第26話 第二王女の依頼書
アンファング領にて、悪魔から逃れた人々が避難をしている平野。
そこから少し離れた場所に、この場所には似つかわしくないやたら豪奢な馬車が止まっていた。
馬車の中では、ヴィーダと共にアンファング領を訪れていた日隠燈凛が、彼女の主たるレインに今回の事件の報告を行っているところだった。
「そう、悪魔は倒したのね」
「ええ。ヴィーダ君の協力もあって、どうにか。もちろん、レイン様がフィーユ様をお呼びするなどといった尽力もあって、ですよ?」
「ねえ燈凛? 別に私にそういったおべっかはいらないわよ?」
「いえいえ。おべっかではありません。事実しか申しておりませんよ?」
燈凛は朗らかな笑みを、獣人の証たる獣の耳を揺らす。
彼女の態度が気に入ったのか、レインは笑みを零し、追及することはしなかった。
「そう、ならいいわ」
「ですが、悪魔を倒したとはいえ、問題は多くあります。被害を受けたアンファング領の復興はもちろんですが――」
「今回の首謀者であるゼーレが、どうやって悪魔の書なんて禁書を手に入れたのか、ということかしら?」
「はい。偶然、といってしまえばそれまですが」
「そうね。ファインがどこでゼーレ卿に勧誘を受けたのか、という問題もあるものね」
十三騎士マノワール曰く、悪魔の書を使用した場合、自意識なんてものはどんどん薄れていくらしい。悪魔召喚という儀式を完成させることしか、頭の中に思い浮かばないそうだ。
無論、そのための手段は考えられるだろうが。
「どれだけ調べても、事前にゼーレとファインが接触した時期がないのよね。明らかにファインは、悪魔召喚が行われていると理解して、アンファング領を訪れているのに」
だとするなら、一体誰がファインに、ゼーレが悪魔召喚をしていることを吹き込んだのか。
「ファイン様に問いただしますか?」
「しなくていいわ。どうせ、のらりくらりと躱されてお終いよ」
ファインの性格は把握している。あれは相手をするだけ無駄だ。
だからといって放置するわけにもいかず、どうしたものかとなんとなしに窓の外へ目を向ければ、今正に話題に上がっていたファインに追われ、心底鬱陶しそうに表情を歪める銀髪の少年が目に入る。
彼女は思わず頬を緩めると、横に置いてあった小さな鞄から白い封書を取り出す。
「ふふ。そうね。であれば、彼にお願いするのが一番かしらね?」
白い封に収められた依頼書を艶やかな朱い唇に添え、第二王女レイン・メンシュハイトは不敵な笑みを浮かべる。
第二王女の依頼書 ななよ廻る @nanayoMeguru
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