ゲーセン行ってみる。(後)

 近藤さん達が向かったのは―――――意外な事に格闘ゲーム。


「イン·トゥ·ザ·インフィニティ インテリジェント」という、近未来を舞台に異能バトルを繰り広げていく内容のゲームだ。

 元は重く暗いとされるストーリーモードのシナリオが特徴のフリーの格闘ゲームで、これを大手メーカーが作者に許可を取った上でアレンジを加えて移植したものだ。

 貯まるのも減るのも早い最大で10本の技ゲージ、簡単な技のコマンドなど、システムも少し変わっている。

「何これ? 面白そうじゃん、やってみようかな」

 筐体のモニターから流れるデモンストレーション映像に惹かれたのか、近藤さんは財布から100円玉1枚を出し、それを前に置かれた椅子に座るのと同時に筐体へと入れた。


 まずキャラクター選択―――――だが。

「へー……?」

 一人一人を選んでは、画面に向かって何か喋っていた。

 当然時間がなくなり、自動的に選ばれたのは―――――。

るい」という、体をソーラーパネルのようにして、発電したり湯を沸かしたりできる能力が使える黒髪のキャラクター。

 一発のパワーに振れる限りの全ての能力を振ったかのような、ロマンのあふれる戦い方で、人を選ぶキャラクターでもある。


 正直に言って初心者にはオススメできないキャラクターを選んだ―――――というよらは選ばされたわけだが、まず操作をあまり知らないであろう近藤さんはどう立ち回るのか。

 とりあえず1戦だけ見て乱入してやろうじゃないか―――――。

 この手の初心者は、「狩る」のにはちょうどいい。


 最初の戦闘の前に入るストーリーは、涙の場合だと、

「かつて化石燃料で栄えたが、あるニュースによって一気に廃れた街にある自宅へと送られてきた手紙が、異能バトルの大会への招待状だった」

―――――というもの。


 このように、登場するキャラの背景には、一癖二癖あったりするのがこのゲームの特徴だ。


 最初の相手は―――――いばらを手で操る能力を持ったキャラクター「椿つばき」。


 ここの設定は二本先取で勝ち。

 ラウンド2辺りで乱入と行こうか。


 ラウンド1で一度、彼女がどう操作しているか確かめた。

 乱雑にレバーをガチャガチャさせたり、ボタンを押しまくったりしているだけにも見えるが、それでも技はある程度出ている。

 コマンドが簡単なものばかりというのもあるだろうが。

 結局、ラウンド1は近藤さんの操る涙が体力ゲージを3割ほど残して勝利。

 ここで僕は100円を入れ、彼女の横に座る。

 画面には警告のような演出が流れた。


「えっ? 何これ?」

 いきなりの表示で驚いているのを尻目にして―――――。

「し、勝負……勝負してくれ!」

「喧嘩じゃなくて、ゲームで勝とうってこと? 全然いいけど」


 笑いながらもゲームでの勝負に臨む近藤さんだが、さすがに彼女も全ての分野で優れているわけではない。

 頭が良くないらしいし、この手のゲームだって先程のレバガチャを見る限りは上手とは言えないのは確かだ。


 僕が選んだのは―――――氷柱を生成して飛ばす能力を使える、赤紫髪のキャラクター「ピローニ」。

 この作品のヒロインで、かつては「U-18異能力世界大会優勝候補」とされていたが、ある事実が判明して以降姿を消していたという設定。


 始まったラウンド1では、最初に攻撃を与える事に失敗した。

 だが、結果はやらなくとも大体わかっているリアルファイトはともかく、ゲームでの《喧嘩》で負けるわけにはいかない―――――。

 僕は相手への情を捨て、反撃へ。


 流れが変わる。

 次々と攻撃を決めていき、体力ゲージでは圧倒的に有利。

「そういうとこもあるんだなぁ……」

 お前らが僕に対して、その事を言う機会もまともに用意してくれなかったからだ。

 とにかく、周りの僕への評価も180度変わってきた。

 しかし、それが油断になってしまった―――――。


 しゃがめば避けられた所の操作を誤ると、一気に反撃される。

「あっ、《来た》!」

 おまけに近藤さんの流れになると、急に後ろが騒ぎ始める。


 本当にレバガチャか?

 疑いながらも抵抗するが、僕には最悪のタイミングで、近藤さんが超必殺技のコマンド入力を成功させてしまった。

「ちょっ、何これ!?」

「はあ!? なんでその技使えるんだよ!?」

 画面からは掛け声が響き、横では彼女が騒いでいる。

 正直に言って、うるさい。

『サンシャイン……ブラストオォォォォォ!!』


 隙はできていたが動いたのが遅かったようで、止めるよりも技が発動する方が早かった―――――。

 体力ゲージを一気に持っていかれ、初手を落としてしまった。

 まさかの逆転、後ろが「近藤」コールで物凄くうるさくなってきた中で迎えたラウンド2は勝利。


 しかし、最終ラウンド。

 流れが全く違った。

 周りからは、野次も飛び交っている。

 僕は、これに腹が立った。

「おい、静かにしろよ!」

「はあ?」

 心で思っていた事を、言葉として出す。

 声は小さくなったが、陰口になっただけで完全に収まったわけではない。


 実力で本当に黙らせてやる―――――。

 その後流れをひっくり返し、勝負は自分が有利に。

 残っている体力にも差がある上に技ゲージも溜まっていて、トドメを刺すには十分。

「あっ、まずい! このままじゃ……負ける!」

 近藤さんが必死になって追い上げようとしているが、僕はふとその様子を見ては、笑いをこらえながら声をかける。

「やっぱり近藤さん、《ゲームでの》喧嘩には弱いんだ!」


「……まあね」

 声を大きくしすぎたのもあるのだろうが、これが彼女にとってはかなり辛辣しんらつだったようだ。

 最初は冗談として笑って受け流すつもりだったのだろうが、その笑いは呆れへと変わっていた。

 その後も僕はコンボを繋げていき―――――。

「もらった!」

「あっ!?」

 最後は技でトドメ。

 ゲームでは近藤さんに勝つ事が出来た。

『……出直してきて』

 ゲームからはピローニのセリフが流れる。


「やっぱり強いんだね、ゲームだと」

 それからしばらくしてゲームを終えた後、それまでプレー画面を見ていた近藤さんが話しかけてきた。

「ところでさ、工藤。 "ゲームでの喧嘩には弱いんだ"って……あれ、どういうつもり?」

 やっぱりそれかよ。

「思った事を言っただけだ、それくらい自由だろ?」

「そうなんだ。 じゃあ、私も工藤について、今思った事を言っていいよね?」

「ま、まあ、そうだな」

 挙動が怪しくなってきた。

 それで、言いたい事は何だ。


「工藤の辞書に、恩って言葉はないの?」

 うるさい、バカ。

 裏切るつもりならそうしてみろよ。


「……帰る」

「そうなんだ。 またね」

 少しの沈黙の後、俺はいら立ちながら店を去った。

 彼女には聞こえないだろうが、言葉には舌打ちで返した。


「近藤さん……?」

「気にしないでいいよ。 工藤と私だけの問題だから」

 一方の近藤は、友人に落ち着いて接していた。

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かっこかわいい近藤さん。 TNネイント @TomonariNakama

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