第11話『ざっと見て小5ロリってとこか』

 超巨大ガニを倒し、続いて小さなカニの大群へと挑む俺達。

 次の武器を求める俺にゾデが見せたのは、片手サイズのドラゴンの牙だった。

 ドラゴンならかなりの戦力になると期待し、俺はアンジェロッドを振り下ろす。

 骨の巨体で蘇ったドラゴンは首を下ろし、響く低い声で俺に語りかけてきた。


「喋れる……んですね」

「人間の娘よ、お前はなぜ我を蘇らせたのだ?」

「えっと……あの小さい怪物の群れをですね、

 出来れば片付けてもらえたらなーって……あはは」

「怪物の群れだと?」


 ドラゴンの首が曲がり、頭蓋骨がカニの大群を見た。

 どこから声出てるんだろう。

 それと俺は男……もうどうでも良いか。


「む、あれらはラスティアンか?」

「知ってるんですか? ドラゴンさん……」


 頭蓋骨がこっちにグイッと向きを変え、「レダティだ」と早口で言い更に続ける。


「知っているも何も、ラスティアンは我らを絶滅に追いやった。

 憎っくき外敵めに復讐をするなど、むしろこちらから申し出たいくらいだ」

「ありがとうございます、レダティさん。

 じゃあ早速「しかしだな、人間の娘よ。

 残念な事に我はラスティアンを倒せぬのだ」


 骨だけで表情なんか作れっこないのに、俺はレダティの頭蓋骨から哀愁を感じた。


「今のレダティさんなら倒せますよ。

 試しにやって見てください」

「何?それは本当か?」

「本当です。

 あ、でも加減してくださいね。

 あの中に人が居るんで」

「そうか……。

 ではまず、軽く掃除してやるとしよう」


 話が早くて助かる。

 レダティは「伏せていろ」と告げて首を持ち上げた。

 骨の翼が前後に動き始める。


 「あれは……羽ばたいているのか」

 「骨だけじゃ意味なさそうですけど……うわっ!」


 突然強い風が巻き起こり、軽い俺は危うく吹き飛ばされそうになる。

 すぐ近くに居たゾデが抑えてくれた。

 潰された民家の素材だった木材や枯れ草が、強風に乗りパラパラと吹き飛んで行く。


「ふむ。

 やはり骨だけだと力が鈍ってしまうか」


 レダティ本人はそう言ってるけど、羽ばたきで起こった強風は十二分に強い。

 小さなカニ達が宙を舞い、草原の彼方へとまとめて吹き流されて行く。

 そして2人の人間が姿を見せた。


「あれは……」

「メツェンさん!」

「娘の仲間か?」


 1人はメツェンさんだ。

 あの緑髪に緑の服、見間違えようが無い。

 うつ伏せ気味に横たわっている。

 問題は、その横で頭を抱えうずくまってるもう1人だ。


「子供……ですよね?」

「さっき現れた新たなAAだろう」


 見た所、体はチシロよりも小さい。

 髪が赤く褐色の肌を露出しているが、遠くてそれ以上は分からない。



「誰でもいいが早くどかせ。

 でなければ巻き添えになる」

「はい!」


 先に俺がメツェンさん達へと走り出し、ゾデが後から俺を追い抜いた。

 俺は超巨大ガニとの戦いで消耗してたはず。

 それでも今こうやって走れてるのは、あそこにメツェンさんが居るからだ。

 無事でいてほしい。

 心配のあまりゾデの背中を追い抜きたくなる。

 100パー無理だけどね。


「メツェン、助けに来たぞ!」


 叫びながら、ゾデは赤髪の子を通り過ぎる。

 赤髪の子が顔を上げ、俺とバッチリ目が合った。

 琥珀のように艶めく濃い茶色の瞳だ。

 直後に赤髪の子は四つん這いになる。


「がるる!」

「えっ!?」


 そして獣のような唸りを上げ、地を蹴り俺に飛びかかって来た。

 あまりにも唐突な行動に俺は回避すら忘れ、あっさり押し倒されてしまう。

 背中の翼と生い茂る草がクッションとになり、痛みはそれほどでもない。

 すぐに起き上がろうとしたが、両腕を地面に押さえ付けられた。

 少なくとも俺より力は上だ。


「ぐるるるる!」


 かみ合わせたギザ歯をむき出しにしている。

 僅かながら膨らんだ胸、カドの少ない柔らかな小顔。

 間違いなくこいつは女の子だ。

 ざっと見て小5ロリってとこか。


「落ち着いて! 俺は敵じゃない! むしろ味方だ!」

「がるる!」

「だから離してくれ!」

「がう!」


 駄目だ、会話が成立してない。

 本来日本語しか話せないはずの俺でも、問題なくこの世界の皆と会話できてる。

