簡文14 すげえぜ謝安さん

孝武帝こうぶていの御世のことである。


崩御した先帝のおくりなを定めたい。

これについて、謝安しゃあんが提案の上奏をした。


「徳に専心して怠らぬを、曰く、簡。

 道を修め、博聞であるを、文。


 易経えききょうは簡素な中に

 天下の精妙な理を伝え、

 天下を教化する、と申します。


 先帝のおん振る舞いを

 思い起こしまするに、

 まさしく、斯様なイメージを

 彷彿と致しました。


 従いましては、廟号を太宗たいそう

 諡号を簡文と為すのが

 良いのではないか、

 と愚想致します」


さて桓温かんおんさま、この上奏文を読む。

すると、諡号決定会議に参加している

人々に、上奏文を投げてよこした。


「おいおい、なんてことだ。

 こんなところにまで

 謝安の才覚が迸ってやがる」




桓公見謝安石作『簡文謚議』。看竟,擲與坐上諸客,曰:「此是安石碎金。」


桓公は謝安石の作せる簡文が謚の議を見る。看竟えるに擲ち、坐上の諸客に與えて曰く「此れや是れ、安石の碎かるる金なり」と。


(文學87)




謝安の諡に関する提案は、劉孝標りゅうこうひょうが注に引いています。それが挿入した部分になるんですが、原文はこんな感じ。


謹按謚法:『一德不懈曰簡,道德博聞曰文。』易簡而天下之理得,觀乎人文,化成天下,儀之景行,猶有彷彿。宜尊號曰太宗,謚曰簡文。

謹みて謚法を按ぜるに:『一なる德に懈まざるを曰く簡、道德を博く聞きたるを曰く文』と。易は簡にして天下の理を得、人文を觀、天下を化成し、儀の景を行き、猶お彷彿有り。宜しく尊號を曰く太宗と、謚を曰く簡文とすべし」と。


ここで言う諡法は、いわゆる『逸周書いっしゅうじょ』の「諡法解しほうかい」のこと。ちなみにこんなことが書かれてるやつです。

こういう情報を自作でフォローできちゃうようになれたのは嬉しい限りですね。

https://kakuyomu.jp/works/1177354054891761481/episodes/1177354054891761507


なお、安石は謝安のあざな。「砕いた安石の欠片」が金とか、ちょっと桓温さま

激賞甚だしすぎませんかね。ただ安石砕いちゃうんだ……とは思わずにもおれず。愛憎半ばで桓温さまが大変なことになってる感じだなあ。

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