第4話 昼食

昼。4時間目が終わり学食に行く。一人で?と聞かれればそうなのだが、あまり気にしない。場所は北校舎の右角つまり昇降口から入って左側のすぐ正面だ。学生向けとあって肉うどんが250円だ(まぁ肉自体は三切れぐらいなのだが。)食券を買い青椒肉絲を貰いに並ぶ。五分後俺は昼食の乗ったお盆を持ち辺りを見回した。少し来るのが遅かったのかかなり混んでいた。すると左隅からこちらに手を降っている奴がいた。目を細め見ると凛子だった。が周りには4、5人の女子がいた。あの中に混ざるのはどう考えてもおかしいので知らんぷりをして席を探した。


「林条せんぱーい!こっちこっち!」

こうも叫ばれては無視も出来ず凛子の席の向かい側の左にひと席開けて座った。

「先輩、手を振っても気づかないんですから。もっと周り見てくださいよ。」

「お前こそそんなに俺のこと好きなのかよ。周りに付き合ってるかと勘違いされるぞ。」

「無きにしも非ずですが先輩以外と1年の中だと人気ものなんですよ。ねぇ」

そういうと右側にいた1年達の方を見た。そいつらはそいつらで俺を見ながら頷いた。その以外な反応に俺は驚きを隠せず身を引いて

「そんな胸元みんといてー!」

そうすると女子グループは一旦顔を見合わせて爆笑し始めた。

「そのよくわからないセクハラ?とアメリカ人も驚きのオーバーリアクションが人気で大蔵橋の2大奇人に入ってるんですよ」

誰がそんなものを作ったんだろう。こいつらか?

「私達が作ったんですけど」

こいつらか。まだ笑っている奴らに一言言ってやろうと思ったのだが向かいの席に人が座ったのでやめた。しかしその向かい側の奴もまた俺に一言言ってきた。

「どうした?また後輩にセクハラでもしたのか?犯罪だぞ。只でさえお前の顔じゃ話しかけられただけで110番なのに。」

「人聞きの悪い事を言うなセクハラは断じてしていない。」

俺にセクハラ疑惑を掛けて来たのは1年の頃仲良くしていた万馬洋だ。2年では俺は文系、万馬は理系を選んだため4組と7組にクラスは別々になった。

「そうなんですよ後輩としてこのセクハラ先輩をどうにかしないといつか手を出さないかと心配なんです。」

「俺の手にも選ぶ権利はある」

「それがセクハラだって言ってんだよ。」

最近は肩身が狭くなって来たなぁ。

「そういえば林条。期末はどうだった。」

「聞くな。」

「そんなにやばいんですか!先輩、進級はできると思いますが、後輩として恥ずかしいですから真面目に勉強して下さいよ」

「凛子君。林条を甘くみてはいけないよ、ほらこの前の数学の点数言ってみてよ。」

あぁ低い点数を自慢するほどの馬鹿では無いが少しでも俺の危機的状況を知ってほしいと言うのは少しある。

「………6点」

「"6点!"」

「声が大きぃ。あぁそうだよ、進級すら危ういんだよ」

「万馬先輩少しやばいんではないでしょうか?」

「次のテストを取れば別にどうって事は無いよ。取れればね。」

身が縮こまる。クソが。勉強できるやつほど下を見たがる。自分が努力して来た事を確認したいのだ。この高校に入ってから俺は燃え尽きた症候群になった。もともとここに属さない頭のため人の3倍の努力が必要なのだが、俺はそれができずに今はもう………

よくわからないが脳裏にあのコスプレの疑わしき大柄の女が浮かんだ。やはり気になる。

「全く学年1位を見習ってほしいよ。あの有名な…」


俺はその話を切るように言った。

「そう言えば、今日の朝電車に乗ってたらここの高校の制服を着た大分デカイ男女を見たんだけど知らねーか?」

「だから言おうとしてたじゃないか。この学校1!頭がいいとされる海月小夜さんだろ?」

そういうとさっきまで横で話していた凛子も興奮交じりに入ってきた。

「そうなんですか?!やっぱり違うですよね!一人だけ大学生。いや社会人てっ感じがして。身長もモデルさんみたく高くて周りに合わせない堂々たる姿勢。世界の女子が憧れますよ!」

「芸能活動でもしてんのか?」

「そう言う話は聞きませんけど、もしするとしたらもうすでに海外に行ってるぐらいですよ。」

「うんそうだね。けど同じクラスにいれば分かるけど全くそんな人じゃないんだよ。俺しか知らないんじゃないかな学年1位ってのは。たまたま見たんだけど、その時海月さんと目が合ったんだ。そしたら重いため息をついて無言で教室を出てったんだよ。そりゃもう怖かったさ。上から見下ろさせて弁解の余地も与えてくれないよ。思い出しただけで身が縮こまるね。あの目は本当に下の人を見る目だった。」

「そこがまた良いんじゃないですか。高圧的な態度もたまらないですよ。」

女子達はうっとりしたような目で空を見ていた。俺もなんとなくそんな奴がいた気がした。

「そんなに有名なのかそいつ。けど友達いなさそうだな。」

「そこなんですよね。さっき先輩に2大奇人の話をしたじゃないですか。もう一人はその海月先輩です。高圧的なのはそうですし、一人で部活作ったり、よく遅刻してますし。教師からも恐れられているらしいですよ。」

「それに授業中寝てるんだよ。それで1位だろ本当にセンスでここまで来たんだろうな。」

「それに足も陸上部顔負けの速さですし」

「確か君の双子の妹さん海月さんの部に入ってたよね?音楽に興味あるの?」

そういえばこいつには双子がいるのだ。

「全然全く。なのでどうしてか理由を聞いたんですけど教えてくれなくて。それに知り合いだったのかも分からないです。」

「そもそもなんの部活だよ。音楽っていうから…んーオケーストラ部とか?」

「バカですね。」

「バカだな。」

「いじめんといてー!」

束の間の休息。

万馬がため息をついて俺には長すぎる沈黙を破った。

「確かジャズ部だっけ?そんなイメージないんだけだよね。」

「私もですよ。けどあの人が吹けばなんでもカッコいいですよ」

女子達が頷く。が、一人俺は焦っていた。理由は…

「そういえば先輩も部活申請したんですよね。どんなですか?あれ?先輩…先輩!」

「凛子ちゃんとてつもない地雷を踏んだね。可哀想に。ほら林条言えよ。」

「jazz研究部…」

女子達が口々に可哀想という。

「やかましい!吸収なんてさせるか!そんな変人みたいな奴と仲良くできるか!断固反対!」

「とはいえこの短期間で同じ様な部活は会長が許さないだろうよ。」

この学校の生徒会は権力が強い。風紀とかなんとか少しうるさいと感じるほどだ。しかし誰一人文句を言わないのは運営はそこそこいいのだろう。しかし最近ではその体制も危ぶまれているため生徒会はピリピリしているのだ。

「それに海月先輩の部活、最初は教師も海月先輩の部活は反対していたのにいつのまにか許可してたりして。」

凛子は顔を寄せる様に手を招いた。

「ここだけの話、会長さん海月先輩に論破されたみたいですよ」

「それ本当?それが本当だったらすっごく恨んでそうだけど。」

「ますます俺の部活はダメダメじゃねーか!

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コミュ症達の青春謳歌 二坂 翠 @MidoriFutasaka

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