狂人たちの一日

石宮かがみ

狂人たちの一日

 本来ならどのような話にも前後関係というのは存在しており俺たちの立場から俺たちの立場についての言い訳というか説明に該当する釈明が必要なのだろうが、事が大きくなりすぎた今となっては俺たちの過去について詳細を話す機会も無いと思われるのでかいつまんで言語化する。

 俺たち同じ大学で学ぶ仲良し二人組が超人的なパワーや超人的な頭脳を駆使した結果、日本は滅んでしまった。

 まるで滅ぼした事が一種の過失であるかのような表現になってしまったが、実際のところ、ちょっとつついてやったら『勝手に壊れた』だけなのでそんなに怒らないで欲しい。問題にすべきは俺たちを利用しようとした挙句、自分たちごと日本が滅びる原因を作ったやつらであり、俺たちは誘われてその場にいたにすぎない。もちろん、ちょいとつついてやったのだが、それくらい遊びの範疇だろう?

 さて、しがない大学生である俺たちがまあ日本が滅んでもいいんじゃねーのとか思った理由についてだがこれは恐ろしく日本の政治家にありがちな、この国はスクラップアンドビルドが必要なんですなんて言説に感銘を受けたことから始まる。

 一度スクラップにしてやると立ち直る。

 素晴らしいことである。それはあまりにもつまらない世界をいかにして盛り上げるのかで悩んでいた俺たちにとって福音だったわけだ。だが本当にスクラップにしてやって気づいたことは、残念ながら日本はスクラップになるとそのまま消滅してしまうという事実だけだった。あれをこれして瞬く間に日本を滅ぼしてしまった俺たちは、世の中はこんなにもつまらない上、タフでも無いと知ってがっかりしたものだ。しかし世界はもう少しタフであると期待して、よおし次は世界だと息巻いていた。

 つまり俺たちの目的は変更されていない。

 単純明快であり、最初から最後まで世界を滅ぼす事に他ならない。夏休みを利用して人生経験を積みましょうなんて言われるご時世、世界を滅ぼす経験なんて最高にインスタ映えすると思う。

 実際、日本を滅ぼしたあたりから世界の各国から最大限の注目を持って迎えられることになり日常的に世界中を敵に回して戦っている。

 世界の必死さはちょっと理解に苦しむくらいで、一度くらい滅びたっていいだろうに、なんでそこまで意固地になるのか俺たちにちょっと共感できないね。

 迫り来る長距離弾道ミサイルを受け止めながら、俺はすぐ隣でビーチチェアに座ってフルーツの缶詰を食べている怠け者女に文句を言ってやることにした。

「これくらい上空で軌道を変えてやればいいだろ、なんで俺にやらせるんだよ」

「わたくしに頼りすぎじゃありませんこと? 貴方は頭が残念なのですからそれくらいは働いてもらわないと困りますわ。それに、重いものを動かすとお腹が減りますの」

 怠け者女は全く悪びれずにフルーツを口に運び、あまーいなどと言いながら写真撮影インスタしている。俺はいつからミサイル係になったんだ。つまらないことはしたくない。こう、もっと盛り上がることがしたいんだよ。そりゃあ昔はミサイル一つ飛んできたら盛り上がれたものだが、こうも毎日毎日飛んできたら気分は下がって当たり前だ。

 空からは光学迷彩で身を隠した兵士が降下してきている。

 手元のミサイルを空に投げ、グッと握った掌から圧縮空気弾を撃ち、今まさに銃のトリガーを引こうとしていた男たちをミサイルの爆破により粉砕する。どこかの映画で見た火山噴火に似ていて、こんなにいい感じに砕けるとはあいつら最高に意識高いよな、死ぬ時まで美意識があるんだな、なんて感銘を受けてしまう。

「食事が済んだら言えよ。次は大陸に行くんだから。お前がいないと海とか面倒だろ。俺、空とか飛べないし」

「それでもジャンプしたら20キロくらいは飛び越えられるのではないかしら。飛び石みたいにトントンと少しずつ飛んでみるのはいかが? 対馬あたりからならいけるかも知れませんわ」

「お前、地図とか見て言えよ」

「紙の地図なんて残っていたかしら。力を使う時に壊れるから、電子機器は苦手なのよね」

 やくたいもないことを話しながら続々と現れるやつらをそのうち見えるであろう夜空の星に変えていると、どこからともなく現れたロボットの集団に囲まれる。

 人の気配はしなかった。だから接近を許してしまった。相手はどこからどう見てもロボットで、中に人が入っている様子もない。

「あれってもしかして無人戦闘ロボットってやつじゃないか? 写真撮影インスタしとこう」

 カシャカシャと撮っていると、一体のロボットから何かが飛んでくる。

 受け止めようと思ったが、あまりの早さについ体が回避を行ってしまう。

 背後からの凄まじい衝撃。ついでに地面が盛大に揺れた。怠け者女の座っているビーチチェアがひっくり返り、フルーツの缶詰が逆さまになって頭に乗っている。怠け者女は甘いシロップまみれだ。意識が低いからそんなことになるんだ。

 俺は目の前のロボットたちに視線を戻す。

 ロボットたちはなにやら凄そうな装備をしていて、先ほどの攻撃もその一つのようだ。最初はでかい対物ライフルか何かだと思っていたが、どうやらレールガンの一種らしい。他にはどんな武器があるのだろう。周囲には続々とロボットが集まってきており、国家機密っぽい兵器が勢揃いだ。

 俺の背後の地形が衝撃波によって豪快にえぐれている。

「本気出すから気をつけろよ。ちょっと地形が変わるぞ」

「全く……野蛮人ね」

 怠け者女の返事は無視して俺は駆け出す。

 世界を滅ぼしてスクラップアンドビルドだ!

 世界を盛り上げてやるぜ!

 拳を振り上げ、衝撃波でキノコ雲を作りながら考える。

 今日の午後にはどこまで滅ぼせるだろうか。人生設計は大事だ。人生効率が全てだろう。俺はスピード感のある計画を立て、それを実行に移して行くのだった。



     完

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