3話:ギルドマスター
「初めての人間の街だけど……。感想は?」
「す、すごい。なんだか賑やかだね。この街はなんていう街なの?」
「ここか? ここは『王都 ヴィレアム』だ」
「きれいな街だね」
ルナは目を輝かせながらあたりを見回す。
「さて、冒険者ギルドに向かいたいな。ルナ行くぞ」
「……」
「ルナ?」
ルナは物欲しそうに、屋台の食べものを見つめながらよだれを垂らしていた。
「しかし、腹が減ったな。なにか食べて行くか?」
「え。あ、冒険者ギルドはいいの?」
「後回しでいいよ。なにか食いたいものはあるか?」
「えっ。えっと……」
ルナは先ほどの屋台を見つめて、指さした。
「あ、あれ」
---
「これはなんていう食べ物?」
「これは『エビック』っていうんだ。鹿の魔物から取れる肉を焼いて、味をつけた物だよ」
「ふーん。おいしいね」
「ああ、うまいな」
ルナはエビックを嬉しそうに頬張っている。
「ルナ、頬にソースついてるぞ」
トオルはルナの頬についているソースを指で取ってなめる。
「ん? どうした?」
ルナは赤くなりながら俯いて言った。
「なんでもない......」
---
「腹も膨れたし、冒険者ギルドに向かうか」
「冒険者ギルドってなにをするところなの?」
「うーん。簡単に言えば、クエストを達成してお金を受け取るっていう仕事みたいなものだ」
「じゃあ、わたしも冒険者になれる?」
「なんだ? 冒険者になりたいのか?」
ルナは小さく頷きながら、トオルを見る。
「わたしも人間のやっていることを体験してみたい」
「わかった。じゃあ、冒険者登録をしよう」
ルナとトオルは冒険者ギルドへと向かった。
---
「こんにちは、冒険者さま」
(ああ、この前の人じゃないのか)
「クエストに達成報告をしたいのだが」
「ああ、トオルさまでいらっしゃいましたか。こちらが報酬です」
「あともうひとつ、この子の冒険者登録をしたい」
「わかりました。こちらの紙に、お名前と職業、年齢、ステータスをお書きください」
「わかった」
トオルは目を細めてルナを見る。
「ルナ。お前っていくつ?」
「わたし? えっと……」
ルナはトオルに手招きをする。
「しゃがんで……」
トオルにしか聞こえないように耳に手を当て、小さな声で言った。
(えっと……。魔族には歳を数える習慣がないみたいなの。みんな長生きだから……)
(へぇー。じゃあ、年齢がわかんないわけか。ルナが人間だったとしたら、大体12、3歳ってとこか?」
ルナは小さく頷いた。
「あ、ステータスを測ってもらっていいですか?」
「はい、こちらに手をかざしてください」
ルナは指示された通りに、光る物体に手をかざす。
「あの、前にも思ったんですが、その物体はなんですか?」
「これは『古代遺物』のひとつですよ。この大陸にあるダンジョンにまだたくさん発見されていない『古代遺物』があるみたいですが……」
「なるほど……」
ルナが手をかざしていた物体からカードが出てくる。
「じゃあ、書き込ませていただきます……?」
「どうかしました?」
「トオルさまのお連れの方は、ランクSの賢者……、いえギルドマスターに匹敵するほどの魔力をお持ちですが……。高位の魔法使いの方ですか?」
「……。そ、そうなんですよー。この子、幼いけど、すごく強い魔法使いなんです」
トオルはその場しのぎのデタラメを口にする。
「そうだったんですね。じゃあ、ご職業は『魔法使い』でよろしいのですか?」
トオルはルナを一瞥する。
「大丈夫……です」
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「これでルナさまの冒険者登録は完了です。こちらをお受け取りください」
ルナは冒険者カードを受け取る。
名前:ルナ
職業:魔法使い
年齢:13
「あ、トオルさま。そういえばギルドマスターがお呼びしておりました。『期待の新人の顔を一目見たい』と申しておりますが……。お時間はよろしいですか?」
(ギルドマスターが俺を?)
