7雪が欲しいと思いました~でも、やっぱり必要ありません~

 飯島蓮人は家のこたつで温まっていた。外を見ると、どんよりとした曇り空。


「はあ。寒いだけの冬なんて最悪だよな。せめて、雪でも降ればいいんだが。」


「バカじゃないの。雪なんて降ったら、後始末が大変なだけでしょう。」


 妹もこたつで温まっていたらしい。隣を見ると、妹がテレビを見ながらミカンを食べていた。飯島蓮人の独り言を聞いていたのだろう。バッサリと飯島蓮人の願望を切り捨てる。


「雪がないなんてありえないだろう。クリスマスの時も思ったが、ここは雪がなさすぎる。冬の代名詞のホワイトクリスマスもなかったし、大みそかの雪降る静かな年越しにもならなかった。」




「じゃあ、これ見ても、まだ雪が欲しいって言えるの。」


 妹がテレビを指さしたので、改めてテレビ画面を見ると、ちょうどニュースをやっていたようで、雪かきをしている人の姿が映っていた。大雪で警戒が必要とのことだった。


「朝の5時から雪かきをしても、全然終わりませんね。次から次へと降り積もる雪で、もうへとへとです。」


「雪かきで腰をやられてしまいました。この季節は老人には身に応えますわ。」


 テレビには一面雪景色で雪かきを必死にしている人がインタビューを受けていた。よく見ると、雪が屋根に積もり、車にも積もっていた。雪かきをしなければ家から出られないし、車にも乗れない悲惨な状況がそこにはあった。


 飯島蓮人は驚きを隠せなかった。確かに雪かきは面倒だが、正直、ここまでとは思っていなかった。それも、この映像は同じ日本で起きている光景だったからなおさらだ。


「雪が降って欲しいとは言ったが、ここまで降る必要はない。」


「まあ、ここらへんで雪が降っても、積もることはないよ。それに、すぐ溶けちゃうから、風情なんてないけど。」


「確かにそうだな。年に一度か二度雪が降るが、全然、心が躍らないな。ただ、面倒事が起きて、寒いだけだと思い出した。」


 今までの飯島蓮人としての人生を振り返る。雪が降ったときのことを思い出したが、大したことはなかった。雪だるまや雪合戦はしたが、数日で解けて、後に残ったのは、雪が解けて残った泥水のような茶色い汚い水だけだった。




「付け加えると、雪なんて振ったら、いまよりさらに気温が低くなる。それを寒がりのお兄ちゃんが耐えられるとは思えないけど。」


 それはそうだ。前世の世界とこの世界の気温の差を改めて思い知る。前世では、雪が降っていたが、あまり寒かった記憶がなかった。女子も生足のスカートに、タイツは透け感あふれるものだった。上着はもちろん来ていたが、それも今にして思えば、冬を表すためのアイテムでしかなかったのかもしれない。


 それなのに、この世界は本気の寒さだった。女子は厚手のタイツを履いて、透けるなんてことはなかった。ブラウスの中にさらに長袖のシャツや防寒のための下着を着ていて、防御が一段と高くなっていた。


 男子も同じようなものだった。皆、襟元をぴったりとしめ、カッターシャツの下に長袖を着ている。胸をはだけるといった服装をしている生徒はいなかった。

「そう思うと、冬なんていいことが一つもないな。」


 早く春が来て欲しいと切実に願う飯島蓮人だった。


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