僕のとある休日。(前)

 ある休日。

 僕は暇潰しにと近所の公園に行っては、ベンチに座って携帯のゲームのアプリで遊んでいた。

 今大流行中―――――らしい、戦車や戦艦といったありとあらゆる兵器の名を冠したキャラクターを強化・編成し、巨大なテロ組織や過激思想を持った敵国などから国を守り抜くという内容の戦略シミュレーションRPGだ。

 3章のミッション2「核ミサイル発射を止めろ!」がなかなかクリアできない。

「ふざけんなよこのクソゲー!! どうなってるんだよ、このCPUは!?」

 またしても負けてしまい、思わずして叫んだ。


 明らかにターン数制限が厳しすぎる―――――。

 周囲が僕に対して驚いている中で、挑戦しなおすと判断。


 そんな僕の横に、カバーを掛けた数冊の本を置いてきた奴がいた。

「おい! なんだ……お……前……」

 脅すような感じで接して他所へと移動させようとしたが、その姿を見てそれはできないと判断した。

 青色の髪の胸までのお下げ、黒色の目─────。

 巷では「絶対に名前を間違えてはいけない」と噂のしらふじさんだ。

 普段は冷静だが、その名前を読み間違えようものなら警察沙汰になってもおかしくないレベルで脅し、殴ってくることもあるという。

 彼女も彼女で、「近藤さんの次に恐ろしい」としてたまに名前が挙げられることがあるくらいには近所でも有名だ。


「おい、なんだ―――――工藤か。 普段もそんな感じなのか?」

「いやっ、その、しっ、しっ……しら藤さ……」

「は?」

 鋭い視線が僕に圧力を掛けてくる。

 そんな彼女を前に、僕はまた挙動不審な所を出してしまった。

 その髪や目も赤みがかっていて、臨戦体制とも言える状態だ。

 まあ、黙っていれば切り抜けられるだろうと思っていた。

 そんなはずだった─────。


「さっき間違えそうになってたよな?」

 彼女は舌を打ちながら、更に脅しをかけてくる。

 言葉が出るはずもなく、危機的な状況は続く。

 これが更に長引くと、彼女は左手で僕の胸ぐらを掴んできた。

 

「……もう一度言ってみろ。 猶予はやるぞ、ただし10秒な」

「いやっ、そっ、でも……」

 さすがにこの状況で言えるはずが無い。

 とても早く感じる時計。

「今私が求めているのは、そんな下らない言い訳じゃないんだが……」

 そして彼女から感じる静かな怒り。

 実際、その右手は既に拳を握っている。

 しかし、この状況で素直に誤りを認めることはできない。

 また続く沈黙。


 でも、こんな所で殴られるわけにはいかないんだ!

 助けてくれ!!

 心の中でそう祈り続けたが、届くはずもなく―――――。

「時間切れだ。 もう待たないぞ」

「いやっ……ちょっ、勘弁し―――――」 

 彼女の全力の右フックが、僕の左脇腹に容赦なく突き刺さった。

 軽く吹っ飛ばされた末にうつ伏せの状態になり、端末も別の方向へ。

 

「わざとやったかは知らんが、時間くらいは守れよ。 工藤」

 白藤さんは倒れている僕の姿を尻目に、何かを言い残して去っていく。


 一方で強い攻撃を受けてしまった僕は、立ち上がることすらままならない。

 意識ももうろうとしており、そのまま病院送りになってもおかしくない。


 そんな僕の前に次に現れたのは―――――藤岡さんだった。

 携帯を見ながら、こちらを見つめている。


「こんな所に人が……えっ? 工藤?」

 僕も好きでこんな所で寝てる訳じゃない―――――と思いきや、藤岡さんは僕の左脇腹を覗き見ては、即座に電話をし始めた。

 何かを呼ぼうとしているのか?


 しばらくすると、数台の白に紫色の線が一本描かれた高級車が現れた。

 上空にはヘリコプターも飛んでいる。

 一体何者なのか?

 自分には分からない―――――。

「いきなり何を……」

「倒れている男がいるの、早急に対処して!」

「うーん……これは……手当が必要で……」

「急いで!!」

 相手は分からないが、声の大きさや内容からして急用だと思われているかもしれない。

「……かしこまりました。 まずは車に!」

 その後、僕は数人の黒いスーツの集団に車で搬送された。

 この先がどうなるのかは全然分からない。


 それからさらに時間が経つと、僕は謎の建物の中にいた。

 視界には真っ白な屋根、寝ていたのはいかにも高そうな布団の上―――――。

 周囲を見てみると、吹っ飛ばされたはずの僕の端末がテーブルに置かれ、充電されていた。

「何があった……?」

 ようやく喋れるようになったかと思いきや、マットレスの横に立っていたのはよく分からない人物だった。

 服装からして、藤岡さんと何かしらの関係があるに違いない。

「お嬢様と同じ学校に通われている、工藤様で間違いはなかったでしょうか?」

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