ゲーセン行ってみる。(前)

 ある日の放課後。

 学校から帰ると、端末にはメッセージアプリの通知。

「電話番号から登録した」というアカウントが、僕を友達登録したようだ。

 表示されたアカウントの名前は―――――「みっど」?

 良く分からないが、とりあえず学校の中の誰かだろう。

「どうやって僕の携帯の電話番号を見つけたのか?」という疑問が残るが、とりあえず誰なのかを聞いてみる。

 メッセージでもいいが、一度通話機能を使ってみようか。


 しばらく待つと、「みっど」と電話が繋がった。

「おい。 お前は誰だ?」

「……え? 近藤だよ?」

 本当に近藤さんか?

 胡散臭すぎる。

「近藤さん? どうやって僕の番号を……」

「昨日、消しゴム持って帰るの忘れてたよね? あれを拾ってみたら電話番号が書かれてたから、登録してみたら面白いかなって思って」

 要するにイタズラのつもりだったのか?

「何勝手に取ってるんだよ? あれは僕の物だぞ」

「え? 工藤って、拾われるイコール盗まれると思ってる? というか私、パクるなんて言ってないよ?」

 当たり前だろうが。


「馬鹿にしてるのか? 自分の所有物が勝手に他人に触られるんだぞ、そっちだってそれは嫌だろ?」

「そこまで拒絶するようなことじゃないかな……。 大切にしていたモノに嫌がらせされた、とかならまだ理解できるけど?」

―――――しまった。

 近藤さんが校内で属しているカーストは僕なんかよりも断然上、おそらく5段階あるとすれば一番上に位置するほどだ。

 彼女のような奴らにとって、消しゴムや鉛筆なんかは「ダメになったら新しいものに買い替えればいい」などと思っているから、自分の所有するモノがいかにして大事なのかを理解していない。

「……そうだ。 ところでさ、工藤って明日学校終わったら暇?」

 しばらく無言が続き、何を言い出すかと思いきや―――――。

「そんな訳ないだろ、いい加減に―――」

「えぇー……ゲーセン行こうと思ってたけど」

「マジか!?」

「マジ。 夕方でも行ける?」

「全然行ける」

「オッケー! じゃあ、5時頃にビバの前で待ち合わせね。 時間厳守、だよ?」

 待っていたのは、ゲームセンターへの誘いだった。

 それも僕が通学で通る道の途中にある店。

 本当に驚いた。

 これはもしや―――――"恋"か?

 とんでもない経験だ、上手く行けば肉体関係にも発展するだろう。

 それは地元では超が付くほどの有名人である近藤さんを、僕だけの物にするという解釈もできる。

 人間、生きていれば良い出来事もいくつか起こるものだ。

 唯一無二のチャンス。

 これは2人だけで行きたい、そう思っていた―――――。


 翌日、午後5時1分。

 約束の地、「アミューズメント ビバ」―――――。

 2階建てのゲームセンターだ。

 置かれているゲームの種類が豊富なのが特徴で、僕もここには週1で行っている。

 この辺りでは聖地とも呼ばれることもある程には有名な所。


 強い期待を背負ってやってきた、ビバの入口の前。

 しかし、そこにいたのは―――――。


 近藤さんとその友人、計14人ほど。

 中には見覚えのある姿も。

 こんなに集めて何をするつもりだ―――――。

 女子が異様に多く、他校の制服のままで来た者もいる。

 一体、彼女の何に惹きつかれたのか?

 僕が近付いてみると―――――。


「あ、工藤。 来たんだ?」

 特に嫌そうな面はしていない。

「当たり前だ、近所だからな」

「へぇ……」

「多分これで私含めたら15人かな……。 よーし、みんなー! そろそろ中入ろっかー!!」

「イェーイ!!」

「おっ、おう……」

 急にテンションが高くなったのか、店の前で少し声を出した後に彼女達は店内へ。

 何をしでかすかわからない。

 僕にはこういう、いわゆる「陽」の連中のノリにはほとんどついてこれない―――――。


 だが、僕にはゲームでは誰にも負けないという絶対的な自信がある。

 いつもは無関心のにわかどもよ、僕のプロ顔負けプレーの前でもはしゃいでみろ―――――。


 そのような思考をしながら、僕は近藤さん達の少し後を追うようにして店内へ―――――。

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