「分かった。案内してくれ」
---
受付嬢は『ギルド管理長室』と書かれた部屋の扉をノックする。
「ギルドマスター。トオルさまをお連れしました」
「入ってくれ」
「失礼します……」
受付嬢は扉を開き、トオルたちに入室を促す。
「失礼します」
トオルは一礼し、部屋へ入る。
「やあ、君がトオル君だね」
青髪の若い青年が机に足を乗せ椅子に座っていた。
---
「『一目見たい』との話でしたが……」
「ああ、受付嬢から『ランクAほどのステータスを持った冒険者志願者が来た』などと言われたら、見ておきたくなるじゃないか」
「は、はぁ……」
「まあ、いい。座ってくれ」
トオルとルナは椅子に腰をかける。
「話したいことがいくつかあるが……まず。その子、『魔族』だね?」
---
トオルの顔が険しくなる。
「そう警戒するな。だが、なぜ魔族がここにいるのかってことが気になっただけさ」
「こいつはルナって言います。俺の使い魔です。」
「使い魔……? 君のその服装や、腰の剣からして、君は『サムライ』だろう? なぜ使い魔の契約ができる?」
トオルは腰の「天月」に手を当てる。
「この刀の能力です。この刀には、魔族や魔物の浄化効果、そして、主従契約の能力を宿しています」
「ほう。主従契約の能力を宿した武器を宿している武器か。聞いたことないが……。鑑定させてもらっても?」
トオルは「天月」を差し出す。
「『鑑定』。なるほど、本当に主従契約の能力を宿している。ありがとう」
ギルドマスターは「天月」をトオルへ返した。
「魔族を主従契約している者は初めて見た。魔物と契約している者は何度か見たことはあるが……。理由を聞かせてもらってもいいかい?」
「はい……」
トオルは「なぜルナと契約したのか」という理由を話した。
「なるほど。そんなことが……。でも、君の判断は間違っていないと僕は思うよ。確かに、その子は『魔族と人間の和解』へと導く可能性は十分ある。だが、全人間、全魔族がそれを望むか。という点では、はっきり言って、『望まない』だろうね」
トオルの表情は暗い。
「俺もそう思います。今まで、殺し合いをしてきた者同士の和解は難しいでしょう。『家族や友人を殺された者は和解を望まない確率が高い』ということですよね」
「そういう事だ」
「ね、ねえ。トオル。わたしは人間と仲良くできない……の?」
ルナは悲しげな表情でトオルに言う。
「そうじゃない。お前には俺がいるし、俺のように魔族を嫌わないやつだって必ずいる」
「そっか……」
「話の途中ですまないが、君にお願いしたいことがある。受けるか受けないかは君次第だが」
「なんですか?」
「つい最近、この王都のすぐ近くにある『濃霧の森』にクエストで向かった冒険者が何人も行方をくらましている。冒険者の安否やクエスト事情には手を出さないのが原則なのだが……。今回の行方不明者数は少し異常だ。『濃霧の森』は最低でもランクBの魔物は出現するくらいの森なはずなのだが……」
「その『濃霧の森』の調査を俺に依頼したいと?」
「ああ、もちろんタダでじゃない。君がこのクエストを達成した場合、ランクをHからEまで引き上げよう。実力に見合わないクエストをいつまでもこなすのは骨が折れるだろ?」
「わかりました。そのクエスト受けさせてください」
「ありがとう。もし異常がなかったら、そうだな……。濃霧の森にいるランクBの魔物『メテオベア』を倒して、その魔物の爪を証拠として採ってきてくれないか? ランクAに匹敵する力を持っている君ならこなせると信じているよ」
「わかりました。やらせていただきます」
「期待しているよ。異常があった場合すぐに知らせてくれ」
「はい、失礼します」
トオルは部屋から出ようと扉に手をかける。
「ああ、僕としたことが。自己紹介を忘れていたよ。僕は『グレイ』だ。よろしく頼む」
「俺は『トオル』、こっちは『ルナ』です。よろしくお願いします」
トオルは冒険者ギルドをあとにした。
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