2話:魔族の少女 ルナ

「へぇ、これがダンジョンか」


入り口は狭く、暗い。


「よく見えねぇな。ところどころ松明があるくらいか」


このダンジョンは、天然の洞窟のような作りをしている。


「さて、探索って言ってもなにをすればいいのやら。とりあえず見て回ってなにもなれければそれでいいか」


トオルはダンジョンの奥へと足を踏み入れる。


「お? あれはゴブリンか?」


緑の身体に尖った耳、つり上がった目。


「まあ、冒険者を初めて一匹目の魔物にふさわしいな」


トオルは「紅天狗」を引き抜き、一振り。

ゴブリンの身体は上と下で真っ二つに分かれ、霧散していく。


「まあ、とくにやることも少ないし、ダンジョンに慣れろって意味のクエストなのかな……」


トオルはとくに満足した様子もなく、入り口へ戻ろとする。

そのとき、トオルの耳に声が入ってくる。


「……たっ……すけ、て」


「確かに聞こえたな。あれは子供の声だ。でもなんで子供の声なんか……? 罠かもしれねぇな」


トオルは声のした方向へ慎重に向かう。


「っ!……あれは」


一人の少女が、狼のような魔物に食われている光景だった。

トオルは紅天狗を狼の頭上にかざし、振り下ろした。


「ひでぇな。でも、なんでこんなところに子供が……?」

「……い、た……ぃ、」

「すまない、お前を助けてやることは……。?……お前、その角は……」


「魔族……か?」



---



「おい、聞こえるか? なんで魔族の子供がこんなところにいるんだ?」

「わ、たし。……お、やをころ……されて。にげて……きた。それで……てれ、ぽーとした……けど」

「精神状態が不安定な状態でテレポートを使ったのか。それでダンジョンに。運の悪い子だ」

「に……んげんと、わたし……たち、なんで、たた……かうの? わたし……にんげんのこと……しりたかっ、た。だから……」


(こいつは、生かしてやらなければいけない。人間と魔族が和解する希望かもしれないんだ。)


「わかった。お前に人間の住む世界を見せてやる。だが一つ条件がある」

「……な、に、?」

「このままじゃお前は死ぬ。だから……」


「俺と、主従契約を結べ」



---



「……しゅ、じゅ? わ、たし……しにたく、ない」

「分かった。じゃあ、こう言うんだ」

『主人に誓う。この命を主人に捧げる』

「しゅ……じんに、ち……かう。この……いのちを、しゅ……じんに、ささ……げる」


魔族の少女の体が光に包まれる。


「どうだ? 生まれ変わった気分だろ?」


先ほどの血に濡れた姿はどこにもなかった。



---



「あれ? 痛く、ない? なんで?」

「お前は俺の使い魔になったんだ。さっき言っただろ? 『主人に命を捧げる』って」

「うん。言ったけど……」

「それで、お前の肉体は再生成され、お前の命じゃなくて、俺の命になった。ってことだ」

「どういう……こと?」

「難しいことは考えなくてもいい。……あれ? お前、角は?」


魔族の少女は自分の頭をさする。


「なくなってる」



---



「まあ、なくなったなら好都合だ。それなら問題なく街に入れるだろ」

「わたし、これからどうすればいい?」


少女は不安げな顔でトオルに問いかける。


「どうすればいいもなにもなぁ……主従契約を結んじまったわけだし……」


「そうだ、お前、人間のことを知りたいって言ってたよな」

「うん……」

「じゃあ、俺と人間について学んでいくっていうのはどうだ?」


少女は眠たげな目を見開き、満面の笑みで頷いた。


「うん!」



---



「これから街まで行くけど、俺のダッシュにはついて来れないよな……」

「あっ……わたし……」

「あー、そうだ! お前、俺の背中に掴まれ!」

「えっ? う、うん」


少女はトオルの背中に掴まる。


「振り落とされんなよ?」


トオルは全速力で走り出した。



---



「大丈夫か?」


トオルと少女は街の門の前にいた。


「う、うん。」

「ははは。お前、髪の毛すごいことになってるぞ?」


少女の長い銀髪は、見事に逆立っていた。

少女は顔を赤くしながら口を開く。


「わたしのテレポートを使えば、こんなことにはならなかった……」


(あっ……。)


「先に言えよっ!」

「言おうとしたら、『背中に掴まれ』っていうから……」

「まあ、いいや。ところでお前、名前は?」

「名前はない。今のわたしは、昔のわたしとは違うから……」

「ああ、そういうことか。別に気にしなくていいんだぞ? 昔の自分のように振る舞えばいい」

「いい。名前、つけて」

「えっ? 俺が?」

「うん」

「そっか。それもそうだよな、じゃあ……」

「『ルナ』でいこう」



---



「ルナ……か」

「よし、名前も決まったし、さっそく街に行くか」


トオルとルナは街に足を踏み入れた。

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