 だがこいつは言語そのものを知らないって感じだ。

 どんな世界から来たんだよ。


「シツ、何をしてる! 早く離れろ!」

「違うんです! こいつが一方的に襲って来て……」

「ええい、もう良い! 我が飛ぶ!」


 レダティの苛立った声が響く。

 見上げるようにして彼の方向を確認すると、

丁度骨の足が地を離れて宙に浮かぶ所だった。


「がう!?」


 赤髪の女の子がレダティに気を取られ、上体を逸らして空を見上げた。

 彼女の腕力が弱まったのを俺は見逃さない。

 右に体を回転させて拘束から逃れる。

 勢いで草の上を一回転。


「我が一族を滅ぼした恨みを味わえ! ラスティアン共よ!」


 空からレダティの咆哮が聞こえた。

 体を起こしつつ空を仰ぐ。

 まるで木漏れ日のように、骨の体の隙間から綺麗な青空がチラ見えしていた。

 彼は全身を後方に逸らして力を溜めた後、なんと口から真紅の炎を吹いた。

 その大迫力に思わず顔をかばってしまう。


「骨なのに!」


 レダティの火は最初こそ細いが、空を走るにつれて大きく広がった。

 カニの大群が真紅の炎に飲み込まれ、例の白いチリを散らしてその姿を消す。

 レダティが撫でるように首を動かすと、更に広範囲のカニが焼き尽くされた。


「がうー!」


 赤髪の女の子の鳴き声だ。

 ビクッと身を震わせて様子を伺うも、彼女は俺を無視し四つ足で走り去って行く。

 その先には、メツェンさんをお姫様抱っこするゾデの姿が。

 安全な位置からレダティの炎に見入っており、赤髪の女の子に気付いていない。


「ゾデ! 危ない!」

「む?」

「がう! がうー!」


 ゾデは振り向いて一瞬俺の方を見た。

 すぐに赤髪の女の子を捕捉し、すれ違うように彼女の突進を飛び越える。

 今は自身のフルメイルだけでなく、メツェンさんの重さも加わってるはず。

 なのに相変わらずの軽業だ。


「がう!?」

「メツェンさんは無事ですか!?」

「息はある! 気を失っているだけだ!」


 メツェンさんの安否を問うと、ゾデはこちらに走りつつ返事をした。

 それを聞いた途端俺は全身の力が抜け、戦闘中その場に座り込んでしまう。

 ほぼオートモードとは言え、一応戦闘中なのにね。

 それだけ緊張してたんだな。


「良かった。

 本当に良かった」

「ああ。

 だがなぜ僕は追いかけられてるんだ?」

「がうがう! がうー!」


 メツェンさんの緑髪をたなびかせ、ゾデが俺のすぐ横を通り過ぎて行った。

 赤髪の女の子もその後に続く。


「メツェンさんを気にしてるんじゃないですか?」

「だと良いんだが」

「がう! がう!」

「娘よ。

 ラスティアン退治は終わったぞ」


 レダティの言う通りカニの大群が全滅している。

 赤い海と呼んで差し支えない光景だったのが、今は真紅の火の海だ。

 ついでに草原も被害を被っているけど、これは仕方ないだろう。


「ありがとうございました、レダティさん」

「礼を言うのはこちらの方だ、娘。

 まさか我自らラスティアンを倒せるとはな。

 おかげで悲願の敵討ちを果たせそうだ。

 これからもよろしく頼むぞ」

「これから?」

「根元のヤツハシラを壊さぬ限り、ラスティアンはいくらでも増え続ける。

 ここで休んでいる暇などない」


 ヤツハシだかヤツハシラだか知らないけど、レダティはまだ暴れ足りないようだ。

 でもアンジェロッドは一回きりなんだよね。


「レダティさん、何か遺言とかないですか?」

「遺言だと?」

「この蘇生は一度だけで、それにすぐに効果も切れちゃいます。

 現にほら、足が消えてってますよ」

「何!? それを早く言え!」


 レダティは身をよじって自身の足を確認。

 その間にも膝下まで消滅が進行していた。

 俺が言うまで気付かなかった辺り、体の感覚が無いのかな。

 骨だから。


「所詮仮の命か。

 ……娘よ、もし我と同じドラゴンに出会ったら、その時はこう伝えてくれ。

 AAに惜しみなくその力を貸し、臆せずヤツハシラに挑めとな。

 頼んだぞ」

「はい」

「ふふ、良い眺めだ。

 これで快く眠りにつける……」


 なんとか綺麗に言い終わり、レダティは消滅してしまった。

 それと同時に火の海が一瞬で鎮火。

