サムライと契約少女

天ヶ原蔵之助

1話:冒険の始まり

「人」「魔族」「魔物」。

人は魔族と魔物を殺し、魔族は人を殺す。

魔物は人や魔族を無差別に殺し、時には同族で殺し合う。

人はなぜ魔物や魔族を殺すのか。

それは殺さないと殺されるから。

人は魔族を恨み、魔族は人を恨む。

この世界では、それが当たり前のこと。



---



「にいちゃん、変わった格好してるな。どこの出身だ?」

「俺は、遠い東の島国の出身さ。これは『和服』っていうんだよ」

「へえ、『ワフク』か。聞いたことねぇな」

「そうだろうな。この辺では着ているやつを見たことがないし」

「その腰の二本の剣も変な形してんな。それも出身の国の物か?」

「ああ。『刀』という剣だよ。かなり特殊な効果が付与されてるんだ」

「特殊な効果?」

「左の刀は『天月』。自分の意志で魔物になったわけじゃないアンデッドを浄化したりする効果が付いてる。右の刀は『紅天狗』。危険な魔物や魔族を殺める剣だ」

「ほう。にいちゃんはその『アマツキ』って刀をよく使うんだな」

「なんでわかるんだ?」

「だってにいちゃんはさっき、茶を飲む時に右手で飲んでただろ? てことは右利きだ。それで、剣は普通、自分の利き手とは反対の腰にぶら下げる。ってことは、にいちゃんは『アマツキ』っていう浄化効果のついた剣を使うってことだろう」

「よく見てるな」

「まあ、商人は人を見る目が大事だからな」

「まさに、商人って感じだな」

「で、なにか用があったんじゃないのか?」

「忘れていた。冒険者ギルドへの行き方を教えてほしいんだよ」

「そうか。それならこの通りの突き当たりを右に曲がったところにあるぜ。にいちゃんはいい冒険者になれるだろうな」

「ああ、ありがとう。また会ったらよろしく頼むよ」


親切な商人の姿がだんだんと小さくなって行く。

周りから多数の視線を感じた。


「さてと。冒険者ギルドはこんな見慣れない格好の『サムライ』を受け入れてくれるのかね? 目上のやつと話すときは、言葉遣いに気をつけろって昔から言われてきたからなー。」


そう呟き、男は冒険者ギルドに向けて歩き出した。



---



「いらっしゃいませ、お客様。今回はどのようなご用件で?」

「冒険者の登録をしたいんだけど」

「冒険者登録ですね。こちらの紙に、お名前とご職業、年齢、ステータスのご記入をお願いします」

「ごめん、ステータスってなに?」

「ああ、お客様はこの大陸の出身ではないのですね。ステータスとは、お客様ご自身の強さを数値化したようなものです」

「そのステータスはどうやったらわかるんだ?」

「こちらに手をかざしていただければ、ステータスが表示されたカードが出てくるはずです」


男は青く光る物体に手をかざす。


「出てきましたね……。おや?」


職員は目をこすり、もう一度カードを見直す。


「すみません、もう一度手をかざしてもらってもいいですか?」

「ああ……」


男は再び、青く光る物体に手をかざす。

そして職員は再びカードを手に取り、恐る恐るそのカードを見る。

職員は大きく目を見開き男に言った。


「お客様は……何者ですか?」



---



「どういうこと?」

「えっと、お客様のステータスの数値が異常な程高いです……」

「高いと問題があるの?」

「登録するのには問題はありません。ただ、受けれるクエストはランクによって分けられていまして、登録したばかりの冒険者はランクHで登録され、ランクHのクエストしか受けることができないのです。お客様のステータスはランクA以上に匹敵するステータスですが、そのお力に見合ったクエストを受けることができません。それでもよろしいですか?」

「ああ。それは問題ない。だが、ランクはどうしたら上げれるんだ?」

「自身と同じランクのクエストを何回か連続で達成すると、こちらからランクアップクエストをご紹介します。それを達成できれば、ランクアップです。なお、ランクアップクエストを失敗しても、何度でも挑戦できるのでご心配なく」

「わかった。じゃあ、登録よろしく」

「ステータスは書き込んでおきましたので、あとはお名前とご職業、年齢をお書きください」


名前:トオル

職業:サムライ

年齢:23


「これでいいかい?」

「はい、登録完了です。こちらの冒険者カードをお受け取りください。この冒険者カードはクエストを受けるときや報酬を受け取るときなど、いろいろな場所で提示を要求される場合がありますので、失わぬようご注意ください」

「ありがとう」

「お気をつけて」


トオルはクエストボードへと向かった。



---



「うーん。なにを受けていいかよくわかねーな」


トオルはクエストボードをまじまじと見る。


「『ダンジョンの探索求む』か。なんでこれランクHなんだ?」


そのクエストを手に取りカウンターへ向かった。



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「ああ、トオルさま。いいクエストは見つかりましたか?」

「これなんだけど。なんでこのクエストはランクHなんだ?」

「このクエストですか。これはダンジョンの探索ですが、出現する魔物が弱く、数も少ないとのことでランクHに設定させていただいてます」

「でも、探索はしきってないんだろ?」

「はい、ダンジョンではなにがあるかわかりません。トオルさまの強さなら大丈夫だと思いますが、まだまだ強い魔物が奥深くに潜んでいるかもしれないので、受ける人が少ないんです。可能性は低いですが」

「そういうことか。じゃあ、このクエストに行くよ」


初のクエストを受注した。

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