王恭2  五男を以て   

謝安しゃあんさまの甥の息子、謝重しゃちょう

その娘は王恭おうきょうの息子に嫁いでいた。

そのため二人は非常に仲が良かった。


そいつが気に食わない子がいる。

司馬道子しばどうしって言うんですけどね。

孝武帝こうぶてい陛下の弟ぎみ。


謝重、司馬道子の下で働いていた時に

司馬道子から譴責を受けて罷免された。


おいおい謝重ほどの奴を

罷免だなんてもったいない。

王恭、すぐさま謝重を京口けいこうに招き、

自分の副官に抜擢した。


司馬道子、自分で罷免したくせに、

大っ嫌いな王恭のもとに

謝重が行ったことにムカついた。


なのですぐ謝重の罷免を解除。

ご意見番に取り立てた。

引き留めた、というよりは

結局二人の仲を引き裂きたかったのだ。


やがて王恭、司馬道子の権勢を嫌い、

反乱を起こそうとしたが、敗死。


厄介者が消えてくれた!

意気揚々と東府城とうふじょう

つまり自らの居城の周りを

散歩する司馬道子。


すると東府城南部の門辺りに、

属僚たちがこぞってやってきて、

司馬道子に向けて拝礼してきた。

その中には、あの謝重もいた。


ふふん、すまし顔め。

俺は知ってるんだぜ。


司馬道子、すすすと

謝重に近寄り、言う。


「噂では王恭の反逆計画、

 お前が計画したそうじゃないか?」


ざわ、と周囲に怯えの色が走る。

が、当の謝重は澄ましたもの。


「昔、楽広がくこうが申しておりましたね。

 五人の息子と、一人の娘。

 どう秤に掛けられようか? と」


このコメントに、司馬道子は大爆笑。

酒杯を謝重に押し付ける。


「そう、それ! それよ!」




謝景重女適王孝伯兒,二門公甚相愛美。謝為太傅長史,被彈;王即取作長史,帶晉陵郡。太傅已構嫌孝伯,不欲使其得謝,還取作咨議。外示縶維,而實以乖閒之。及孝伯敗後,太傅繞東府城行散,僚屬悉在南門要望候拜,時謂謝曰:「阿甯異謀,云是卿為其計。」謝曾無懼色,斂笏對曰:「樂彥輔有言:『豈以五男易一女?』」太傅善其對,因舉酒勸之曰:「故自佳!故自佳!」


謝景重が女は王孝伯が兒に適し、二門公は甚だ相い愛美す。謝の太傅長史為るに、彈を被る。王は即ち取りて長史と作し、晉陵郡に帶せしむ。太傅は已に嫌を孝伯に構え、其の謝を得せしむを欲さず、還らしめ取りて咨議と作す。外にては縶維なるを示したれど、而して實に以て之の閒に乖じたるなり。孝伯の敗せる後に及び、太傅は東府城に繞りて行散し、僚屬は悉く南門に在りて要え望みて候拜せば、時に謝に謂いて曰く:「阿甯が異謀、是れ卿が其の計を為したりと云わんか」と。謝は曾て懼るる色無く、笏を斂め、對えて曰く:「樂彥輔に言有り。『豈に五男を以て一女を易せんや?』と」と。太傅は其の對うるを善しとし、因りて酒を舉げて之に勸めて曰く:「故より自ら佳し! 故より自ら佳し!」と。


(言語100)




謝重

謝氏兄弟で二番目に存在の薄い子謝拠しゃきょの孫。ちなみに一番目は謝鉄しゃてつ。ヤバいくらい話題に上がらない、頑張って劉宋の官僚謝方明しゃほうめいの祖父だってくらい。


ただ、本人は謝安の孫世代では謝混しゃこんの次くらいに有名。司馬道子のブレーキ役的な立ち回りをしてはいる。ちなみにここで載っている楽広の話は司馬穎

https://kakuyomu.jp/works/1177354054884883338/episodes/1177354054887835485

の、これですね。っつーか楽広にせよ謝重にせよ王朝末期のお話ってのがまたえぐくて良いね。


ついでにこの人の息子、謝晦しゃかいは劉裕の腹心として活躍している。後日謀叛嫌疑で殺されるけど。

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