第7話 『名前』
「何黙ってるんだ、うん?まずは言うことがあるだろう」
まず先に口を開いたのは私でも白髪の彼でもなく、神父さんだった。ついでに白髪の彼の頭にまたゲンコツが落とされる。
「イッテぇな!バカになるだろ!!」
「もう充分に大バカだ!」
いがみ合う少年と神父さん。けれどそれは本気で貶しているわけではなく、まるで親子のようなやりとりに見える。羨ましいなぁ。
というか、あの神父さん。さっきまでと同じ人に見えないや。
「悪いな、嬢ちゃん。あの2人はいつもああだから気にしないでやってくれ」
変わらずベッドの側に立つ大鷹さんが、腰を屈めて小声で話しかけてくる。私は苦笑して頷いておいた。
近くで見ると、顔にある傷が痛々しくてやっぱり怖いや。
「ほら、いいから早く言いなさい!」
「わーってるよ……ったく…」
ようやくひと段落(?)したのか、白髪の少年がこちらへともう1度向き直る。
「えっと……この間は悪かったな、すまん!」
「ちゃんと謝りなさい」
彼の後頭部から、またゲンコツによる鈍い音が聞こえた。
うわっ、痛そう…。
不機嫌さが顔に現れて仏頂面になっている少年が頭を下げる。
「巻き込んでしまってすみませんでした」
「気持ちがこもってない。やりなお────」
「わあああ…!もう大丈夫です、大丈夫ですから…!」
神父さんのゲンコツがまた少年の後頭部に落ちそうなのを慌てて止める。何度も謝られると、逆にこっちが申し訳なくなってきてしまう。
「いいや、こういうのはきっちりと出来なければろくな大人には育ってしまうと、私は思うんだよ」
「神父さんって意外とスパルタなんですね…!?」
優しそうな人程、教育方針は厳しいのかな…。
◆◇◆◇
あの後、時間も遅いので今夜は泊まっていくといい。そう言われて、この部屋にまた一晩留まる事になった。
バイトを休んでしまったので、謝罪の電話もしておいた。
「暇だなぁ……」
特にやる事がないや。自分の部屋にいても特に変わらないけれど。
やることもないので、体を軽く伸ばしたりする。
体中の痛みはかなり引いていて、噛まれたら 左肩の方もだいぶ楽になった。吸血鬼の治癒力のおかげなのだろうか。
そうやって暇な時間を潰していると、部屋の扉をノックする音が聞こえた。
誰だろうかと思って扉を開けると、先程謝ってくれたあの白髪の少年が立っていた。
「よぉ。今、大丈夫か?」
「え…?あ、はい」
何の用だろう…?
「その、なんだ……。マジで色々とすまん。巻き込んだりとかさ」
「あ、いえ…こちらこそ助けてくれて、ありがとうございます」
「え…?いや待て待て待て…!あんなに怪我させちまったんだから、礼なんて言われる筋合いないぜ…?」
私は頭を下げると、彼は驚いたようだ。
「でも怪我なんて、ほら。もうほとんど痛くないですし、無事…ですよ…?」
ほら、と言うように私は、腕を振ったり体を伸ばしたりして見せる。
「いや、でもよ……」
「怪我をした張本人が言うんですから、大丈夫です」
なおも食い下がる彼に、私はきっぱりと言った。
納得出来ないように顔をしかめる少年は、大きく溜息を吐き出すして苦笑する。
「お前、結構頑固者なんだな」
「うじうじ悩むのが、嫌いなだけですよ……」
苦笑いする彼に目を逸らして話す。
うじうじ悩む私自身が嫌いだから。
「あー……そういやよ」
何かを思い出したようで、彼は手を叩く。
その仕草が、神父さんに似ていルナと思った。
「名前、言ってなかったな。俺は尚。アンタは?」
「え…?えっと……青海原、です」
「長い。アオって呼ぶぞ。これからよろしくな」
そう言って、尚は手を差し出してくる。
まさか名前にダメ出しされるとは。
ちょっとだけムッとなったけど、言葉には出さずに彼の手を握り返した。
本当にちょっとだけ。
「よろしく、尚くん」
丘森町の物の怪たち 比名瀬 @no_name_heisse
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。丘森町の物の怪たちの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます