傭兵(短編)

@honganji-sian

第1話 戦場の平穏

その男、傭兵として生きる。


彼はいつも銃声が目覚ましであった。

新兵達が一斉射撃をしている。

この中南米の奥地では、泥だらけの新兵達ばかりだが

一人だけ泥にまみれていないのがいる。

日系のサブというやつだ。サブは好戦的な男だが

絶対に生き残る意志の強い男だ。

戦士向きな性格のやつだ。

コーヒーのにおいで視線を変える。

そそぐカップに湯気が彩る。ミルクとシュガーを少しだけ。

戦場ではお子様と言われるが、今はいい。

贅沢な時間なのだ。好きにさせろ。

口に甘さを感じつつ、彼の心がそう言った。


新兵達の方の音が静まっていた。

ああ、そうか。今日は新兵達の中で帰省をするものがいるんだったな。

サブもブラジルの農園で手伝いをしてくるらしく、

大きく手を振り、ジープに乗った。

戦場ではあんなに雄弁に銃をかざすサブでも

普段は物静かなもんなのだが、

今日は大きな声を出していた。


「死ぬなよ!!」


大きな笑顔で笑っていた。

新兵達も笑って、それぞれが思い思いの言葉で返していた

「お、ま、え、が、な!」

「ばーか」

「あーもう死んじゃうから、いかないでぇ~」

ゆっくりと走るジープには、まだ大きく手を振る

サブがいた。



「その辺でいいかい?」

大佐殿が邪魔に入った。

「いいって何もしてないが?」

「ああゆうの嫌いじゃないんだろ?嬉しそうだったぞ」

「・・まぁな。もうあんな顔なかなかできない事くらい知ってるからな」

「・・わかるよ。・・・さて、任務の話だ。これからお前は、北に130キロの街、

マイカで行われる、新エネルギー博覧会の前夜祭で

ポルトガル領事官のマグワイヤ・ノッテンフィートを誘拐してもらう」

「こいつが何かしたのか?」

「いや」

「・・・こいつが持っているとかの話か?」

「正確には、マグワイヤが今後公表しようとしている内容が問題なのだ。」

「ブラジルへの警告か?」

「違う。ベネズエラ政府の機密情報と聞いている。」

「ベネズエラ・・・」

「もし、ベネズエラの機密情報が公開されてしまうとポルトガル関係国ではなくとも

こちらの心配をしなければならなくなる」

「そこまでしなくちゃいけないのか?」

「そこまでしなければならない理由は上に聞いてくれ。前夜祭は今日の午後8時だ。

遅れるなよ。では会場で。ノーファイター。」


ノーファイター。嫌な名前だ。

俺のコードネームとなっている名前なのだから仕方ないのだが

殺さない殺し屋、戦わない戦略家

目的遂行の上で最短を目指した結果そうなっただけなんだがな。



彼は戦場ではホービット・ノーファイター(HBNF)

と呼ばれている。

彼の本名を知るのは、サイフに入っているボロボロの写真の

姉ジャネットだけと言われている。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

この話はここで終わりです。

彼が何をしたかではなく、彼の平穏を描きたかった感じです。

最後までご覧いただきありがとうございました。

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