第47話

「キャッ!?」

「ぐへっ!」

「ギャッ!?」

「わっ!?」

「あらあら」

「おわっ!?」

「なっ!?」

「……じゅるり」

「プクプク!」

「何ですか!?」


 移動は成功したみたいだ。

 誰かさんの上に落ちてしまったようだが。


 ま、そこに居るような気はしていたので確信犯だけどもね。


「なせるん! 妻なんだからもっと大事に扱って!」


「NTR掛けた旦那を放っておいてよく言うわ! とりあえずコレ外してください!」



 そんなこんなで拷問椅子から解放され、目を白黒させて状況を飲み込めていないお姫様を丁重に縛り上げて、クロニャたちにしばらくひかりと二人で話させて欲しいと頼んで部屋から出て行ってもらった。


「で、約束を破って帰って来ちゃったなせるんは私に何かンムッ!?」


 有無を言わせずひかりにディープなキスをして一言。


「エッチします!」



 そのまま朝までコースでおっぱじめ、途中クロニャたちが乱入して来たのを追い返し、どうしても諦められないと暴れ狂うクロニャだけでもとシロニャさんたちにお願いされてしまい、ひかりと一緒に愛し合った。


 その時に発覚した事実だが、ラケルさんに一服盛られた事件の時に手を出してしまったと思っていたクロニャが「おへそじゃないの?」と言ったので、よくよく思い出してみると、確かにおへそにしていたな……と思い出し、僕が未だに童貞であるということが発覚、そのことでクロニャが「なせるくんの初めては私のだッ!」とグーパンチでひかりに殴り掛かったのを僕の顔面でセーブ、ひかりもグーで殴り返そうとしたのを止めて、それ以外のことならとクロニャが望むようにしてあげた。


 僕の童貞卒業はまだまだ先のようだ……



 外から鳥たちがチュンチュンとさえずり窓から光が射し込む。


 僕は今、絶賛賢者タイムである。


 そう、賢者タイムなのである。


「マジ、すんませんでしたあああああっ!」


 僕の出来る全力の土下座でひかりに謝った。


 クロニャがダウンした後、最後の一線を越えなかったとはいえ欲望のおもむくままひかりの体を貪り尽くし、その全身を白く染め上げるまで何度も何度も吐き出し続けてようやく治まったところで自分が何をしでかしてしまったのかを自覚したのである。


「なせるんのケダモノ……」


「ぐはっ!」


 心臓に槍でも刺されたような感覚が走ってめちゃくちゃ痛い……


「なーんてね。なせるんは気付いていなかったみたいだけど、あの吸血娘のせいで眷属化しかけて性欲が暴走しちゃってたのよ。だから謝ることなんてないわよ。むしろあの吸血娘に手を出さずに私のところへ戻って来てくれて嬉しいぐらいだわ!」


 なん……だと?


「眷属化ということは、あのお姫様は本当に吸血鬼だったんですか?」


「そういうことね。まぁ、彼女に吸血鬼っていう自覚は無かったようだし、まだ吸血鬼として覚醒もしていなかったから中途半端な呪いでなせるんの性欲だけが暴走しちゃってたのよ。それでよく目の前の美味しそうな果実を食べずに私の元まで戻って来られたと感心したわ。だから、その、なせるん……」


 ひかりが急にもじもじしだして、まるで恋する少女のような瞳で僕を見つめてこう言った。


「私を愛してくれて、ありがとね!」


「ぐぼはっ!?」


 ひかりが眩しすぎて直視出来ない。


 僕はただ抑えきれない性欲をひかりに吐き出しただけなのに、非難こそすれ、感謝されるなんて、そんなの、そんなの……


「ひかりィィィイイイイイッ! 大好きだああああああああ!」


 抑えきれなくなった感情が爆発してひかりの元へ、ルパンダイブで襲い掛かる。


「きゃっ、なせるんのエッチ!」


「いつまで盛っとるんじゃボケェエエエエ!」


「ぶろぺっ!?」


 二回戦目をおっぱじめようとした瞬間、アイのライダーキックが僕の顎にクリティカルヒット、僕は安らかに永眠しましたとさ。


 ◇


「第一回なせるんハーレム会議〜!」


 朝食が並べられた横長のテーブルにお姫様も含めた女性陣たちが座り、何故か僕だけ別のテーブルで一人寂しく朝食を食べていた。


「を、したいと思いましたが面倒なのでそこのお姫様はハーレム入り決定です! 以上!」


「え!?」


 いつの間にか解放されていたお姫様が何が何だか分からないって顔をしてる。


 まぁ、誘拐犯に慈悲は無いので援護したりはしないよ。


「朝食を食べ終わったらなせるんは牢屋へ戻りなさいよ。シアに迷惑が掛かるから」


「え? あ、はい」


 正直言ってひかりたちの顔を久し振りに見てしまったので牢屋になんて戻りたくは無い、無いが、シアさんたちに迷惑が掛かるのは本意では無いので素直に戻るしかない。


「えー! なせるくんもう帰っちゃうの!? もう少し一緒がいい!」


 僕もクロニャと離れ離れになるのは辛いが我慢してくれ……


「私もなせる君と一緒がいい〜! 結局、昨日はナニもさせてくれなかったしぃ、お姉さん辛抱堪りません!」


 ラケルさんは相変わらずだな。

 まぁ、おちゃらけて見えるけど内心では本当に寂しがっていそうだから後で頭を撫で撫でしてあげよう。


「あらあら、二人とも我儘を言ってはなせるが困ってしまうわよ? なせる、戻る前に私の部屋へ来なさい。ええ、もちろん母として話があります。何もやましい気持ちなどこれっぽっちも抱いてはいませんから安心して私に身を委ねてくださいね。うふふ……」


 あ、あれ? シロニャさんの雰囲気がいつもと全然違う?