 融合素材だった小さな牙が草の中に落下し、カニの大群との戦闘は終結した。


「実に見事であったな」


 俺が牙を拾おうと立ち上がった時、背後から聞き覚えのある声が。


「ドラゴンの牙とは聞いていたが、まさか本物とは思わなんだ」

「女王じゃないですか。

 今までどこに?」

「転移魔法で逃げておったのじゃ。

 久々ゆえ制御が利かず、ちと遠くに飛び過ぎてしまったわ」

「メツェンさんを見捨てて自分だけで?」


 女王は俺と目を合わせたまま歩き、腰を曲げてレダティの牙を広い上げた。


「何じゃその目は。

 あいにく転移できるのは術者のみでのう。

 それにあの時、メツェンはわらわに逃げろと申したぞ」

「でもずっと隠れてたんですよね?

 AAでなくても何か出来る事があったでしょう。

 自己保身の転移魔法しか使えないんですか?」

「ほぉー、新米AAのくせに大きく出よるなぁ。

 証明として、人形が如きその髪を燃やしてくれようか?」

「やめて! ケンカしないで!」


 突然割り込んできた声の主に、俺と女王が視線を送った。


「メツェンさん!」

「ほら、私ならこの通り元気だから。

 ね?」


 両腕を広げ、明るい笑顔で元気アピールするメツェンさん。

 確かにケガはしていないけども、服が所々破けていて何とも痛々しい。

 そして、破けた服から覗く柔肌に俺は劣情をそそられ、

ダメだ見ちゃいけない……と目を逸らした。


「シツちゃん?」

「何でもないです。

 ケンカはやめときます……」

「どうしたの? 何でそっぽ向いちゃうの?」

「ホントに何でもないですから……」


 メツェンさんが正面に回り込んでくるので、対抗して俺もいそいそと回転する。

 気にかけてくれるのは嬉しいけど、正直ありがた迷惑です。


「メツェンよ。

 あちらのケンカも何とかしてやれ」

「へ?」

「がうがう! がうがう!」

「大人しくしないか」


 女王が親指を向けた先には、赤髪の女の子とゾデの姿が。

 かなりの体格差があるにも関わらず、2人は取っ組み合いをしている。

 メツェンさんが2人の方へ走り出すと、女王は俺に近寄り耳打ちを始めた。


「今更何を恥ずかしがっておる。

 風呂で散々乳繰りあった仲であろう」

「乳っ……そんな事してませんから!」

「そうかそうか。

 ではこれからなのじゃな」

「だから!」


 互いにヒソヒソ声で言い合っていると、メツェンさんが戻って来た。

 赤髪の女の子が彼女の腰に抱き着き、有り余る横乳にムニッと顔をうずめている。


「まだ何か言い合いしてるの?」

「いや、なんにも……あはは……」

「あやつが羨ましいか?」

「何の事ですかね女王。

 さっぱり意味がわかりませんよお」


 棒読みながらも必死にごまかすと、メツェンさんが赤髪の女の子をそっと撫でた。

 チクショウ羨ましい。

 横乳はともかく、俺も撫で撫でされたい。


「それなら良かった。

 ラスティアンも片付いたみたいだし、仲直りの印にみんなでお風呂に入らない?」

「みんなで……ですか?」

「そう、みんなで。

 私もシツちゃんも、スカルベルちゃんだって途中だったでしょ?

 この子とも仲良くなりたいし、どうかしら?」

「がうー……」


 基本、俺はメツェンさんの選択に逆らわない方針だ。

 しかし非常に大きな問題がある。


「あの、忘れられてたりしませんよね? 俺だけ男なんですが、それは……」

「何よ今更。

 イサファガではみんなが家族なのよ?」

「ほれほれ、本人がこう言っておるではないか。

 遠慮するでない」

「ちょっ、やめて下さい。

 女王は恥ずかしくないんですか?」

 俺と混浴だなんて」


 女王は俺への肘打ちを続けながら、「ふふん」と笑い飛ばす。


「安心せい。

 そなたのような軟弱のこわっぱ、元より男のうちになど入らぬわ」

「う、それはそれで傷付く……」

「決まりね! じゃあ行きましょ!」


 えっ、決まっちゃったの……?


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異世界で原作再現〜俺、ただの隠れ女装レイヤーですよね?〜 山盛 @Yamayamamorimori

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