5話:青は藍より出でて藍より青し
「やっと目を覚ましたかい? トオル君」
目を開けると、ルナが覗き込むようにトオルを見つめていた。
「マスター……。申し訳ありません」
「なにを言ってるんだ。君はよくやったよ。格上の相手を見ても逃げ出さず、周りの環境を考え行動した。誇るべきことだよ」
グレイの表情はいつもと変わらず、微笑を浮かべている。
「ごめん、トオル……。私が魔法を使えてれば」
ルナは俯きながら、後悔を口に出す。
「なに、謝ることじゃない。しっかり応援を呼んで来れたじゃないか」
ルナは俯いたままで言葉を発さない。
「ルナちゃんはトオルが窮地に陥っているのに、そこにいられなかったことを悔やんでいるんだ」
グレイが「やれやれ……」と言わんばかり首を振る。
「ルナちゃん? 魔物と戦う術が欲しいかい?」
---
「君は強大な魔力をその小さな体に秘めている。自分では気づいていないかもしれないけどね」
ルナが顔を上げ、グレイを見る。
グレイはルナへ試すような目線を送った。
「君はその強大な魔力を自分の意のままに操ることができないだろう? それは実に危険なことだ。魔力が暴走し、敵味方関係なく傷つけてしまうかもしれない。そこでだ……」
グレイはルナから視線を外し、再度目を合わせる。
「僕に魔法を教わる気はないかい?」
---
ルナは急な提案に驚いていたが、すぐに冷静になり返答を考えた。
「トオル……」
ルナはトオルを見て、意見を求める。
「それは俺の問題じゃない。ルナ、お前の問題だ。やりたくないなら『やらない』、やりたいなら『やりたい』と言えばいい。俺はお前の選択を縛る気はない」
ルナはトオルの言葉に頷き、グレイを見て口を開いた。
「やります。いえ、やらせてください」
グレイはルナの頭の上に手を乗せ、笑顔で頷いた。
「君の意思は受け取ったよ。でも、修行は明日からだ」
「わかりました」
ことの次第を見ていたトオルがルナへ言った。
「ルナ……。やるなら絶対中途半端にやるな。徹底的に学べ」
「うん」
グレイがなにかを思い出したようにトオルだけに聞こえるよう耳打ちする。
「トオル君、言い忘れていたよ。ルナちゃんは僕よりも魔力が高い。あの子は確実に僕よりも強くなる。そうなった場合に君が足を引っ張らないよう、君も修行したいだろう?」
「はい……」
グレイは微笑を浮かべ、頷いた。
「君にちょうどいい修行場に心当たりがあるんだ。まあ、ちょっと難しい問題があるんだけどね……」
グレイは困ったような視線をトオルに向ける。
トオルはその様子を見て、「なんだろうか……」と疑問を持つ。
「難しい問題ですか?」
「うん。君は、『
「知らないですね。俺は冒険者のことについてはまったく詳しくないんで……」
トオルは素直にそう答える。
「そうか。その『金色の探求者』というパーティはこの王都の冒険者ギルドの冒険者じゃなく、他の都市の冒険者なんだけど、先日からその『金色の探求者』というパーティがこの王都に来ていてね……」
グレイは言葉を詰まらせる。
「来ていて?」
「『金色の探求者』はパーティランクが冒険者ギルド最大のランクSSSなんだ。そのパーティに『剛腕のライノス』というサムライがいる。そのライノスはこの大陸で、間違いなく三本指には入るサムライでね。だけど、ライノスは少々、気難しい性格なんだ。僕が頼めば稽古をしてくれるかもしれないけれど……。まずは君のことをライノスみ認めさせなければならない。どうだ、やってみるかい?」
トオルは悩みすらせずに答えた。
「やります」
---
「そうか、わかった。じゃあ、稽古をつけてくれるよう言っておくけど、認めさせなければ修行はできない。あと、修行の期間はおよそ一ヶ月ってとこだ。彼らもクエストでこの王都に来ているみたいだからね。一ヶ月で強くなってきてくれ。僕はトオル君とルナちゃん、君たち二人がこの冒険者ギルドを代表のパーティになってくれそうな気がするんだ。ただの『冒険者の勘』だけどね……」
トオルはグレイの様子を見て、苦笑いする。
「それじゃあ、トオル君はもう一日安静にして明日また予定を伝えるよ」
「はい、ありがとうございます」
トオルは部屋から出ていくグレイに向かって一礼した。
---
「トオル、どう? 動けそう?」
ルナは不安そうにトオルを見つめている。
「ああ。だいぶ身体が動くようになった。まだ少しなまってるけどな」
トオルは背伸びやストレッチをしながらルナと会話していた。
部屋の扉が開き、グレイが入室してくる。
「うん。その調子を見るに、もう身体の方は大丈夫そうだね」
いつもの微笑を浮かべながら、グレイはトオルの身体を見ていた。
「はい、おかげさまで。ルナをよろしくお願いします」
トオルはグレイへ頭を下げる。
「いいよ、いいよ。これは僕の冒険者ギルドが大きくなるチャンスでもあるからね。
ああ、それと。ライノスには話をつけておいた。今日の昼前に、王都の噴水広場へ行ってくれ。そこにライノスがいるはずだ」
「わかりました」
グレイはルナを手招きながら言う。
「さぁ、ルナちゃん。行こうか」
グレイはルナの手を引きながら扉を開ける。
「トオルも……。修行がんばってね」
「ああ。ルナもな」
トオルは笑顔でルナを見送った。
---
「さてと、噴水広場か……」
トオルは噴水広場を探しながら王都内を練り歩く。
「『金色の探求者』が広場にいるらしいわよ! 見に行きましょ!」
一人の少女と男の子がトオルの横を横切って行く。
「おっと、噴水広場はあっちか。っていうか、『金色の探求者』勢揃いしてんのか? なんか気恥ずかしいな」
そう呟きつつ、少女たちの行った方向へ歩き出す。
「おっと、失礼」
黒いフードを被った女性らしき人とぶつかる。
「こちらこそすみません」
トオルは謝るが女性は聞きもせずに足早にその場から去って行った。
「くっそ。なんで『金色の探求者』がこんなところにいやがるんだ……」
トオルとぶつかった女性はそう呟くが、王都は活気で溢れており、その声は誰の耳に入ることもなかった。
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「おせぇな。ここで待ち合わせだって、あのいかれた魔法使いが言ってたはずなんだが」
「そう逆上するでないわ。気長に待てば良い」
「そうは言うけどよぉ、ミスティア。あいつは俺に修行をつけて欲しいやつがいるっていうから来てるんだぞ? それを待たせるっていうのは……」
「ほれ、見てみぃ、ライノスよ。あやつが『トオル』じゃろうて」
ミスティアは遠目からトオルを指差す。
「はぁ? あいつはただの若造じゃねぇか。あんなやつがランクE? 少し若すぎやしねぇか?」
「お主だってあのくらいの頃にはランクCほどにはなっとったじゃろうに」
「まぁ、俺は強いからな」
「お主は自分の力を過信しすぎじゃ」
---
「……? どこにいるんだ? 『金色の探求者』たちは」
トオルは視線をあちらこちらに彷徨わせるが、その姿を捉えることは出来ない。
「おい、若造」
トオルは背後から声をかけられる。
「てめぇが『トオル』か?」
そこには、2mほどの顔に大きなキズがある大男が立っていた。
サムライと契約少女 天ヶ原蔵之助 @amagahara_kuranosuke
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