9話 魔獣退治
とんでもない勢いで冒険者らしき青年と、巨大なカエルの魔獣がこちらに向かって来ている。
こちらに近づけば近づくほど、カエルの大きさがよくわかる。
……っていうかデカすぎね?
明らかに二階建てのビルくらいあるような気がするんだけど。
しかも、遠目じゃいまいち風貌がわからなかったが、カエルなんて可愛らしい見た目じゃないような気が……。いや、元々カエルが可愛いとは思ってないけど。
まるで、岩のようにゴツゴツとした肌。
鋭く濃緑に光る目。
大きく裂けた口と、毒々しい紫色の長い舌。
ポーズがカエルっぽいだけで完全にただの化け物じゃねぇかよ。
「初めて見る魔獣だな」
「タケフツさん東大陸行ったことないの?」
「中央と西なら何度かあるが……」
「アレ東大陸でよく見る
「何で東の魔獣が南にいるのよ」
「知らない。積荷かなんかに混じって流れ着いたんじゃない?」
「呑気に話してていいのかよ!? もう来るぞアレ!」
とんでもない威圧感を放つ化け物が迫って来ているのに、3人はノンビリとその正体を分析していた。
豪胆にも程がある。
「いや、なんていうか魔獣と見ると狩るっていう考え、良くないよね。どうだろう、ここは慈愛をもって見逃してあげるのは」
「慈愛をもって、必死に逃げてるあの人を助けてあげてください……!」
急に悟りを開いたようにイイ顔をしだした大亮の肩を掴み、俺は精一杯の気持ちを込めて懇願した。
「しょうがないなあ……助けるよ。サンジョウ兄妹が」
「俺らかよ」
「どんだけ戦いたくないのアンタ……」
2人は呆れながらもそれぞれ武器を取る。
タケフツさんは長めの刀、ヒミカは対照的に小太刀を逆手に構えた。
ヒミカは体から緑色のオーラのようなものが出ている。先日大亮に聞いたが、攻撃魔術を使用したり身体強化魔術を使う際には、体からオーラのような光が発せられるようだ。
大亮はたまにその光を出さずノーモーションで魔術を使ったりするが、どうやら一定のレベルにいる戦士は僅かな時間で魔力を溜める為、ほぼ予備動作なしで魔術を使用することも出来るらしい。
タケフツさんやヒミカも最初は驚いていた。
「風神!」
ヒミカが叫ぶと、甲冑蛙の周辺に竜巻が発生した。
竜巻に触れた甲冑蛙の体から斬撃を受けたような音が鳴り響く。
「おー、上級魔術だすごいすごい」
「私の使える魔術で今のところ1番の魔術ね」
「でも残念。甲冑蛙とは相性が悪いね」
「……そうね、体皮が硬すぎて斬撃系はあまり効かないみたい。あまり得意じゃないけどカエル相手なら雷電系を使った方がいいかも……」
するとすぐそばで、タケフツさんの刀からバチィッと激しい放電音が響く。
魔術は相手に向けて放つだけでなく、自身や武器に効果を付与させる事もできる。
タケフツさんは後者の魔術が得意なようで、この旅でも何度か披露していた。
そしてタケフツさんはものすごい勢いで甲冑蛙に向かっていく。身体強化もしたのだろう、明らかに普通の人間の速さではない。
「ふっ!」
甲冑蛙に斬りかかると、斬撃の音と放電の音がほぼ同時に響き渡った。
ヒミカの強力な魔術でも少ししか斬れなかった甲冑蛙の体に見事な刀傷が刻まれる。
やはり剣士としてタケフツさんはかなりの域に達しているようだ。
甲冑蛙は電撃を喰らってその動きを止める。
水棲系の魔獣だけあって雷は弱点のようだ。
「た、助かった! ありがとう」
命からがら逃げて来た冒険者が、肩で息をしながらも俺たちに礼を告げる。
「うむ、苦しゅうない」
「アンタ何もしてないでしょうが」
ぽかり、とヒミカが大亮の頭を小突く。
そのままヒミカは、大亮に「2人のお守りは任せたわよ」と告げてタケフツさんと共に前衛に出た。
「大亮は行かなくていいのか?」
「カエル系の魔獣は遠距離から舌伸ばして来たり、魔術使ったりするから、俺が離れたら一真とこの人が危ないよ」
「そっか……あ、大丈夫ですか?」
俺は逃げて来た冒険者に声を掛ける。
見たところこれといった外傷はないが、念の為の確認も兼ねてだ。
「あ、ああ……大丈夫だ。肩を少しやられたが、問題ない」
「そうですか、よかった……」
ほっと安堵したところで、落雷のような激しい音が鳴り響く。
音のしたの方を向くと、ヒミカの魔術が甲冑蛙に直撃したようだ。甲冑蛙は激しく痙攣している。
雷系は苦手とか言ってこれかよ。
ヒミカの魔術の腕も相当なものなんだろう。
その隙を逃さず、タケフツさんが甲冑蛙の後ろ脚を切り刻んでいく。
「さすがにちょっとは手伝うかー」
大亮は指鉄砲を甲冑蛙に向ける。
そして——
「
高速の炎の矢が一直線に放たれた。
タケフツさんの攻撃していた方とは逆の後ろ脚を焼き貫いていく。
「す、凄い……僕が手も足も出なかった
「鬼より強い子供と兄妹と、ただの一般人ですよ」
俺は苦笑いして冒険者にそう答えた。
俺なんて異世界来てもこんなもん 弘前平賀 @rumble6326
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