第13話
(十六)
私は忙しい日々を送っていた。確かな手ごたえも感じ始めていた。恵美子のことを忘れたかのようになってフライパンを振っていた。
「今日は三百人が……。」
とレジを閉めて、感慨深いものを感じた。
私の見積もりではその売り上げは来年の三月ごろに到達するはず。嬉しいことだった。
私は明日、恵美子に電話をしようか、しまいかと迷っていた。もしも恵美子の声を聞いたら、「見合いに行くな!」と言いそうな気がしたのである。
恵美子の幸福の為に別れてやるべきだという感情を抱いたわけではない。相手を焼きつくし自分も焼き尽くす私の気持ちを考えたのである。
こんな場合ダメになってしまうのは女のほうであった。恵美子との行く手に己の女関係の影が見えることは致し方ないことでもあった。
しかし店舗探しは彼女と二人での作業であった。それを思うと、侘しさと寂寥感を味わうのは自分の方が多いと思わざるを得ない。
その上一千五百万の借金を持て余している自分には、恵美子と子供を作ることなど、崖っぷちを歩くようなものである。
その上私にとって恵美子は初恋相手。
田町の女将は自分にとっては初歩から対象外だった。何故急に来たのかはわからない。
十八歳で結婚し、十歳上のご主人となさぬ関係になったらしい。理由はわからなかった。
結局私は恵美子と別れた。恵美子はその見合い相手と結婚した。やきつくして辿り着くと、いつもそこには余白があった。
しかし恵美子との別れで余白が作れる自信がなかった。今別れたら、余白どころか、現実には毒しか残らないだろう…。
そして己のむなしさに気付くのは、それからしばらくして冷静に晩酌出来るようになる時が経ってからだろう。
残照 @kounosu01111
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