第51話 エピローグ③
(そう、これでよかったんだ)
俺が内心でそう呟いたとき。
「エージ!!!」
闇の向こうで聞き慣れた声がした。軍用ジープの窓を開け、声の方向に目を凝らす。
「――――渚」
40mほど先には、明かりが消えたスタヂアムがある。その外野席最上段には――強風のなか、凛と立つ一人の少女の姿がおぼろげに浮かんでいた。
「おおーい! 危ないぞ!」
俺は走る軍用ジープから叫んだ。
「――――」
無言で大きく構える渚。左足を上げ、右足を脱力させる唯一無二の投球フォーム。
豆のように見えていた彼女が躍動した瞬間、ヒュッ、と音が聞こえた気がした。
と、何かがスタヂアムから飛んでくる。
強風をものともせず、闇を切り裂く一閃の光。俺はその飛翔体をを両手でとらえた。
「うわっと! ――これは」
サンライズが練習で使用しているものではなく、白い革がまぶしい真新しい硬球。革の匂いがかすかに鼻をつく。
間違いない、あの日、サンライズvsジャガーズ戦で使用していたボールだ。
「やっぱり冥子のやつ――」
俺は苦笑した。やはりあのホームインは――
「フフ、さすがサジタリウスだな。あの距離から走るジープを狙い撃つとは」
事情を知らないペニー少佐が口ひげを撫ぜながら苦笑する。そしてボールを覗き込み、尋ねた。
「? これはひょっとして我が空軍が使用しているステイツ製のボールではないか?」
「ええ、まあ」
「Hmm……そして、なんて書いてあるんだ」
新東都支部の軍人は皆日本語が多少話せるが、読み書きができるものは少ないのだ。ペニー少佐はそう言って、サングラスを額にずらす。ボールには墨汁で文字がしたためられていた。
俺は白球を握りしめ、答えた。
「『ありがとう、百合ケ丘サンライズ初代監督・青島エージ』」
パラレルセイバーメトリクス!! とらまる @fuguchiri
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