第7話 地味子ちゃんがイケメンにアタック!
会場は、ネットで表参道の大通りのビルに洒落た居酒屋を見つけたので予約した。集合は6時とした。ただ、幹事役としてはその前に到着していなければならない。
当日早めにと思って出かけたので、会場に到着したら、まだ、5時半前だった。とりあえず予約席に案内してもらう。
席で入り口の方を見ていると、着飾った可愛い女の子が入ってきた。さすがに表参道の居酒屋だと感心して、その可愛いお客さんを遠目にながめている。
女の子はきょろきょろしている。店員さんが話しかけている。店員さんがこちらを指さすと、その女の子がこちらへ向かって歩いて来た。
僕を見つけてニコニコして話しかけてくる。「先輩」。どこかで聞いたような声だった。女の子が僕を見つめて可愛く微笑んで立っている。
「私です。米山です。今日は私のためにお骨折りいただきありがとうございます」
「ええ……君は米山さん?」
「努力の成果を見て下さい」
「すごく可愛くなったねえ、米山さんとは全く気が付かなかった。ごめんね」
「野坂先輩からいろいろ教えてもらいましたので、どうですか?」
「うーん、これなら新庄君も驚くと思うけどね」
可愛くなった米山さんを僕の横の席に座らせた。その前に新庄君、僕の席の前に野坂さんに座ってもらう予定だ。
そこに新庄君が入ってきた。こっちだと合図するとこちらへ向かって歩いてくる。米山さんの前の席を促す。米山さんはうつむいて座っている。
「この人は?」
「米山さんだよ」
「ええ、あの地味な。いつもと全く違うので驚いた。本当に米山さん?」
「そうです。米山です。どうですか?」
「とっても可愛いね、見違えた」
新庄君は変身した米山さんをジッと見ている。これはうまくいくかもしれない。
少し遅れて野坂さんがやってきた。米山さんはすぐに立ち上がって挨拶をする。
「野坂さん、ありがとうございました。どうですか、今日は?」
「とても良くなったわ。もう一息ね」
「休日にショピングに一緒に連れて行ってもらって、おしゃれを教えていただいているんです」
「道理で垢抜けしていて見違えた」
「磯村さん、ところで今日の飲み会の趣旨がはっきりしないけど」
「お世話になった野坂さんへのお礼だけど、お互いに後輩を伴っての懇親会ということでもいいんじゃないか」
「まあ、後輩と飲んで話を聞くことも必要ね」
4人が揃ったところで、好みのお酒と料理をそれぞれが頼んで乾杯して飲みはじめる。
新庄君は何かを思いつめているようで話が弾まない。米山さんは野坂さんとコーディネートの話に夢中になって、肝心の新庄君とは話をしていない。
僕は新庄君に話しかけるが、どうもうわの空だ。野坂さんが米山さんと話をしているのをじっと見ている。これじゃあ、この場を設営した意味がない。何とかこれを打開しなくてはいけない。
小一時間ほどして野坂さんが化粧室に立ったので、トイレに行く振りをして、野坂さんが戻る途中を捕まえて話をする。
「実は今日の趣旨は米山さんと新庄君の二人に話しをさせるためだったんだ。米山さんが新庄君に惚れたというのでね」
「米山さんが惚れた相手というのは彼だったの、ようやく飲み込めたわ。それなら、しばらくして私たち二人は先に出たらどうなの? 別のところで飲み直しましょうよ」
「それなら話が早い」
席に戻ると頃合いを見計らって、野坂さんが「私たちは別のところで仕事の相談をしたいから」と言って、僕を誘って抜け出した。残された二人はあっけにとられている。お勘定は僕が支払って店を後にした。
「これからどうする?」
「本当に飲み直しましょうよ」
「じゃ、僕の知っているスナックへ行こうか」
◆ ◆ ◆
スナック『凛』はもう開いている。ドアを開けるとママがお客と話している。二人は止まり木に座った。
「いらっしゃい、随分、お早いのね」
「もうここが2次会だ。二人でお互いの後輩の仲を取りもったけど、うまくいくか心配しているところだ。とりあえず水割りを」
「それよりもお二人はどうなんですか」
「だだの気の合う友達かな、そうだろ」
「残念ながら、そのとおりだわ」
「はたから見るとお似合いのカップルに見えますけど」
「このままではずっとこのまま、何か特別なきっかけでもないとね」
「きっかけは待っているものではなくて、作るものだと思いますよ」
「そうかな、どう作るのかも分からないし」
「これじゃ望み薄ですね」
「いつもこの調子」
「野坂さんは誰か気になる人はいないの?」
「どうもあなたを含めて同年代の人は頼りなく見えて惹かれないのよ」
「悪かったね、頼りなくて」
「年上の人はどうなの?」
「大体が妻子持ちで、変に思い詰めると不倫になっちゃうわ」
「うーん、どうしようもないね」
「今は仕事を大事にしているけど、本当に10年後はどうなっているのやら、不安はあるわ」
「そうだね、お互いにそろそろ身を固める年に来ているからね」
「お二人とも深刻な話をしていらっしゃるのね。人生、思いっきりが必要な時もありますよ」
「ママはそういう時があったのですか」
「何回かはありましたけど」
「どうしました?」
「思い切ったらなんとかなりました」
「そういうものなのかね?」
「勇気をもって思い切ることですよ、周りのことや世間体なんか気にしないで」
「そうだね、いい助言だ、ママが言うと説得力がある。いい話を聞かせてもらった、じゃあ引き上げるか?」
「私は残る。ママともう少しお話がしたいから」
ママは少し困ったような顔を見せた。これじゃ、戻ってこられない。
「じゃあ、ママ、お会計をお願いします」
「また、きっと来てくださいね」
「ああ、きっと」
店を出た。あの後二人は何を話したのだろうか、気にかかる。それに残してきた居酒屋の二人も気にかかる。
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