4話:濃霧の森の異変

「今から『濃霧の森』へ行くが、あそこは中から外へはテレポートできるけど、外から直接、中へはテレポートできないんだよな。近くまでテレポートできるか?」

「分かった。『テレポート』」


トオルとルナは濃霧の森付近までテレポートした。



---



「ここが濃霧の森か。視界があまり良くないし、出てくる魔物もそこそこの魔物だ。離れるなよ?」


ルナは小さく頷く。


「ところでルナは『魔力が高い』って言ってたけど、『魔法』はテレポート以外使えないのか?」

「うん。使えるのはテレポートだけ。昔、行きたい場所を思い浮かべたら勝手にテレポートしたの。だから魔法が使えるのは偶然。魔力が高いっていうのは初めて知った」

「ふーん。でも、冒険者になったわけだし、攻撃魔法も使えた方がいいんじゃないのか?」


ルナはそれを聞いて、胸を張って答える。


「大丈夫。トオルが守ってくれるから」

「なんでお前が誇らしげなんだろうな……」



---



「結構、奥深くまで来たけど……。とくに異常はないな。出てくる魔物もそこまで強い魔物じゃなかったし。でも、なんで行方不明者が続出したんだ? まぁ、考えても仕方ないか。また被害が出るようなら調査にこればいい。『メテオベア』を狩って帰るか」

「トオル、あそこにいる魔物ってメテオベアかな? 熊っぽいけど……」


ルナが指差した方に赤毛の、炎を纏った熊がいた。


「よくやった。あれはメテオベアだ。とっとと倒すか」


トオルは背後から忍び寄り刀を振り下ろした。

だが、メテオベアに勘付かれ、回避される。


「まぁ、さすがランクBの魔物ってとこだな。一筋縄ではいかないか」

「グルルルル……」


メテオベアはトオルに向けて口から炎の球を吐き出す。

トオルはその火球を横へ跳び、かわす。


「うおっ。あぶなっ。俺の大切な服が燃えたらどうすんだ。このクソ熊公」

「トオル、口が悪い。さっさと倒して」

「わかってるよ。すぐに終わらせる」


トオルは一気にメテオベアとの間合いをつめる。

そしてメテオベアは再び火球をトオルに向けて吐き出す。

しかし、それでもトオルは止まらない。


「トオル!火球が!」


トオルめがけて吐き出された火球がトオルに当たる瞬間……。

その火球はトオルによって切り裂かれた。


「わざわざ避けずに斬っちまえば、間合いを取られる心配もないよな」


トオルは刀をメテオベアの腹に向け、横に振り払った。

メテオベアはなにかに怯えた様子で、避けようとさえせずに切断される。


「なにかに怯えてた……? ルナ、そっちは大丈夫……」


トオルはルナの方へ振り返りながら、メテオベアが怯えていたなにかを目にする。


「ルナッ! 危ねぇ!」


トオルは全速力で駆け出す。

その『なにか』はルナへ向けて爪を振り下ろそうとしていた。

間一髪のところでトオルはルナを抱きかかえて、その恐ろしい爪を回避する。



---



「なにが起こったの……?」


ルナは状況を理解できず、唖然としていた。

そこにいたのは、トオルの四倍以上はある巨体に、白い目をした全身赤色の魔物。

そして、その魔物の最大の特徴は額から生えた二本の『角』。


「コイツは俺の故郷にしかいないの魔物だ……。なんでこの大陸にいやがる……」



---



「ルナ、今すぐここから冒険者ギルドへテレポートして、ギルドマスターに応援要請をしてくれ」

「トオルも……」

「駄目だ。ここは王都からも近いし、ここで俺がコイツを食い止めなければ、森の外へ出て行く恐れもある。そうなった場合、確実に森周辺の集落に被害が出る。だから、ルナ。お前が行くんだ」

「でも……」

「ルナ、頼む」


ルナの目は不安を宿した眼差しから、決意のこもった眼差しへ変わる。


「……分かった。トオル……、気をつけてね」

「ああ、任せとけ」


最後にもう一度トオルを一瞥し……


「『テレポート』」


ルナは冒険者ギルドへ向け、テレポートした。



---



「さて、お前の相手は俺だぜ?」


魔物はトオルをしばらく見つめ、雄叫びとともに間合いをつめる。

トオルも同様、間合いをつめ、刀に手を当てる。

魔物の鋭い爪が横殴りにトオルめがけて迫る。

トオルは冷静にその爪を回避し……


「隙ありっ!」


懐へ入り込み、刀を魔物の腹へ叩き込む。


「なっ!? 刃が通らない!?」


魔物の皮膚に弾かれ、魔物の拳によって大きく吹き飛ばされる。


「くそっ。まだ終われねぇんだよ」


トオルは立ち上がり、魔物を睨んだ。


「まだまだこれからだぞ?」



---



しばらくの間、一進一退の攻防が続いた。


「くそっ。まだ応援はこないのか……」


トオルは足を踏み外し、大きく仰け反る。


(しまった……)


魔物の爪によって肩を引き裂かれ、またもや大きく吹き飛ばされる。

魔物は隙を見逃さず、止めをさそうと間合いをつめる。


(くっ。ここまでか)


トオルは目をつむり、死の訪れを待った。


その瞬間……。


「遅くなってすまないね。よく持ちこたえたものだよ」


その声を聞き、トオルは目を開ける。


そこにはギルドマスターの「グレイ」の姿があった。



---


グレイは杖から風魔法を放ち、魔物を吹き飛ばす。


「トオル君の判断はかなり素晴らしいものだ。トオル君、あの魔物に見覚えがあるね?」

「ええ、あれは俺の故郷の大陸の魔物……『オニ』ですね」

「ああ、まったく。なんでこの大陸にいるのか見当もつかないよ。下級とはいえ、ランクSS級の『オニ』をよく食い止めたものだ。『白オニ』じゃなくて『赤オニ』でよかったね。白オニだった場合、トオル君は多分死んでいたよ」


グレイはオニを睨み、呟く。


「あのオニが行方不明者続出の原因か」


「ルナちゃん。トオル君を連れて冒険者ギルドへテレポートしてくれ」


グレイは優しい気な笑みを作り、ルナへ声をかける。


「わかりました。頑張ってください……。『テレポート』」



---



「……さてと」


グレイは殺気を剥き出しにし、オニを睨みつける。


「僕のギルドメンバーを手にかけておいて、楽に死ねると思うなよ?」


「『ブループロミネンス』」


グレイがその魔法を口にした瞬間、オニの周りが青い炎の竜巻に包まれる。


「知ってかい? 赤い炎よりも青い炎の方が熱いらしいよ? ……苦しんで息絶えろ」


青い竜巻が消えた時、そこに赤いオニの姿はなかった。

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