お題「恋せよ少年」
それは私が高校に入学して、それと同時に友也が中学に入学して二ヶ月ほど経った頃のことだった。
ちょっと前から気になっていたことがあって、朝会えた時に直接聞いてみたというわけだ。
「もしかして好きな子ができた?」
「えっ」
きょとんとしてそのまま反論も否定もしないままの様子を見て、私は返事も聞かずになるほどと頷く。
だって分かりやすすぎる。毎日のように突っ立っていた寝癖は三日にいっぺんのペースになったし、シャツがちゃんとズボンに入るようになったし、あと姿勢がこころなしか良くなった気がする。もうこれはよく見られたいっていう願望の表れでしょう!
クラスの子かな。それとも部活の先輩とか?
そんな事を考えるとワクワクするし、同時に微笑ましくもなる。登校班にピッカピカの一年生で入ってきた時から知ってる身からするとこう、感慨深いものがある。一年生のときはおとなしすぎて女子にも負けていたあの友也が。
小学校高学年になったら───私は中学に入ったから朝登校班に行くときの様子しか見なかったけれど───年相応の男の子らしくなっていっていた。そして今! また新たなステップを踏もうとしている!
恋せよ少年。恋はいいものだ。そう、周りのみんなは言っている。残念ながら、私はなんとなく好きになってなんとなく失恋したような思い出しか無いのだけど。
「ねぇ」
そういえば返事を聞いていなかった。返事を聞くまでもなく私の中では決定事項になっているのだけど、うん。言い訳や建前ぐらいは聞こうじゃない?
「好き、ってどういうことなの」
「え、そこから?」
「分かるけど。分かんないっていうか」
知識としては知ってるけど実感できてないってことなのかな。だとしたらこれは友也に自覚をもたせるいいきっかけになるかもしれない。
うーん、と慎重に考える。なるべく分かりやすく、簡潔に。身近なものだと思えないと意識して否定しちゃうかもしれない。それはもったいな……いけない。
「……いろいろあるけど」
「うん」
「"会いたい"って思うことかな」
「会いたい?」
「そう。会いたい。できれば会って話がしたい、とか」
ほんのささやかでも。すごく!とかいつも!とかじゃなくても。
会えたら会いたい。話ができたらもっといい。それ以上のイベントがあったらすごくいい。
私も中二とか中三の時にそう思っていた時期がありました。もう懐かしい。
「会って話が……」
あ、でも別のクラスの子だったら話までいくと難易度高かったかもしれない。言わなきゃ良かったかな。
考え込んでいるらしい友也を見て私もうーんと考える。フォローを入れたほうがいいかなぁ。いいよねぇ。
「ねぇ」
「うん?」
友也が私を見上げる。昔よりは差は縮まっているけれど、まだまだ私のほうが背が高い。
「オレ、多分小学生のときから好きだったんだと思う」
「え???」
そんな事を考えていたら、え。今、なんて?
「今言ったじゃん。会いたいって思うこと、できれば話がしたいって思うことって。中学言っちゃってからも朝会えたらいいなって時間見計らってたし、よくよく考えたら多分そういうことなんだと思う」
「いや私はそんなつもりで言ったわけじゃ、っていうかクラスの子とかじゃなかったの」
「オレは! 柏崎琴音が好き!」
大きな声で繰り返さないで、っていうかなんでフルネーム覚えてるの。本当に自覚がなかっただけなんじゃない!
スッキリとした顔で笑う友也を見て、私は顔を両手で覆った。
恋せよ少年、とは確かに思った。思ったけれどこれはなんというか反則だ。ずるい。卑怯だ。
ごめんね、なんて。言えるはずもないのだから。
一口短編集 渡月 星生 @hoshiu
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。一口短編集の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます