王恭1  王恭と王忱1  

王恭おうきょう 全16編

既出:羊祜1、簡文28、孝武3、孝武6

   苻堅4、謝安24、謝安26

   謝安27、謝安36



王恭が出先の会稽かいけいから建康けんこうに戻ってきた。

かれと仲良しだった王忱おうしんが会いに来る。


この時宴の席にあった王恭、六尺ばかり、

つまり、かなり大きめな、

竹で編んだクッションの上に座っていた。


それはもう、見事なものだ。

会稽には、このような物があるのか。


王忱、王恭に言う。


「東の名産か! すごいな!

 似たようなものを一つ、

 俺にも分けちゃくれんだろうか」


だが王恭、この要請をスルー。

がっかりした王忱は、立ち去る。


宴が終わった後、王恭、

王忱に宛て、他ならぬ、

自分が座っていたクッションを送った。


そして次に宴で会ってみれば、

なんと王恭自身は粗末なゴザの上に

座っているではないか!


こいつに王忱、ビビる。


「いやいやいやいや、待て待て!

 余っていたら欲しい、と思ったんだ!」


これに対して王恭は答える。


「あなたは私のことをご存じないようだな。

 この王恭、余計なものは

 持たぬ主義なのだよ」




王恭從會稽還,王大看之。見其坐六尺簟,因語恭:「卿東來,故應有此物,可以一領及我。」恭無言。大去後,即舉所坐者送之。既無餘席,便坐薦上。後大聞之甚驚,曰:「吾本謂卿多,故求耳。」對曰:「丈人不悉恭,恭作人無長物。」


王恭は會稽從り還り、王大は之を看る。其の坐に六尺なる簟を見らば、因りて恭に語るらく:「卿の東より來たるに、故に應に此の物有り、一領を以て我に及びたるべし」と。恭に言無し。大の去りたる後、即ち坐したる所の者を舉げ之に送る。既にして餘りたる席無く、便ち薦上に坐す。後に大は之を聞きて甚だ驚き、曰く:「吾は本は卿には多きを謂う、故に求めたるのみ」と。對えて曰く:「丈人は恭を悉らず、恭が人は長物無きを作す」と。


(德行44)




王恭

太原たいげん王氏。東晋末期の風雅の極致。その矜持をもって東晋王朝を支えようとしたのだが、そんな理想主義的な部分がたたって部下、すなわち武骨な武人である劉牢之りゅうろうしに憎まれて裏切られ、死んだ。そう言った末路を踏まえてこっから展開する王恭のエピソードを読むと非常に趣を感じられるかと思う。なお余談だが、同じような趣は、今後紹介することになる王衍おうえんの時にも感じられそうな気もしている。


王忱

王恭と同じく、太原王氏。ただしいわゆる親等で言えばだいぶ離れている。先祖が同じになるのは六代前だから、十二親等か。離れも離れたりと言う感じだ。っが、仲は良かったようである。激動の東晋末で西府軍にちらりとかかわったが、そこで病死。

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