隕石を止めろ!

aninoi

隕石を止めろ!

 二日後、隕石が落ちる。


 いま、「何言ってんだコイツ」と思ったら正常な人間で、「マジか!? やべぇ、何処に落ちるんだ!」と思った奴はキチガイか、そうでなければ頭が可哀想な人だ。


 そして俺は……さて、どっちなんだろうな?


 ……まぁ、普通に考えたら後者か。


 さて、ここで俺は自分の事を頭が可哀想な奴認定したわけだが、コレは世間一般から見る客観的な判断に基づく物であるってのが前提だ。

 なんたって、普通はありえないよな、隕石が落ちるってのがそもそも珍しいし、その情報が前もって知らされるなんてほとんどない。


 しかし、『狂人から見れば周囲の人間が狂人』という言葉がある。つまり、俺が個人的に判断したとき、俺は至って正常であり、寧ろ世間の大半の奴等がキチガイなのだ。それ即ち、世間は気が狂っていると言う意味である。と、ここで世論に喧嘩を売っておき、前置きとさせて頂こうかな。


 でだ。


 隕石が落ちる。


 先程の流れで俺がどんな奴か説明したいが為に出した話題だと思ったか? 残念、事実だ。


 まぁ、アンタからしたら、そんな事を突然伝えられて、じゃあどうするんだという話ではあるよな。そりゃそうだ。だが、まぁ、どうせすぐ終わるんだ、話くらい聞いていきなよ。


 と、いうわけで、せめてそれがどれくらいの規模の隕石なのかくらいは確認しておこう。


 一般の人間に処理しきれる物では、到底無い。これは当たり前だな。

 では、軍部等に属する一定以上の権力者ならどうかと聞かれれば、しかしそれでも不可能だと答える。


 人間など所詮はちっぽけな存在で、天災の前においてはこの上なく無力なのだ。野生動物の方が遥かに予知能力に優れる。彼らの勘は侮れない。……ま、今回の隕石はその野生動物もろともブッ飛ばされるわけなんだがね。


 ともかく、この隕石に人類は打つ手がない。少なくとも、隕石を破壊するとか、軌道を逸らすとかって手段じゃあな。


 元より、人間と言うのは弱い生き物なんだ。まずはそれを知るべきだ。

 だというのに、薄っぺらな万能感に身を浸らせ、この世界は全て己のものだと言わんばかりに驕っているのが、人間という種の最悪たる所以だ。その結果、増え過ぎでパンクしたり、温暖化がどーやら騒ぐのが質が悪い。


 世の中、本当はわからない事だらけなんだぜ。こうして隕石が落ちようとしていることにだって、アンタ達は俺に言われて初めて気づくわけなんだからな。


 挙げ句の果には『地球は我らが護るのだ!』だ。おいおい、どれだけ傲慢なんだ。そもそも自然とは何かに護られるような存在じゃあない。破壊と創造を繰り返し、その存在は半永久的に不変なんだ。それこそ、隕石が落ちる程度では変わることなど無い。しかし、そこに人間という特異点とでも言うべき存在が現れ、不変は可変へと変化した。全ては自分の責任のクセに、何が『護る』だ。元に戻そうとするのは当然だろう。こうなったのはお前らのせいなのだから。まぁ、勿論無駄ではあるがね。


 ふむ、いや、しかし……、よく考えてみれば『人間が天災に勝ることなど無い』という考えは改めなければならないのかもしれない。

 皮肉なことに、人間は生態系をブチ壊しまくることで、自然に対抗できると証明してみせた訳なのだから。


 この調子なら、いずれ台風とか地震とかが起こることすら無くなるくらい自然を破壊するのではないかという心配がある。


 全く、人間というやつには困ったものだ。


 『何だこの偉そうなやつ』って思ったか? ハハハ、まぁ許せ。お前のほうが偉そうだ。散々説明してやっただろう?


 『じゃあお前は何だ』ってか? ああ、まぁ教えてもいいんだが────


 お! 良かったな。隕石は落ちないそうだ。

 いや、決して冒頭で大ホラ吹いたのが怖くなったとかじゃないぞ。

 どうやら、神様はちゃんと人間の良いところも見ていてくれたらしいな。


 何でこんな事が分かるか気になるか?


 そりゃあな、俺が地球に落ちる予定だった隕石だからだよ。

 神様があまりにも酷い人間を見かねて創った、ステルス機能満載の超ドデカいヤツだ。


 ともかく、これからはもっと謙虚に生きていくことだな。俺だって地球と衝突して爆散するなんて御免だからよ。

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