 いつもはもっと女神様って感じのほんわかオーラ全開って感じなのに今は恐怖しか抱けない。

 もしかして、怒ってらっしゃいますか?


「なせる気を付けろ。シロニャは女神の振りをした悪魔だ。というかなんで私をこんな所に送ったんだ! こっちに来てから毎日毎日、花嫁修行だ、料理修行だ、掃除に洗濯、全部雑用じゃないか! なんで私がそんなことをしなくちゃならないんだ! なせるなら料理だろうが洗濯だろうが何でも出来るじゃないか! 私はなせるに養われたい! 私の面倒は全部なせるがしろ!」


 言い方ッ!

 いや、うん……アイを養うのは全然良いんだけどもね……



「ナセルが面倒を見なきゃいけないのはペットであるボクだよ? さあナセル、ボクをギュッと抱いてくれ。プニプニ揉んでくれ。ナセルの子種をボクに注ぎ込んでおくれ!」


 スライムのリリちゃん、こんなに流暢に話せるようになって……お父さん嬉しいよ!

 でも下ネタはやめて……愛らしいリリちゃんから下ネタを聞くと、お父さん悲しくなるから。


「そろり……そろり……ぐえっ!? は、離してくださいひかり様、私は恩人様を立派な勇者、もとい、ハーレム王に仕立て上げねばなりませんゆえ! アーッ!? そんなところに指を突っ込まないでヒギィ!?」


 もうやめて! ラウネはもう限界よ!

 次回、精霊ラウネ死す!

 デュエルスタンバイ!


「シロニャのご飯はいつも美味しいな! それとなせる、食べ終わったらワタシとエッチしよう。昨日のを見てからムラムラしてしょうがない」


 あ、エスツー居たのか。

 そういえば認識阻害の指輪をさせていたんだったな。


 というかシロニャさんは認識阻害で意識しないと認識出来ないはずのエスツーの朝食を用意出来るなんて、さすがシロニャさんとしか言いようがないな。


わたくし、何が何やらよく分かっておりませんの。どなたか説明してくださらないかしら?」


「誘拐犯、捕らえて、ハーレム入り。以上説明終わり。これからなせるんのハーレムに入るんだからあなたにも花嫁修行はしっかり受けてもらうわよ? 覚悟することね!」


「不束者ですがよろしくお願い致しますお姫様」


「え? え? 全然、全く、これっぽっちも、理解出来ませんでしたわよ!?」


 彼女にとってこれは良い機会だと思うし、あのお城にあのまま居たら本当にダメになってたと思う。

 窓も扉も塞がれた暗闇の寝室に死ぬまで閉じ込められるフラグはへし折っておきたい。


「そういえばお姫様、僕以外にも誘拐したり無理矢理血を啜ったりした人って居ますか?」


「いえ、あなたが初めてでしたわよ? ただメイドの何人かにお願いして血を舐めたことはありますけど、それが何か?」


「あちゃー……どうしますひかりさん?」


「心配無いわ。中途半端な眷属化なんてすぐに効果が切れるもの、それよりもこれからが問題よね……血を用意してあげないと禁断症状で誰彼構わず噛み付いてくるようになるし、私の血でも良いんだけど、痛いのって嫌なのよね……」


「血が必要なら僕ので良いですよ。なんでもボックスで空の輸血パック用意して一年分ぐらい用意しておけば大丈夫でしょ?」


「あらそう、なら私のストレージに入れておけば劣化しないからそれでお願いね」


 ということでなんでもボックスから空の輸血パック100個を取り出して採血、は時間が掛かるのでひかりの適当な呪文で一気に満たして、僕はミイラ化、回復呪文でなんとか復活したのである。


「そろそろ真面目に説明してくださらないと泣きますわよ……?」


「よく聞きなさい。エリザベースト・バーントリート。あなたは吸血鬼、それも始祖よ。まだ覚醒はしていないけどね」


「あら、そう……そうでしたのね」


 お姫様は何か納得した様な表情で頷いている。


「何か思い当たる節でも?」


「いいえ。ただこれからは心置きなく血の味を楽しめるのかと思うと心がウキウキして来ますの」


 あぁ、うん。やっぱりサイコパスだこの人。


 普通はもっとこう、自分が吸血鬼だなんて嘘だ! みたいな反応をするはずなのに、このお姫様にとって自分が吸血鬼だったことよりも血の味を楽しむことの方が重要そうなんだよなぁ……


「自分が吸血鬼だったことを疑ったりはしないんですか?」


「ええ、吸血鬼というのならこれからは遠慮せずに毎日、血を楽しめますもの。それにここには私好みの女性たちがたくさん居ますし、長年閉じ込められてきた牢獄から解き放たれた気分で清々しいですわ。ハーレム、でしたわね……そう、わたくしのためのハーレム……ウフフフフ」


 うわ……シロニャさんたちを見回して舌舐めずりしてるよ……みんなちょっと引いてるし……

 最後の方、わたくしのためのハーレムとか小声で呟いて、何か勘違いしてたみたいだけど、あながち間違ってはいないかもしれない。

 ただラケルさんだけは目の色を変えてたから、またマッドなサイエンスを企んでいるな。

 深淵をのぞく時、深淵もまたこちらをのぞいているのだ。とはこのことか。


 獲物を見つけた吸血鬼は自分が狩る方だと思い込み、狩られる側に回っていることに気が付くのはいつのことになるのだろうか?



 朝食を食べ終えて、騒がしくも楽しいひと時を過ごした僕は、みんなに挨拶を済ませると寂しく冷たい牢屋へと戻ったのだった。

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愛されスキルがチート過ぎて異世界でも堕落しました あるみひさく @arumihisaku

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