行商人のラシャムさん

凱蘭

ラシャムさんは語り継ぐ

 (ああ……今日も寒いな)


 鉱石、宝石が専門の行商人であり、採集家のラシャム・ライドンが宿に戻りながらぼやく。

 ラシャムは朝から露店に赴き、商売をしていた。そのせいかラシャムの容姿は目に隈ができ、男とは思えない透き通った茶髪は今ではもうぼさぼさだ。


「今日はもう寝て朝イチで顔を洗うか……」


 そうしてラシャムの一日は終わっていく。




「よーし!今日も頑張って稼ぐぞ。特に今日は涼の刻で山も若干削れていることだしな、しっかりと採取するぞ!」


 部屋を出てトイレへと向かう。ラシャムの住む世界、アイグルはまだ水道が普及しておらず、井戸とトイレが併設されている。

 ドアを潜るとそこは都会だった。


 (??????)


「何処だここ?しかも戻れねえ!どうなってやがんだ!」


 都会の大通りで狼狽えるラシャムは道行く人々からすればただの見世物か不審な人物としかとれない。


「と、とりあえずそこら辺の木陰にでも……って木が生えていない……!?」


 そう、ここは大型ビルが連なって建っている大きな都市だ。見渡してもラシャムには見たことのないものばかりである。


「あのー、ここはどこですかね?」

「ヒッ!?ここは都会ですよ。田舎者ならさっさと向こうを真っ直ぐ行くといいです。まったく、どんな未開の地で過ごしたんです?服も汚れていますよ……」


 男から発声されたものは、とてもではないが好意的でない。

 渋々ながらもラシャムは男性にお礼を言いこの場を去る。


「ここは嫌な人が多そうだ。だが見たところ他の人たちと服装が違うから仕方ないか」


 それもその筈。洗濯もできていないラシャムの服は、到底綺麗だと言えない。

 そうしながら物思いに耽りつつ二時間歩いていくと、鉱山らしき場所があった。そこで、近くの男性に声を掛けてみる。ここにいる人たちは皆似たり寄ったりの服装で話しかけやすい。


「ここは鉱山ですよ。時々宝石なんかも取れます。良いものでエメラルドでしょうか。あなたは何をしに?見たところ同業者のようですが」

「俺は近くを通ってな。俺も鉱石を採集する仕事をしている。ここは何か制限はあるか?」

「特にないですが一つあげるなら仲良くすることでしょうか?ここは皆で競い合う場ですから」

「そうか、ありがとう」


 (どうやらここの者達は優しいようだな)


 先程の若者とうってかわっていいお爺さんに出会え安堵する。

 それから近くを掘り続けていると一つ引っ掛かった。ハートシェイブだ。どちら方いうと格安で取り扱われている。だが、ラシャムは知らない。何故ならアイグルには無いからだ。

 聞こうと思い先程の男性へ聞きに行く。


「おお。これはハートシェイブですね。おめでとうございます。これは価格は低いものの一部のマニアには人気ですよ。しかも、何か特別な力を持っているんだとか」

「なるほど。悪くないな、助かる」


 お礼を言い、後ろを向くと既に夕日がたちこんでいた。


「帰りたいのは山々だがどうするか」


 少し近くを探索していると洞窟が見えた。

 ここで寝泊まりをしようと考えた。ラシャムは手持ちの布を敷き、予め取っていた木と松ぼっくりに火をつける。


「今日は眠くなるまで掘るか」


 そこでふと目についたものがあった。それは、水晶体である。水晶体といっても大きさは二メートル近くあり、中には人影が見える。

「な、なんだこれは……?これはまさか――」


 破滅の考えが思い浮かんだ途端水晶体の先から八個へと分裂し、中の人影が姿を現す。


「オマエワ、ダレダ?」

「なっ……!?」

「語学共通プログラム、適用リベレイト完了。再度問う。お前は誰だ?」


 訳が分からない。いきなり裸の女の子が飛び出されても頭が理解しても全く動くことが出来ない。頼む。動いてくれ――


「返答なしと見る。安寧化プログラム実行。これで、どうだ?」

「ここは……?」


 そこは、緑いっぱいの野原だった。そこにある花からは甘い芳醇な匂いがし、心も体も落ち着く。


「私はフロー・ディロンだ。お前は?」

「ラシャム、ラシャム・ライドンだ」

「お前は何をしに来た?返答次第では……」

「俺はここへ鉱石等を採集しに来たんだ。そもそも俺はこの世界の人間ではないぞ!」

「ほう……どういうことだ?」

「……うまく説明できないが――」


 それから俺はここに来るまでの経緯を嘘偽りなく話した。そうしているとフローは笑いだし、一人納得顔になった。


「どうしたんだいきなり……?」

「すまんな……それしたの私だわ!」


 いきなり感情が普通の女の子になっている。まるで訓令から解かれた兵士のようだ。


「笑顔で言わないでくれよ!もちろん帰れるよな?」

「ああ、大丈夫だ。ただ、後一日待ってくれたらだけどな」


 話によると、召喚の反動があり、少し動けないのだという。それなら仕方ないと応じるラシャム。


「分かった。何か動力とか必要なものはあるか?」

「そのハートシェイブがいる。それを二つに切り枠に納めるといけるぞ」

「了解だ。だったらこれは預けるよ。俺は明日、一日中鉱石探しをするからよろしく頼むよ」

「承知した」


 それから会釈をし、二人とも就寝をとる。

 しかし、まさかあのときのハートシェイブが役にたつとは思いもしなかった。


       ―翌日―

「それじゃあ頼むぜ」

「ああ、また後でな」


 二人は別々で仕事をする。フローは動力回復へ、ラシャムは向こうへ持ち帰る為の宝石を……。

 ラシャムは相変わらずの調子で夕方まですると、辺りを見渡した。


「結局一つか……才能ねえなぁ……」


 採れたものは、ロードクロタイトのみ。これも基本的に安価で取引されている。


「帰って何するかね……この調子じゃまた貧乏街道まっしぐらだな」


 ラシャムは落胆しながらも洞窟へと戻る。


「遅かったわね。私はいつでもいいわよ」

「なあ、人を召喚できるほどの能力を持っているなら何か才能をくれよ……」

「いいわよ。ただし向こうで答え合わせをしてね」

「それじゃあ分かんねえよ!まあいいが……」

「物わかりが良いわね。さっさと来てちょうだい」


 ラシャムは水晶台へと歩んでいく。そこでフローにハートシェイブの欠片を渡される。


「これをここに置いて。そうしたら帰れるわ」


 言われた通りにする。すると辺りが蒼白い光に包まれた。フローが何か言っている。だが何かは聞き取れない。


「…………てね」


 何と言ったのだろうか。これは今でも分からない。


 それでも俺はこれでいい。あのときのロードクロタイトを手に持ちながら俺は吟遊詩人としての才能を開花させ、皆へ語り続けていく……。

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