6正月~初詣に着物は着ません~

 大みそか当日、12月31日。飯島蓮人はクラスの女子を誘って、初詣に行こうと画策していた。夏休みのように、SNSを使って、クラス全員に連絡をした。夏休みで懲りずにまた同じことを繰り返していた。

 

 結果は夏休みと同じだった。女子からは返事が来ないか、辛辣な断りの返事しか来なかった。


「俺たちが一緒に年越しをしてやるよ。」

 

 例のごとく、飯島蓮人は男子数人と一緒に初詣に行くことになった。彼はクラスの男子に感謝するべきだろう。しかし、女子ではないので、感謝することはなかった。飯島蓮人にとって、女子と一緒に初詣に行くことこそ、一年の始まりだと思っていたからだ。





 前世では、ヒロイン4人と仲良く初詣に出かけた。大みそかの夜中から神社に向かい、一緒にカウントダウンをして、新年を祝うのが当たり前だった。ヒロインたちの服装は着物だった。普段見慣れない格好をした彼女たちを見るのが楽しみだった。


 着物といえば、着物の間から見えるうなじが色っぽかった。普通は、着物を着るときは胸を強調しない。しかし、飯島蓮人の居る世界では、着物を着る際に、胸を強調させていた。そのために、ヒロインたちの胸が強調されて、そこも大変目の保養になっていた。



 この世界でも、彼女たちの色っぽい着物姿を拝めるかと思うと、初詣が楽しみで待ちきれなかった。たとえ、女子と一緒に初詣に行けずとも、着物姿の女子を拝めればそれでいいと、飯島蓮人は妥協することにした。


 

 いつも通り、飯島蓮人の期待は裏切られた。まず、初詣に行く神社選びが間違っていた。そもそも、飯島蓮人は初詣に近くの神社に行こうと考えていたが、神社は日本のいたるところにあるものだ。そのため、地元の神社に初詣に行く人も多いだろう。そのことが頭から抜けていた。


 それに、高校生ともなれば、生徒が通う範囲も広くなる。初詣に行く神社が異なって当然である。






「それなら、有名な神社に行けばいいじゃないか。」


 飯島蓮人の考えは楽観的過ぎた。前世では、有名な初詣スポットといっても、ある程度の人数しか来ていなかった。混んでいるとは言っても、身動きが取れないくらいに混んでいることはなかった。今回もそうなるだろうと予想していた。


 しかし、現実は厳しかった。どこの神社に行こうか迷ってネットで調べていて驚いた。少し有名な格式高い場所になると、人が大量に押し寄せて、着物を楽しむ余裕も、カウントダウンを悠長に構えている余裕もないほど混雑であるとのことだった。飯島蓮人は調べて愕然とした。



 結局、飯地蓮人はクラスの男子たちが行くといった、市外の神社に行くことに決めた。しかし、年越しのカウントダウンなどはしないことになり、1月1日の午前中に初詣に行くことになった。



 大みそかの日は、飯島蓮人は家で静かに過ごすのだった。夜中には家族で年越しそばを食べ、年末の特別番組を見て、退屈な一日だった。








「行ってきます。」



 迎えた1月1日、元旦である。張り切って家を出た飯島蓮人は考えていなかった。前世では気にならなかったが、この世界は冬の寒さが厳しいことに。わざわざこんな寒い日に、着物を着る女性が少ないことに。そして、着物を来ていたとしても、常識として、胸を強調していないという、この世界の常識を知らなかった。



「あけましておめでとう。」

「今年もよろしく。」


 あちこちで、新年のあいさつをする人が見られる中、飯島蓮人だけは呪いの言葉のようにぶつぶつと独り言をつぶやいていた。



「なぜだ。なぜ、こうもオレの予想が裏切られるのか。オレがいったい、どんな罪を犯したというのか。ああ、神様。今年こそはオレに幸せをください。」



「あいつ、いつも通りやばいな。」

「気にしたら負けだ。」

「ここまでくると、むしろすごいよな。」


 初詣に来たので、お参りをする。その時の飯島蓮人の祈り方は尋常ではなかった。


「今年こそは、女子にモテますように。女子のモテて、モテまくって、幸せなハーレム生活を築けますように。」


 




 飯島蓮人が必死で祈っているちょうどその時、ヒロインたちも必死に祈っていた。



「飯島蓮人と違うクラスになって、縁が切れますように。」

「飯島蓮人が事故でも何でもいいので、学校に来られなくなりますように。」

「飯島蓮人の奴が死んでくれますように。」

「飯島蓮人と顔を合わせませんように。」



 九条華江、六ツ美佳純、七瀬梨花、八代さくら、はそれぞれ飯島蓮人についての願い事をしていた。彼女たちはもちろん、着物は来ておらず、温かいコートにマフラー、手袋を着用していて、防寒対策をしっかりと施していた。



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