第6章 3学期が始まりました

1学校が始まりました~テストからのスタート、いい加減慣れました~

 新学期が始まり、まず初めに行われるのは、恒例の休み明けテストと呼ばれるものだった。夏休みにも経験しているので、すでに内容は知っている。とはいえ、楽しみにしている生徒などほとんどいないだろう。やりたいと思う生徒もいないはずだ。

 飯島蓮人はすでにあきらめていた。このテストは、通常の定期テストとは違い、赤点をとっても進学に響くことはないし、その後に補習があるわけでもない。だから、通常のテストに比べて気が楽だった。



「まったく、これから三年間、毎回、新学期にテストから始まるのは嫌だよな。休みの気分が一気に抜けてむなしくなる。」


「そうだね。嫌でも現実に引き戻されるしね。また勉強漬けの毎日かあ。」


『はあ。』


 テストは、滞りなく進み、無事に終わりを告げた。クラスの雰囲気は、いまだに正月の気分が抜けていないのか、緩い空気に包まれていた。しかし、そんな気分も徐々に抜けて、本格的に三学期が始まろうとしていた。





「もうすぐ、センター試験だよねえ。」


「そんな時期か。先輩も受験勉強、最後の追い込みしていたよ。私たちも2年後には、そうなっているのかあ。」


「憂鬱だよねえ。でも、私の成績じゃあ、推薦も狙えないし、お金もないから、私立もいけないから、頑張るしかないか。」


「大学進学にはお金がいるよねえ。私は、奨学金借りていくかも。」


 ある日の放課後、そんな会話を耳にした飯島蓮人は、一つの疑問が頭に浮かんだ。センター試験の存在はニュースで知っていたが、推薦という言葉が引っかかっていた。このクラスメイトの女子は、何を言っているのかわからなかった。



「推薦ってなんだよ。」


 つい、女子の会話の中に入ってしまった。


「ゲッ。飯島じゃん。まあ、あんたって、いろいろ高校生活の常識を知らないからね。いいよ、教えてあげる。」


 推薦について、丁寧にクラスメイトの女子は説明してくれた。


 なんでも、推薦というのは、学校側が成績優秀で、普段の生活態度もよかった生徒に与えるものだという。通常の大学は、国公立だと1月のセンター試験と2月に行われる大学独自の二次試験を受けて、合否が確定する。私立は大学独自の試験のみで合否が確定する。


 その段階をすっ飛ばすことができるのが推薦という制度だ。11月くらいに高校から推薦をもらった生徒は、推薦入試という試験を受ける。面接と小論文の二つが多いらしい。その試験に合格すると、大学に合格ということになるようだ。


 通常の生徒より、だいぶ早く大学が決まるという、飯島蓮人にとってなんとも魅力的な制度だった。しかし、飯島蓮人は忘れていた。それが、成績優秀者で、普段の行いもよいものにしか与えられるものだと。


 話の途中から、目をキラキラさせて話を聞いていた飯島蓮人に、女子たちは、胡散臭げな視線を送っていたが、気づく様子はない。





「まあ、飯島には縁のないものね。そう、例えば、このクラスで推薦を受けられるとしたら……。」


 教室をぐるりと見渡し、女子はある女子生徒の名前を口にした。さらに、追加でもう一人の男子生徒の名前も口にする。


「九条華江は、きっと、現段階では推薦が取れそうな確率が高いかも。それともう一人は、佐々木孝人(ささきたかと)かな。佐々木も頭がいいし、何より、くそまじめだから、きっと推薦も取れるわね。」



 基本的に男子のことは眼中にないが、佐々木孝人のことを飯島蓮人は覚えていた。確か、学年一位の成績を何度も収めている頭のいい生徒だったはずだ。ただし、真面目が絵を描いたような容姿をしていた。黒髪なのはこの高校の校則なので当たり前なのだが、黒ぶちのメガネをかけて、制服である学ランをしっかりと詰襟まで留めて、真面目さを出していた。


 さらに、寒くなってきたこの季節、中に長袖のTシャツを着る男子生徒が大半だが、佐々木孝人はいつも白か黒のTシャツを着ていた。


 しかし、真面目で成績が良いだけでは、飯島蓮人が覚えているはずがない、それ以外に佐々木孝人を覚えていたのには理由があった。



「あいつみたいなやつを前世で見たような気がするんだよな。」


 佐々木孝人のような真面目な生徒を飯島蓮人は前世で見たことがあった。しかし、真面目な生徒は確か、万年学年二位だった気がする。それなのに、この世界では、一位をキープし続けている。それが印象に残っていた。

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この世界はなんてつまらない世界なんだ 折原さゆみ @orihara192

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