めていただきたいのです。

 セイシをかける事なのであまり急かしたくは無いのですが」

「はひゃい!わ、わかりました」


いきなりぶっかけモノなのか!?

それにしても恥ずいっ、声が裏返りまくる。

しかしこのやり取り、もうすでにプレイが始まってるみたいじゃないか。

でもこういう交渉って普通スタッフがするよな。

もしかしてこの子スタッフか?


「ありがとうございます。快く引き受けてくれて感謝です。

 すぐにためちゃう私がいけないのに」


何こいつ、すっげーエロいじゃん。

やっぱこいつ女優だ。

でもやっと笑顔が見れてほっとした。

それだけ俺の事気に入ったんだな。

まあこいつになら体を許してやってもいいか。


「すみません、車の正面に立って頂けます?」

「あ、はい、じゃねぇ・・おう!」


少女は俺の返事を聞くと運転席に乗り込んだ。


「ちょっと待てよ、お前運転手なのか!?」

「はい、まだまだ未熟者なんで女神兼、運転手なんです」


なるほど、なかなか厳しい世界なんだな。

ていうか今、女神って言わなかったか?

まあ人の目もあるし隠したいのかな。

だから思わず自分の事を女神・・・・って言うか?

あっ、もしかして芸名なのだろうか。


「それでは目を閉じて下さい。痛いのは一瞬だけですからね」

「は・・おうっ!」


目隠しプレイなのか?

しかし男も最初は痛いのだろうか。

筆おろしモノは数多見てきたが、誰も痛そうな素振りを見せなかったが。

と、思い返した次の瞬間。

ギュルギュルギュルっと物凄い音がして、ゴムが焼ける時の匂いがした。

もしかして男優の凄まじいピストン運動が始まったのか!?と思ったが、

そんなわけも無いので、 目を開いてみた。

するとそこには、NN号に轢かれた首無し男の体が横たわっていた。

それを見た俺は思いっきり叫び声を上げたつもりだったが、

声が出なかったし息も出来なかった。

よく見ると首無しの体は俺の服を着ていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る