第2話
食卓に着いて朝食を食べるわけだが用意されているのは2人分のみだ。俺たちは3人、いや正確には2人と1匹な訳だが食事が2人分しかないのは別に嫌がらせというわけではない。
……もしかしたら嫌がらせなのかもしれないが。
ライムは元々スライムの為、食事を必要としない。必要としないと言うと語弊があるか。魔物とは魔力を捕食して生きている。その為、人や動物、他の魔物を襲うがそれはその肉を喰らう為ではなく、その肉の中に含まれた魔力を目的として捕食している。だから魔力さえ得られれば食事など必要ない訳である。ライムの場合、スライムであり燃費が良いこともあり、魔法を連発して魔力枯渇にでもならない限り2,3日に1回俺の魔力を分け与えれば十分である。と言っても毎晩魔力はあげてるんだけど。
テーブルを見渡せばルナが言っていた通りの美味しそうな料理が置かれている。朝はパンとスープを中心にした軽めのものが良いと言う俺の希望通りだ。1年半ほど前にボロ宿屋を抜けて2人で暮らすようになってからは毎日料理を作ってくれている。
スープを一口、口に含む。
「今日も美味しい。ルナ、いつもありがとう」
「いえ、当然のことです」
対面に座って俺が食事を始めるのを待っていたルナの表情はほとんど変わらない。大体俺がいつも感謝を告げてもこんな感じだ。当たり前、当然のことだと返すばかりだが、それはやはり奴隷と主人という関係が原因なのか。俺はルナの存在に本当に感謝しているんだけどな。
ちらりと斜め後ろを見る。ニコニコしながらこちらを見ているライムがいる。大体俺が食事をしている時はこうしているんだが…。
「そんなとこに立ってないで出発の準備とかしててもいいんだよ?」
「そうです。目障りなので準備でもしているのがいいと思います」
俺の言葉にルナが被せる。いや俺はそんな意味で言ったんじゃないんだけど…。
「いえ、準備はもうできてますし、ライムはこうしてるのが幸せなのです」
ルナの言葉は華麗にスルーして俺に言葉を返すライム。そうは言うけど俺なんか見てて何が楽しいんだ…。見世物的な要素はないと思うんだが。
「いや、それならいいんだけどさ…」
「チッ」
ルナは何食わぬ顔してるが今微かに舌打ちが聞こえたのは気のせいじゃないよな?
はぁ、個人的には2人にはもっと仲良くしてほしいんだが…。まぁこんな感じでも仲が悪いという訳でもないと思うけど。たまに2人で買い物とか行ってるし。
「学院の入学者ってどれくらいなんだろうな?」
パンをかじりつつ、やや険悪気味な2人に話題を振る。
「そうですね。学費が高額なこともあり例年300~500人くらいに収まると言われています」
「へぇ~、世界の裏側に憧れてるやつって結構多いのにそんなくらいしか入学しないんだな」
「外の世界ではある程度の戦闘力が無いと瞬殺されてしまうようですし、現実的ではないのでしょう」
「ご主人様くらい強ければ余裕ですぅ」
「いや、帰還者の話を聞く限りでは全くもって余裕ではないと思うけど…」
そんな話をしつつ、朝食が食べ終わったこともあり、出発の準備をする。ちなみにこの国での成人の年齢は15歳なのだが、ライムのことは置いといて、俺もルナも成人してない上に両親ともにもういない。それなのに何故高額な学費が払うことが出来るのかという話だが、冒険者学院には入学試験成績上位10%の者は学費が免除される特待生制度というものがある。それに俺、ルナ、ライムと3人とも無事合格できたわけである。試験成績は3人の内、ルナ、ライム、俺の順番で俺がドベだったのだが…。試験は実技と筆記だったんだけど、まぁ筆記試験は難しいからね。仕方ないね。
俺たちが合格できた要因の1つに『異能』と呼ばれるものがある。異能とは先天的に身に付けている特殊能力のことだ。特殊能力と言っても異能自体はそう珍しいものでもなく10人に1人くらいは持っている。気づいていないだけで人間は生まれながらにしてみな異能を持っているという説もあるくらいだ。ポピュラーなものでいくと『体力上昇』や『腕力上昇』などはよく見られ、上昇値に差はあれど土木や魔物討伐に携わる人の多くがこの異能を持っていたりする。
そして、実は俺とルナもそんな異能を持っている。それもかなり稀であろう異能だ。
俺の持つ異能『魔喰い』(厨二心から昔自分で名付けてしまった)は殺した相手の魔力を奪う。通常魔法に使う魔力の最大値は人によって大体は定まっている。魔力を使い切るか魔力を保有したものを殺すことで魔力の最大値は上がるものの、ある一定値まで到達すればほとんど上がらなくなる。簡単に言えば、最大限の努力をして身長が1年に1mm伸びるかどうかというような話である。だから知恵の実にも法外な値段がつくのだが…。しかし、魔喰いはその上限を無くす。恐らくだが体感では他の人との伸び率が10倍近く違う気がする。
次に、ルナの持つ異能が『魔力増幅』である。自らの魔力を混ぜ合わせることで自分以外にも他者の魔力を増幅することができる。数値にして大体2倍。宮廷魔術師にもこの異能を持つ人間が何人かいると聞いたことがあるがその中でも2倍の効果はかなり大きいと思う。それにこの異能は俺の異能、魔喰いとかなり相性が良い。初めてルナの異能が発現したときは神の導きだと思ったほどだ。
そして、ライムは異能は持ってないが(もしかしたら持ってても気づいてないだけかもしれないが)、『スライム・ロード』と呼ばれるスライムの最上位種であり、戦闘能力、知能共にかなり高い。そもそもスライム種はかなり高い知能を持つらしいのだが如何せん弱すぎるかつ知能を表現する術を持たないため、人間にとっては知能を持たないという認識だった。俺の場合はライムが唯のスライムからスライム・ロードに進化して、常識がぶち壊されたのだが…。
そんなこともあり、俺たちは実技試験で高い成績を収め(ルナとライムに至っては筆記試験も高い)晴れて特待生として冒険者学院に入学できるようになった。
「よし、こんなもんかな」
冒険者として、ギルドで魔物討伐などのクエストを行っていた時から愛用しているリュックサックに荷物を詰め終え、準備は出来た。
「じゃぁ行こっか」
「はい、セト様」
「出発進行ですぅ」
そして俺は扉を開く。
ヤンデレ気味な美人奴隷と美少女スライムを連れて、まだ見ぬ世界の裏側を目指す @sllime
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