第4話 彼女が選んだ道

 みさきは教師に連れられて、廊下をまっすぐ教室へと向かう。

「こんな時に『転校』なんて珍しいな、君」

 かつては自分の担任だった教師が振り向いて、みさきに尋ねる。

「えぇ」とみさきは返して、

「珍しいけど……たまにはあることですよね?」

「確かにな、ところで……前の学校はどうだった?」

 教師の問いに、みさきはにっこりと、仮面みたいな笑みを浮かべる。

「『平和でした』」

 それを聞いた教師は怪訝な面持ちになる。

「……そんなに、酷かったのか?」

「……『はい』」

「そんなはずは無いよな? 全く……そんないつも『嘘をついてる』ような態度……何とかした方がいいぞ?」

 みさきはにっこりと張りつけたような笑みで頷いたが、教師は呆れて先を行く。

 みさきは黙って後を付いて行き、やがてクラスに入った。

「えー、今日から皆のクラスメイトになる――」


「みさきです。よろしくお願いいたします♪」


 みさきは朝のホームルームで、『転校生』として紹介された。


 その日の夜、みさきは学校の屋上にいた。透き通った夜だった。星と月が、身震いするほどの輝きを放っている。

 静けさが支配する中で、みさきは手すりに身を委ねて。夜に見入っている。

「そろそろ来るかな〜。魔獣とやら?」

『はい、現マスター。魔獣いつも現れます。勇者の願いを破壊して、魔王を復活させるために。……現マスター、よかったのですか?』

 んー? なにが〜? と。みさきは振り向いて尋ねた。見やればそこには、聖剣がいた。

『平和な学校生活を棄ててまで……やる必要はありませんよ?』

 確かにね? みさきは苦笑した。

 だけど――

「平和も何も……その前に、片付けとかないとマズイでしょ? さっ、無駄話は後で。……来たから!!」

 みさきは手すりを蹴って、グランドに跳ぶ。

 その眼下には影の塊がいた。奇しくも、アイツが敗北した奴だと。みさきは連結刃から流れてくる勇者の武器――"神の力"――から知った。

(アイツがしてきた事は無駄にしない。今度は私が……その願いを引き継いで戦ってみせる!!)

 そうすれば、きっと。大好きな幼なじみの傍に、気持ちだけでも居れる筈だから。

 みさきは刃を伸ばして戦う。魔獣を倒して、この学校の悲しすぎる事件を、『嘘に』塗り替えるために。

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狼少女の誕生 なつき @225993

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