最終話 好きなことで生きていく
お久しぶりです。父です。
随分と間が空いてしまいました。公私共に予想外に忙しく、なかなか時間を割くことができませんでした。それと、正直に白状すれば僅かな空き時間を他の連載に使っていました。仕方ありませんよね。何かを創作する際にリアクションの多い方に尽力してしまうのは誰しも同じです。
おまけに父はエタるのが嫌いです。そのくせに飽き性ときています。故に今回で最終回です。仕方ありませんよね。人気が出ればもう少し違っていたかもしれません。でもしょうがない。また来世で会いましょう。
さて、今回は最後にふさわしい失敗談です。
ですがコレに関して言えば、単純に失敗談というよりそれを乗り越えた先にあるものについて、です。
今回は「好き放題生きる」という失敗です。
今まで数々の失敗談を書いてきたからもう分かっていると思いますが、父は幼少のみぎりから失敗ばかりでした。父はそのせいで自分に自信を失くしてしまいます。しかし時は流れ、父は青年になり音楽に出会います。音楽は父を変えました。音楽は父に自信を取り戻させてくれました。ここまでよかったのです。ここまでは。
再び自信を取り戻した父は自らの思うままに道を決め進んでいきます。そして何処で間違ったのか「失敗なんて怖れてたってなにひとつ始まらねえぜ!アーイ?!」的な、若さ特有の根拠の無い自信に満ち溢れてしまいました。
しかし努力に裏打ちされていない自信とは不安定なのもの。父は徐々に「アレ?大丈夫かな?」と思う日が多くなっていきます。
気が付いた時には何も形になっておらず、ただいたずらに年老いた自分がそこにいました。
周りの友人たちは大学を卒業し、就職活動を経て立派な社会人として飛躍していました。
「好きなことで生きていく」
某有名サイトで一時期これでもかと垂れ流されていたフレーズです。このフレーズは父からすれば、とても危険性をはらんでいるように感じます。
好きなことで生きるのはいい。でもそれはとても重い責任と向き合いながら生きていくことでもあるのです。「好き放題に生きていく」のと「好きなことで生きていく」のは似て非なることです。
前者は無責任そのものですが、後者は常に責任と向き合って生きていかねばなりません。
父はこの二つを混同し好き放題に生きているだけなのに自分が好きなことで生きていると勘違いをしていました。ですが途中で違和感に気が付きます。
何か失敗したり、つまずいたり。そんな時に誰かに助けを求めたり愚痴を聞いてもらいたいと思ってもきまってこう言われました。
「良いけどさ。でも貴方って好きでその道選んだんでしょ?」
と。
そうなのです。ド正論です。ぐうの音も出ません。
当時の父はちょうど分岐点にきていました。まだ音楽で生活できるレベルではないにしても、徐々にコネクションや経験が増えていき、ここから死ぬ気でやれば、あるいは何かしらのカタチになるかもしれない。しかし、引き返すなら少々遅いがまだ間に合う。そんな時期でありました。
そんな分岐点で父は色々なことを考えていました。
皆が仕事の愚痴を言い合う飲み会の席で、好きなことで生きてる人は愚痴を言うことも許されないのです。当たり前ですよね?好きなことで生きているなら忙殺されて寝る間がなくても「ウルトラハッピー☆」と常に笑ってなくてはいけないのです。「周りの反対を押し切っても自分で選択した道だから」という責任がいつの間にか、すぐ背後まで忍び寄っていたのです。
その時になって父は次第に思うようになりました。「好きなことで生きていくって、全然好き放題できねえ。むしろ真逆だよ」と。
父は好きなことで生きていくことの難しさを目の当たりにし、そして疲れ、音楽で生きるという道を諦めることにしました。
才能が無かった、と言えばそこまでです。ですが費やした時間や引き換えに失ったものを考えるとその言葉だけ終わらせることはできません。父は、好きなことで生きていく覚悟が足りなかったのです。その責任を背負って生きる覚悟がなかったのです。
もうこの先、自分は音楽で大成をなすことはない。初めてそう心で意識した時、それは辛いものがありました。少し泣きました。
でも悪いことばかりではありません。狭かった父の視野はグンと広がり、今までの人生ではありえなかった経験や出会いが沢山ありました。母ともそうして出会ったのです。
音楽家として生きる夢は潰えましたが、音楽は人生の糧になっています。あの時決断してよかったと心から思います。その証拠に父は今でも音楽が大好きで、新しい曲を作り続けています。
これは別に、夢なんか追っかけるんじゃないという話では全くありません。むしろ夢は追い求めるべきです。
ただ、好きなことで生きることと、好き放題生きることを決して履き違えないようにしてください。そして好きなことで生きようとするのであれば、努力と経験を積むことを怠らず、試行錯誤を繰り返してください。そして何より、貴方自身の人生ですから、貴方自身がちゃんとその責任と向き合って生きてください。
そしてもし、ただ好き放題に生きたいというのであればさっさと夢を趣味にして就職し、休日を趣味で満喫することをオススメします。
最後になりますが、これだけは覚えておいてください。
父は夢を追いかけたこと、その結果諦めてしまったこと。どちらもまったく後悔していません。失敗だとも思っていません。好き放題に生きる人生もそれはそれで悪いとは思いません。父が後悔だと思っていること、失敗だと思っているのはちゃんと向き合って覚悟を決めなかったこと。そしてその決断を後押しするほどの努力をしていなかったことです。
貴方は父のように中途半端にならず、どういう人生でもいいので、ただ真っ正面から自分の人生と向き合ってくださいね。
あと健康に気をつけてください。
それではまたいつか。
必要か不必要かは置いておいて。これが父の、失敗という名の
ありがとうございました。
完
失敗のレガシィ 三文士 @mibumi
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