結了 -連続猟奇殺人事件-

湖城マコト

人文字事件

 『本日未明、〇〇市の河川敷で若い女性の遺体が発見されました。遺体には不自然に加工が施されており、警察は、女性が「人文字事件」と呼ばれる連続殺人事件に巻き込まれたものとみて、身元の特定を急いでおります。「人文字事件」の被害者は、これで四人目と――』


「……朝から嫌な感じ」


 朝食のトーストを頬張りながら、大学生のゆうはテレビの電源を消した。

 朝っぱらから猟奇殺人事件のニュースなど見ていていたら、気が滅入るし食欲だって減ってしまう。


 世間を騒がせる連続猟奇殺人事件――通称「人文字事件」

 その名称は、被害者の遺体が必ず何らかの文字を表した形に加工されていることに由来する。

 一人目の犠牲者は体をバラバラにされ、バラしたパーツで「体」という字を現した姿で発見された。

 二人目の犠牲者は頭部を切断され、自身の頭部を手に携えた姿で「道」のど真ん中に遺棄された。

 三人目の犠牲者ははりつけにされて焼かれた状態で発見され、足元には焼けて破裂した皮膚から滴り落ちた血液で「赤」という字が記されていた。

 今回の四人目の犠牲者も何らかの文字を表した、とても残酷な姿で発見されたことは間違いないであろう。

 

「さてと、行きますか」


 手短に身支度を整えて結子は大学へと向かう。

 結子には生まれて初めての彼氏が出来たばかりで、今はまさに幸せの絶頂だった。相手は同じ大学に通う一学年上の先輩で、この日も大学終わりにショッピングデートの約束をしている。今からそれが楽しみで仕方がない。

 

 家を出た頃には、すでに猟奇殺人事件の報道など頭の中から消えていた。

 センセーショナルな事件ではあるが結局は他人事。大して興味が無いというのが結子の本音だ。

 

 しかしこの日の夜、結子自身がこの連続猟奇殺人事件へと巻き込まれてしまうことになる。

 他でもない、交際中の男性の手によって――




「……な、何をする気なの」


 結子は人気のない廃屋の中で、両腕を開いた状態で手術台のような物へと横たわっていた。

 体は厳重に拘束されており、その場から逃れることは叶わない。


「言っただろ。君を素材にして僕は最後の作品を制作するんだ」


 結子の恋人は狂気的な笑みを浮かべながら、刃物の収納された棚を物色している。手に取ったのは大ぶりななただ。


「……あなたが、連続殺人の犯人」

「そうだよ。君で七人目になるかな」


 報道されている数よりも多い。まだ発見されていない遺体があるのか、一連の事件以前にも人を殺めていたのか、いずれにせよ異常な告白だ。


「そういえば、どうして僕が君に惚れたのかまだ話していなかったね」

「……急に何?」

「僕は君の名前に惹かれたんだ。結子という文字は、僕の最後の作品にピッタリだったから」

「ど、どういう意味?」

「結子の『子』、子供の『子』という漢字から横棒を一本消せばりょう、終了の『了』という字になるだろう」

「だ、だから、どういう意味よ」

「『了』という漢字の由来はね、両腕を切り落とされた子供の姿なんだって」


 そう言うと、恋人は開いたまま固定されている結子の右腕へと鉈の刃を当てた。


「う、嘘だよね?」

「今から結子の両腕を切り落とす。君が『子』ではなく『了』になれば、僕の最後の作品は完成だ!」

「止め――」


 恋人は結子の右腕目掛けて容赦なく鉈を振り下ろした。



 

 両腕を切断された結子の遺体が発見された後、犯人は自ら最寄りの警察署へと、切断した結子の両腕という決定的な証拠を伴って出頭した。


 出頭の理由について犯人はこう供述している。

 

「僕は満足した。結子は僕の最高傑作だ。結子の表す文字は『人文字事件』のラスト飾るに相応しい」と。


 犯人にとっての作品制作は、これをもって結了けつりょうしたのだ。

 


 

 ※結了――事が全て終わること。


  「子」→「了」 「結子」→「結了」

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