僕のとある休日。(後)

「そうだが……いや、お前は誰だ? まずここはどこだ!?」

 気になって仕方がない。 

 怒るような形になってしまった気もするが、そんなことはどうでもいい。

 俺は目の前の真実を知りたいだけだ。


「……しばらくお待ちください」

 その人が突然部屋を出ると、そこから20分くらい経ち、戻ってきたのは2人。

 藤岡さんが一緒にいた。

「目が覚めたのね、工藤」

 ここまでの彼女は、以前後輩を蹴っていた人間とは思えない。

 むしろ、一体何故そんなことをしたのか分からないほどだ。


「……ああ、僕は並大抵の暴力じゃ死なない人間だ。 それで、ここはどこだ?」

 そんな彼女に、僕は気になって仕方のなかった質問をぶつけた―――――。

「ここ? 私の……いいえ、私のお父様の所有する別荘。 私が生まれる数年前にはあったかしら」

 そういうことか。

「別……荘……? 家なんか一つ、実家だけで十分だろ? なんで持つ必要がある?」

 だが、僕の中に疑問は残る。

「は?」

 そしてこの疑問が図星だったのか、彼女は頬を赤くして右手を握っており、今にも怒りそうだ。

 こうした価値観の違いを相容れられない性格が、暴力へと繋がったのか?

 と思いきや、彼女は顔を左下に傾け、両手の指を交錯させながら―――――。

「……バカ。 今、ここの存在意義を一番感じているのは工藤、あなた自身じゃないの?」

 確かにそうだろうが、そんな人間ぼくをバカ呼ばわりするとは到底許されることではない。

 とにかく、こいつの態度に腹が立つ。

 怒りに身を任せた僕は立ち上がり、彼女の腰を蹴ろうと走り出した!

「誰がバカだ? 調子に乗るんじゃねえよ、暴力女!」

「えっ?」


 しかし―――――。

 その左後ろにいた謎の人が、 急に目の前に現れる。

 藤岡さんの腰に向かった左足を、その人は片手で掴む。

 とても力が強く、このあとまるで流されるかのように彼女の後ろへと投げられた。

「おい、邪魔するんじゃねえよ!」

「正当防衛です」

 本当に何者だ、この人は?

「ありがとう、藤間。 どうなることかと思ったわ」

「……はい」

 名前だけは分かったが、それ以外はほとんど謎に包まれている。

 この時代に、メイドか何かか?

 その後、2人はまた部屋を出た。


 僕の怒りは貯まるばかりだ。

 どうせならこの部屋にある高価な物を壊せるだけ壊してやりたい。

 だが、僕にそんなことをやれるような度胸と腕力はないので、その場で立って待つ。


 そのまま待って、数十分後―――――。

 いきなり白スーツの男が現れた。

「行きますよ、工藤様」

「……は?」

 そしてその集団に取り囲まれた。

 何だこいつら、警備か何かか?

「まずはこれを」

「……ああ」

 いきなり目隠しをされると、僕は集団の中の誰かに手足を掴まれた。


 後に離されたかと思ったら、今度はエンジンの音。

 車で移動中か?


 このあと、しばらく車に揺られ―――――。

 突然僕は両手を捕まれると、車から降ろされた。

「着きました」

 集団の内の一人に目隠しを取られ、視線の先にあったのは―――――僕の家だった。


「……何だ?」

 僕には言葉が出ない。

 何故に自宅の住所が分かっているのか?

 いきなり車に乗せた理由は何だ?

 仮にこれが「元にいた場所へと戻す」としたら、本来は倒された公園に戻されるものではないのか?


 何よりも端末の存在が謎……と思ったら、着ていた半ズボンのポケットに勝手に入れられていた。

 本当に何が藤岡さんの逆鱗に触れたのか、僕には分からない。


 その後、僕は藤岡さんとその周辺に関する様々な謎を抱えながら、残された時間を自宅で過ごした。


 まだ詳しいことは分かっていないが、今のところ藤岡さんは「親のコネがとんでもなく強い暴力系お嬢様」ということにしておいて良さそうだ。

 こういう奴もまた、僕のような人間の「好み」をなかなか理解してくれない印象があるが、全員がそうでないことを祈りたいもの。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る